第41話 勤怠管理システムのバグ【#VALUE!】と、王国の『国家再編計画』
IoTスマート農業の成功により、完全環境都市は食糧問題をも完全に克服した。
学園のシステムによって都市のすべてが自動化・最適化され、市民たちが豊かなスローライフを謳歌している中。
日本創紀学園の理事長室に、かつてないほど切羽詰まった様子の人物が駆け込んできた。
王国から学園に留学(という名の家出)をしてきている、アリシア王女だ。
「レクト理事長! 大変です、お父様……王国の行政機能が完全に停止してしまいました!」
「行政の停止? 王立魔法学園の件で貴族どもが少し大人しくなったと思っていたが、今度は何をやらかしたんだ」
俺が淹れたてのコーヒーを勧めると、アリシアは涙目で首を横に振った。
「王国の内務大臣が、理事長の都市の『自動化』を見よう見まねでパクり……王国全土の公務員と兵士の【魔導・勤怠管理システム】を強引に導入したんです。ですが、稼働した瞬間にシステムが完全にクラッシュしてしまって……!」
「パクるのは勝手だが、基礎的なアルゴリズムも理解せずに運用したのか」
財務顧問のアカザワが呆れたようにため息をつく。
「はい……。給与の計算ができなくなり、王国中の末端兵士や役人たちへの支払いがストップ。このままでは明日にも大規模な暴動が起きて、国が滅んでしまいます!」
俺はコーヒーカップを置き、立ち上がった。
「仕方ない。隣国が暴動で火の海になるのは、うちのインフラや物流にも悪影響が出るからな。出張サポート(デバッグ)に行ってやるか」
【数時間後・王国の王城、中央管理室にて】
「ええい、役立たずの魔導技術者どもめ! なぜ直らんのだ!」
王城の地下にある巨大な水晶板の前で、肥満体の内務大臣が怒鳴り散らしていた。
「だ、ダメです大臣! 水晶板のすべての項目に、謎の古代呪文である【#VALUE!】という恐ろしい文字が浮かび上がり、一切の計算を受け付けません!」
「ふざけるな! 給与が払えなければ、私兵どもがこの城に押し入ってくるのだぞ! 今日中に直せなければ、お前たち全員死刑だ!」
「ひぃぃぃっ!」
技術者たちが絶望の悲鳴を上げた、その時。
「無能な上司が現場に理不尽なプレッシャーをかける。典型的なブラック開発現場だな」
俺とアカザワ、そして護衛の特務チーム【REDANGEL】のコイケたちが、中央管理室に足を踏み入れた。
「き、貴様は日本創紀学園のレクト! なぜここに!」
「アリシア王女からの依頼で、システムの保守点検(尻拭い)に来てやったんだよ。どけ」
俺は内務大臣を突き飛ばし、エラーを吐き出し続けている巨大な水晶板(魔導スプレッドシート)の前に立った。
画面には、数万人分の勤怠データと給与計算のセルが並んでいるが、そのすべてが真っ赤なエラー文字【#VALUE!】で埋め尽くされていた。
「原因は一目瞭然だな」
俺は空中にホログラムのキーボードを展開し、水晶板の計算式(数式バー)を呼び出した。
「おい内務大臣。あんた、役人の『身分(貴族か平民か)』という【文字列データ】と、労働時間の【数値データ】を、同じ計算式の中で無理やり掛け算しようとしただろ」
「な、なんだと? 当然であろう! 高貴なる貴族様は、平民の何倍も給与をもらうのがこの国のルールだ! だから身分をそのまま労働の価値として――」
「エクセル……いや、スプレッドシートはそういう忖度はしてくれないんだよ。数値と文字列を直接演算しようとすれば、計算不能となって【#VALUE!】エラーを吐き出す。そんなのはITの基礎中の基礎だ」
「なっ……!? あの恐ろしい呪文は、ただの『計算式の間違い』だと言うのか!?」
俺は呆れながらキーボードを叩き、間違った計算式を一瞬で書き換えた。
「無駄な身分変数を削除し、純粋な【労働時間】と【成果】のみを参照する数式に最適化。さらに、念のためのエラー回避処理(IFERROR関数)を組み込んで……エンター(実行)だ」
ピィンッ!
