第43話 次世代端末『M-Edge 60 Pro』と【生成AIミュージック】。そして響き渡る『完璧な空』
総合支援施設『ナゴミナ』と『ナゴミン』への完璧な物流(兵站)が確立され、王都の福祉環境は劇的な改善を見せていた。
理事長室で、俺は施設のスタッフたちが日々入力している【サービス提供記録】を、クラウドのフォーム上で確認していた。
「うん。カメイたちが現場で入力した記録が、自動でスプレッドシートに集計されているな。一切の遅延も計算ミスもない。完璧だ」
事務作業の完全な自動化により、スタッフたちは「対象者と向き合う時間」に100%の力を注ぐことができている。
そんな平穏な午後のこと。
バタンッ! と理事長室の扉が開き、ルミナス・ステージが誇るトップアイドル(歌姫)のアリアと、彼女の熱狂的ファンにして特務チームのレオンティーナが駆け込んできた。
「れ、レクト理事長……! 助けてください……っ!」
アリアは目の下に濃いクマを作り、フラフラと倒れ込むようにソファーに沈み込んだ。
「どうした、アリア。次の『英雄誕生祭』のメインステージで歌う新曲の制作で行き詰まっているのか?」
「はい……。歌詞は出来たんです。でも、それに合う伴奏をアレンジする時間がどうしても足りなくて……! 明日のリハーサルまでに、オーケストラとバンドの譜面をすべて書き上げないといけないのに……!」
異世界のアナログな音楽制作では、楽器の演奏者を一人ひとり集め、手書きで譜面を配って練習させるしかない。多忙を極めるトップアイドルの彼女にとって、それは物理的に不可能なスケジュールだった。
「アリアちゃんの倒れる姿なんて見たくない! 理事長、どうかあなたのその『バグ』のような力で、アリアちゃんを救ってあげてください!」
レオンティーナが涙ながらに懇願する。
「まあ落ち着け。対象者のクリエイティビティを物理的な作業量で潰してしまうのは、本意じゃない」
俺はデスクの引き出しから、真新しい、エッジの効いた薄型の魔導端末を取り出した。
「今日から君に支給する、クリエイター専用の最新ハイエンド端末……【M-Edge 60 Pro】だ。圧倒的な処理能力と、最高の音響生成チップを積んでいる」
「えむ・えっじ……? これで、伴走の譜面が書けるんですか?」
「譜面を書く必要すらない」
俺は端末の画面をタップし、新たなアプリケーションを起動した。
【Application_Start:Generative_AI_Music(生成AIミュージック・スタジオ)】
「このアプリに、君の書いた歌詞と、希望するテンポ、感情、ジャンルを入力するんだ。あとはAIが、数秒でプロ顔負けのフルオーケストラやバンドの『伴奏』を自動生成してくれる」
「えっ……!? 数秒で、伴奏が!?」
アリアは半信半疑のまま、M-Edge 60 Proの画面に向かって自分のノートに書いた歌詞を読み上げ、ジャンルを「アップテンポなポップス」に設定した。
俺が実行ボタンを押す。
ピィンッ!
わずか十数秒後。
端末の高品質なスピーカーから、重厚なベースライン、軽快なギターのカッティング、そして壮大なストリングスが完璧にミックスされた、極上の伴奏が流れ始めた。
「なっ……!? すごい……! 私が頭の中で思い描いていた通りの、いや、それ以上に完璧なメロディラインです!」
「これなら、君は面倒な編曲作業から解放され、『歌に魂を込めること』だけに集中できるだろ」
「はいっ……! ありがとうございます、レクト理事長! 私、歌います!」
アリアは立ち上がり、AIが生成した極上のトラックに合わせて、新曲を歌い始めた。
その曲のタイトルは『A Perfect Sky(完璧な空)』。
どこまでも澄み切った、希望に満ちた歌声が理事長室に響き渡る。
「おおおおっ……! アリアちゃんの新曲……最高です! 魂が、魂が浄化されます!」
レオンティーナがペンライト(魔力で光る棒)を振り回しながら号泣している。
「これなら、『Chase the Chance(好機を追え)』のような激しいダンスナンバーも、『Steady』のような落ち着いたバラードも、思いのままだな」
俺はコーヒーを飲みながら、人とAIが融合した次世代のエンターテインメントの誕生に目を細めた。
【翌日・英雄誕生祭のメインステージにて】
「みんなー! 今日は私と一緒に、最高の時間を過ごしましょう!」
アリアの透き通るような声と、AIが生成したド迫力のサウンドが、スマートシティの中央広場を揺らしていた。
一切の妥協がない完璧な音響と、アリアの魂の籠もったパフォーマンスに、数万人の市民たちは熱狂の渦に巻き込まれていた。
「大成功だな。AIはあくまでツールであり、人間の感情やクリエイティビティを【伴走】して引き立てるための最強の裏方だ」
ステージの袖で、俺と財務顧問のアカザワがその様子を見守っていた。
「ええ。この『M-Edge 60 Pro』と音楽生成AIの導入で、都市の文化レベルはさらに数百年分跳ね上がりましたね」
ライブが最高の盛り上がりの中で幕を閉じた後。
「レクト理事長! 本当にありがとうございました! 私、今までで一番楽しく歌えました!」
汗だくで笑顔のアリアと、すっかり声を枯らしたレオンティーナ、そして警備にあたっていたコイケたち特務チームが合流した。
「よくやった。みんな疲れただろ。今日は特別に、俺の奢りでガツンと美味いものを食いに行くぞ」
俺が一行を連れて向かったのは、最近都市に誘致したばかりの、濃厚豚骨ラーメンの名店『ヤマオカ』だった。
「うおおおっ! この太麺に絡みつく、ガツンとくる濃厚な豚骨スープ……! ライブ後の疲れた身体に染み渡ります!」
コイケがラーメンをすすりながら絶叫する。
「ネギのトッピングも最高ですね。栄養をしっかり補給して、また明日からの支援活動に備えましょう!」
レオンティーナやアリアも、アイドルらしからぬ勢いで濃厚ラーメンを平らげていく。
文化と技術、そして最高の食。
すべてが完璧に最適化されたこの都市で、俺たちの終わらないスローライフはさらに豊かな彩りを増していくのだった。
キャラクター・プロフィール
レクト
役割:主人公(日本創紀学園・理事長)
状況:現場の【サービス提供記録】の自動化を完了。激務に追われるアリアを救うため、最新端末『M-Edge 60 Pro』と【生成AIミュージック】を提供。AIを裏方として使いこなし、人間の才能を爆発させる究極のプロデュースを行った。
アリア
役割:ルミナス・ステージのトップアイドル
状況:作曲と編曲のプレッシャーで倒れかけていたが、AIの伴走によって作業から解放される。新曲『A Perfect Sky』を大ヒットさせ、名実ともに大陸最高の歌姫となった。
レオンティーナ
役割:特務チーム研修生 兼 トップオタク
状況:アリアのピンチに理事長室へ直訴。ライブでは最前列でペンライトを振り回し、終了後は濃厚豚骨ラーメン『ヤマオカ』でカロリーと塩分を全力で補給した。




