第40話 【IoTスマート農業】と食糧危機。パワードスーツによる究極の『農福連携』
ユニバーサルツーリズムによる慰安旅行を経て、心身ともにリフレッシュした学園の職員と市民たち。
完全環境都市の人口はついに十万人を突破し、大陸有数の巨大都市へと成長していた。
だが、人口の爆発的な増加は、都市のインフラに新たな課題を突きつけていた。
「レクト理事長。このまま人口が増え続ければ、あと一ヶ月で都市の『食糧自給率』が危険水域に達します」
理事長室で、財務顧問のアカザワが深刻な顔でタブレットのグラフを示した。
「折悪く、大陸全土で『瘴気枯れ』と呼ばれる異常気象が発生しており、各地で農作物が不作となっています。このままでは、都市は深刻な食糧難に陥ります」
「なるほど。衣食住のうち、一番の根本である『食』の危機か」
俺が顎を撫でていると、執務室の通信モニターに、傲慢そうな顔をした肥満体の貴族が映し出された。
『ガハハハハ! 困っているようだな、日本創紀学園の若造よ!』
男は、大陸最大の穀倉地帯を支配する農業ギルドのトップ、グラーン伯爵だった。
『我が領地は、平民どもを一日二十時間、休みなしで働かせているおかげで、しこたま小麦を溜め込んである! 食糧が欲しければ、市場価格の百倍の金貨で売ってやってもいいぞ!』
画面の奥では、ボロボロの服を着た農民たちが、重いクワを持って泥だらけで倒れ伏している姿が見えた。
「グラーン伯爵。あなたは農民の健康を完全に無視したブラック労働で、作物を搾取しているようですね」
アカザワが冷たい声で指摘するが、伯爵は鼻で笑った。
『農業とはそういうものだ! 泥水と汗と気合で育てるのだ! 貴様らのように魔導具の板をいじっているだけのモヤシどもに、土の恵みを生み出すことなどできん! せいぜい飢えて泣きつくがいい!』
通信が一方的に切られた。
「……と言っていますが、どうしますか? 彼の言う通り、農業には広大な土地と膨大な労働力、そして天候という不確定要素が絡みますが」
「土と気合だけの農業、ねえ。随分とレガシー(時代遅れ)な考え方だ」
俺は立ち上がり、システムコンソールを展開した。
「天候に左右されず、誰もが安全に、そして楽しく作物を育てられる究極のシステムを構築する。名付けて【IoTスマート農業】だ」
俺は都市の地下に広がる広大な未利用スペースを指定し、実行キーを叩いた。
【Execute:IoT_Smart_Farm_Compiler(完全環境制御型農場の自動構築)】
ピィンッ!
光の粒子が地下空間を駆け巡り、一瞬にして見渡す限りの巨大な「ドーム型農場(巨大植物工場)」が錬成された。
「な、なんですかここは! 太陽の光がない地下なのに、まるで真昼のように明るい……!」
案内されたアカザワが驚愕する。
「天井の『LED魔力光』が、植物の光合成に最適な波長の光を24時間照射しているんだ。土の湿度、栄養素、室温はすべて無数の【IoTセンサー】が監視し、AIが全自動で最適化している」
俺の構築したスマート農場では、天候不良も、害虫も、瘴気枯れも一切関係ない。
完璧な環境下で、作物は通常の数十倍の速度で成長する。
「環境は完璧です! ですが理事長、これほど広大な農場を収穫・管理する『労働力』はどうするのですか?」
「それなら、すでに希望者が集まっているぞ」
ドームの入り口から入ってきたのは、特務支援チーム【REDANGEL】のコイケたちに引率された、数十人の高齢者や、車椅子の市民たちだった。
「ワシらも、昔は農家じゃったんじゃ。この街で安全に暮らせるのはありがたいが、やっぱり土いじりがしたくてのぅ」
「でも、腰も痛いし、もう重い野菜は持てないから……」
彼らは「働きたい」という意欲はあるものの、体力的な問題で農業を諦めていた人々だ。
「心配いりません。我々が、皆様の『働きたい』という心に寄り添い、身体の負担をゼロにする【伴走】を提供します!」