俺がキーを叩いた瞬間、水晶板を埋め尽くしていた真っ赤な【#VALUE!】の文字が一斉に消え去り、王国全土の数万人分の正確な給与データが、1円単位の狂いもなく瞬時に再計算された。
「おおおおっ……! 直った! 未払いだった兵士たちの口座(魔導財布)に、正確な給与が振り込まれていきます!」
技術者たちが歓喜の涙を流して抱き合う。
「ば、馬鹿な……我々が何日徹夜しても解けなかった呪いを、たった数秒で……!」
内務大臣が腰を抜かして震える中、俺はアカザワから受け取った分厚い書類の束を、彼と、騒ぎを聞きつけてやってきた国王の前にドサッと置いた。
「レクト殿、これは……?」
「俺が作成した、王国の【国家再編計画書】です」
俺は冷徹な声で国王に告げた。
「この勤怠管理システムのバグは、王国の腐敗した身分制度そのものが引き起こしたエラーです。このままではいずれ国は崩壊します」
俺が提示した計画書には、特権階級の廃止、公正な評価システムの導入、そして教育・福祉制度の根本的な改革案が、完璧な論理とシミュレーションと共に記述されていた。
「こ、これは……! 何百年も先を行く、完璧な統治機構の設計図……!」
国王は計画書をめくりながら、感動で手と唇を震わせた。
「レクト殿! いや、レクト先生! どうか我々を導いてくれ! この愚かな内務大臣は即刻罷免する! あなたのその素晴らしいシステムと理念で、この国を根底から作り直していただきたい!」
「お待ちください陛下! 私をクビにするなど――」
「対象者の公正な労働環境を阻害する旧世代の老害は、我々がデリートする!」
喚く内務大臣を、コイケたち【REDANGEL】が素早く取り押さえた。
「内務大臣、今日からあなたは一介の事務員として、アカザワの指導の下で『正しいスプレッドシートの使い方』を死ぬまでタイピングしてもらいます」
「ひぃぃぃっ! わ、私が平民と同じデスクワークをぉぉぉっ!?」
こうして、ただのシステムエラーの修正から始まった俺の出張サポートは、隣国の国家体制そのものを丸ごと【アップデート】する歴史的な大改革へと発展した。
「ふぅ。これで隣国のインフラも安定したし、うちの都市との連携(API連携)もスムーズにいくな」
俺は、すっかり大人しくなってキーボードのタイピング練習をさせられている元大臣を見下ろしながら、冷えたコーラを煽った。
一国を揺るがす危機すらも、関数一つの修正でスマートに解決する。
日本創紀学園がもたらす革新は、ついに国境を越え、大陸全土を巻き込む巨大なうねりとなっていた。
キャラクター・プロフィール
レクト
役割:主人公(日本創紀学園・理事長)
状況:隣国を滅亡の危機に陥れていた勤怠管理システムの【#VALUE!】エラーを、数式の修正で秒殺。その勢いで【国家再編計画書】を叩きつけ、腐敗した王国の統治機構を丸ごとコンパイルし直した。
アカザワ
役割:財務顧問
状況:レクトが作成した完璧な国家再編計画書に、震えるほどの感銘を受ける。罷免された元大臣の直属の上司となり、鬼のIT研修(タイピングと関数)を叩き込んでいる。
内務大臣(New)
役割:王国の腐敗貴族(ざまぁ完了)
状況:自動化システムをパクって私腹を肥やそうとしたが、文字列と数値を掛け合わせるという初歩的なミスで国を崩壊させかけた。現在は平の事務員に降格し、REDANGELの監視下でデータ入力作業に追われている。
アリシア王女
役割:王国の王女(学園の留学生)
状況:祖国の危機を救ってくれたレクトに対し、もはや崇拝を通り越して絶対的な信頼を寄せている。王国の次期女王としての帝王学をレクトから学んでいる。




