第35話 【ブロックチェーン】と経済戦争。悪徳金融ギルドの崩壊と完全キャッシュレス社会
職業適性マッチングシステムの導入により、完全環境都市は失業者ゼロの究極の理想郷へと至った。
労働生産性は爆発的に向上し、都市の倉庫には豊かな物資が溢れ返っている。
理事長室で、俺は財務顧問のアカザワと共に、次なる社会基盤のアップデートについて議論していた。
「レクト理事長。都市の人口と物資の流通量が激増したことで、従来の『金貨や銀貨』による物理的な取引が限界を迎えています」
アカザワが、重たそうな金貨の袋をデスクに置きながらため息をつく。
「偽造のリスク、輸送のコスト、そして両替の手間。これだけ高度な都市に、アナログな通貨制度は不釣り合いです」
「同感だ。だから今日から、この都市におけるすべての決済を、クリエイター支援で使っている暗号資産【エールコイン】に完全移行する」
俺は空中にシステム画面を展開し、都市全域のネットワークに新たな決済プロトコルを実装した。
「市民が持っている魔導端末をかざすだけで、瞬時に支払いと給与の受け取りが完了する【完全キャッシュレス社会】だ」
「おおおっ……! 重い財布を持ち歩く必要がなくなり、スリや強盗という犯罪自体がシステム的に不可能になるのですね!」
「さらに、この経済圏は【ブロックチェーン(分散型台帳)】技術で保護されている。俺を含め、誰一人としてデータを改ざんしたり、不正にコインを増殖させたりすることはできない」
絶対的に透明で、公正な経済圏。
市民たちは新しい決済システムをすぐに受け入れ、市場はかつてないほどの活気を見せ始めた。
しかし、その圧倒的な経済的独立を、面白く思わない者たちがいた。
【数日後・都市の中央広場にて】
「ガハハハハッ! なんだこの薄気味悪い街は! 金貨のチャリンという美しい音がまったく聞こえねえじゃねえか!」
数十台の巨大な馬車を引き連れて広場に乗り込んできたのは、毛皮のコートを着込んだ傲慢な大男だった。
大陸中の経済を裏で牛耳る巨大組織、金融ギルド『黄金の天秤』のトップ、ゴルドンだ。
「おい、そこのパン屋! この店にあるパンを全部、俺が買い占めてやる! ほら、金貨だ!」
ゴルドンは、元スパイが営むパン屋のカウンターに、ジャラジャラと大量の金貨を叩きつけた。
「あ、すいません。うちはエールコインの電子決済のみなんで、物理的な金貨はお断りしてるんです」
元スパイのパン屋が、困ったように頭を掻く。
「あぁん!? 俺の金貨が受け取れねえだと!? 大陸のどこでも通用する絶対の価値だぞ! いいから受け取って、パンを全部よこせ!」
ゴルドンの狙いは明確だった。
膨大な金貨の力で都市の物資を強引に買い占め、意図的にインフレ(物価高騰)と品不足を引き起こし、この都市の経済を根底から破壊し乗っ取ることだ。
「ええい、邪魔だ! 力ずくでも物資を奪い取れ!」
ゴルドンが私兵たちに命じ、広場に緊張が走った、その時だった。
「対象者の平穏な経済活動を妨害する不正アクセス(バグ)は、我々が排除する!」
上空から真紅のコートを翻して舞い降りたのは、特務支援チーム【REDANGEL】のコイケたちだった。
「ひゃははっ! なんだお前ら! 金で雇われた衛兵か? なら、この金貨の山をくれてやる! 俺の味方になれ!」
ゴルドンが金貨の詰まった宝箱をコイケに向けて蹴り飛ばす。
しかし、コイケは表情一つ変えず、手元のタブレット端末を操作した。
「我々が仕えるのはレクト理事長の理念のみ。アナログな買収など無意味だ」
ピィンッ!
【Application_Start:Smart_Contract_Enforcer(自動契約執行プログラム)】
コイケがアプリを起動した瞬間、ゴルドンが持ち込んだ大量の金貨が、突如として青白い光に包まれ、「重力固定」されたように地面からピクリとも動かなくなった。
「な、なんだ!? 金貨が……持ち上がらねえ!」
「この都市のブロックチェーン上で『正当な取引』として承認されていない未認証の外部資産は、システムによって物理的な移動が制限される仕様です」
コイケが冷徹に告げる。
レクトの構築したスマートシティでは、システムを通さない不正な売買や、強引な資金洗浄は、物理法則レベルでブロックされるのだ。
「ば、馬鹿な! 俺の全財産が、ただの重たい鉄くずになっただと……!?」
絶望するゴルドンの背後に、いつの間にか俺とアカザワが立っていた。
「ゴルドン代表。あなたの金融ギルドがこれまで行ってきた、弱者からの法外な搾取と不正融資のデータは、俺の【AI監査】ですべて解析済みだ」
俺は空中に、金融ギルドの裏帳簿のデータをすべて投影した。
「なっ……!? なぜ、厳重に隠蔽していた絶対機密の帳簿が……!」
「デジタル化されていない情報なんて、俺のシステムからすれば丸裸も同然だからな。このデータはすでに、大陸中の被害者たちに向けて一斉送信されている」
「お、おわりだ……。俺の築き上げた黄金の帝国が……」
ゴルドンは膝から崩れ落ち、白目を剥いて気絶した。
「コイケ、彼らを連行しろ。後で【相談室】で、アカザワ先生による『正しい金銭教育』をみっちり受けてもらうからな」
「了解しました! 対象者の金銭感覚を根本から矯正する、伴走型支援を開始します!」
REDANGELに引きずられていく悪徳金融ギルドのトップを見送りながら、俺はコーヒーを一口飲んだ。
「これで、物理的な暴力だけでなく、経済的な攻撃に対する耐性も完璧に証明されましたね」
アカザワが、安堵と尊敬の入り交じった笑顔を向けてくる。
「ああ。金貨の重さに縛られない、完全に自由でクリーンな経済圏。これで市民たちは、自分の本当にやりたいこと(価値創造)だけに集中できる」
俺たちの【日本創紀学園】とスマートシティは、剣や魔法だけでなく、経済という概念すらも最適化し、誰もが笑顔で暮らせる揺るぎない理想郷へとさらに一歩近づいたのだった。
キャラクター・プロフィール
レクト
役割:主人公(日本創紀学園・理事長)
状況:都市の取引を暗号資産【エールコイン】に完全移行し、ブロックチェーン技術による改ざん不可能なキャッシュレス社会を構築。アナログな力技で経済を乗っ取ろうとした悪徳ギルドを、スマートコントラクトの力で一蹴した。
アカザワ
役割:財務顧問
状況:レクトの描く「不正が物理的に不可能な経済圏」に感動の涙を流す。捕縛したゴルドンに対し、正しい算数と倫理を教え込む熱血コンサルティングの準備を進めている。
ゴルドン(New)
役割:金融ギルド『黄金の天秤』代表(ざまぁ完了)
状況:大陸の経済を牛耳る傲慢な大商人。大量の金貨で都市の物資を買い占めようとしたが、システムに「未承認アセット」として金貨を凍結され、裏帳簿を暴かれて全財産を失った。
コイケ(REDANGEL)
役割:特務支援チーム・リーダー
状況:金による買収に一切なびかず、タブレット一つで悪徳商人の野望を粉砕。対象者を正しい道へ導くための伴走型コンサルティングに情熱を燃やしている。