コイケが合図をすると、REDANGELのメンバーたちが、市民たちにスタイリッシュな外骨格型の装具――【魔導パワードスーツ】を装着させていく。
「さあ、動いてみてください。システムがあなたの筋力を検知し、動作を完璧にアシストします!」
「お、おおっ!? 腰がまったく痛くない! 重い肥料の袋が、まるで羽のように軽く持ち上がるぞ!」
「車椅子の私でも、この特殊な作業アームを使えば、高いところにあるトマトが簡単に収穫できるわ!」
農業と福祉を融合させた究極の形、『農福連携』。
AIによる徹底したデータ管理と、パワードスーツによる身体的サポートにより、高齢者や障害を持つ市民たちが、最強の「アグリ・クリエイター」へと変貌したのだ。
【一週間後】
「ば、馬鹿な!? なんだあの巨大で光り輝く野菜はぁぁぁっ!?」
グラーン伯爵は、手元の通信モニターを見て絶叫していた。
スマートシティの市場には、俺たちのスマート農場で収穫された、栄養満点で巨大な野菜や小麦が山のように溢れ返っていたのだ。
しかも、システムによる自動化とパワードスーツで労働コストを極限まで抑えているため、価格はグラーン伯爵の提示した金額の百分の一以下である。
「おまけに……なんだあの楽しそうな農作業は! 農民が笑顔で、泥一つつけずに歌いながら収穫しているだと!?」
『あー、グラーン伯爵。聞こえるか?』
俺が通信をつなぐと、伯爵はビクッと肩を震わせた。
「うちの都市の食糧自給率は、わずか一週間で300%を突破した。余った高品質な作物は、大陸中に格安で輸出させてもらうよ」
「ひぃぃぃっ! や、やめてくれ! そんなことをされたら、我が領地の小麦は完全に暴落し、倉庫で腐るだけのゴミになってしまうぅぅっ!」
「それに、あんたの領地の農民たちから『学園のスマート農場で働きたい』という移住希望のSOS(お問い合わせ)が殺到しているんでね。全員、うちの空飛ぶバスで保護させてもらった」
「領民まで全員いなくなっただとぉぉ!? お、おわりだ……! 私の農業帝国が……!」
グラーン伯爵は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
「さて、コイケ。倒産したグラーン領に出向いて、荒れ果てた土地の土壌改良と、伯爵への【農業コンサルティング】を行ってこい」
「ハッ! 対象者に『正しい土いじり』と『労働者の尊厳』を骨の髄まで教え込む、熱血農業指導を開始します!」
REDANGELが出撃していくのを見送りながら、俺はスマート農場で採れたばかりの、甘くて瑞々しい特大トマトを丸かじりした。
「うん、最高のデキだ」
ITの力で自然環境すらも最適化し、誰もが笑顔で「食」を生み出せる社会。
俺の構築する究極のセーフティネットは、ついに人々の胃袋までも完璧に満たしたのだった。
キャラクター・プロフィール
レクト
役割:主人公(日本創紀学園・理事長)
状況:都市の食糧危機を解決するため、地下に【IoTスマート農業】システムを自動構築。天候や災害を完全に無視したチート農業と、パワードスーツを用いた『農福連携』を実現した。
アカザワ
役割:財務顧問
状況:食糧危機に直面し焦っていたが、レクトのシステムが一週間で市場を野菜で溢れさせたのを見て、新たな食品ビジネス(輸出)の計画に目を輝かせている。
グラーン伯爵(New)
役割:農業ギルドトップ(ざまぁ完了)
状況:農民を酷使して食糧を独占していたブラック領主。レクトのスマート農場に市場を破壊され、農民にも逃げられて破産。現在はREDANGELの監視下で、一からクワの振り方を学び直している。
コイケ(REDANGEL)
役割:特務支援チーム・リーダー
状況:今回はパワードスーツの運用教官として、高齢者や障害者の農作業を安全にサポート。悪徳領主に対する農業コンサルタントとしても辣腕を振るう。




