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第36話 死霊王の精神支配と【メタバース】。そして究極の『リモート就労支援』

完全キャッシュレス社会への移行を遂げ、物理的にも経済的にも鉄壁の防御を誇るようになったスマートシティ。

だがある日、理事長室のデスクで、財務顧問のアカザワが一つだけ残された課題を口にした。

「レクト理事長。都市の雇用率はほぼ100%を達成しましたが、どうしても『物理的に働くことが困難な方々』が一定数おられます」

「重い呪いによる後遺症や、高齢で寝たきりの市民たちだな」

俺はコーヒーカップを置き、頷いた。

医療アプリや重度訪問介護のサポートによって彼らの生活の質(QOL)は劇的に向上しているが、「自分も社会の役に立ちたい」「働きたい」という彼らの精神的な欲求までは、ベッドの上では満たしきれない。

「彼らの心に寄り添い、自立を促す伴走型支援の最終形態……。物理的な肉体の制限をシステムで突破する時が来たな」

俺が新たなシステムの構想を練り始めた、まさにその日の深夜だった。

『ウケケケケッ……! 豊かなマナに満ちた都市よ……! 貴様らの魂を、我が無限の悪夢ナイトメアに引きずり込んでくれよう!』

都市の地下深くに封印されていた、数千年を生きる古代の死霊王リッチが突如として覚醒した。

死霊王が放ったのは、都市全域の住民の意識を強制的に「悪夢の異空間」へと引きずり込む、回避不能の広域精神魔法だった。

「な、なんだ!? 体が……透けていく!?」

「周りの景色が真っ暗に……!」

眠っていた市民たちだけでなく、夜勤をしていた衛兵たちも、次々と意識を肉体から切り離され、禍々しい紫色の霧が立ち込める悪夢の空間へと転送されてしまった。

『さあ、恐怖しろ! 絶望しろ! 肉体から切り離された貴様らは、ここで永遠に恐怖を味わいながら我が魔力の贄となるのだ!』

死霊王が高らかに笑い声を上げた、その瞬間。

ピィンッ。

悪夢の空間全体に、無機質で心地よい【起動音】が鳴り響いた。

「……ん? なんだ、この音は?」

死霊王が首を傾げると、紫色の霧がみるみるうちに晴れ渡り、澄み切った青空と、温かみのある木目調の広大な「バーチャルオフィス」のような空間へと瞬時に書き換えられてしまった。

『Alert:不正な精神接続マインド・ジャックを検知しました』

『Action:該当の異空間サーバーを【乗っ取り(ハッキング)】し、初期化を実行。安全な【メタバース環境】へと再構築します』

空中に浮かび上がった巨大なシステムメッセージとともに、俺とアカザワ、そして特務支援チーム【REDANGEL】のメンバーたちが、光の粒子となって空間にログイン(出現)した。

「よし、精神空間クラウドの再構築完了。名付けて、仮想就労支援プラットフォーム【創紀メタバース】だ」

俺が指を鳴らすと、市民たちの姿が、それぞれが事前にシステムに登録していた「理想の自分アバター」へと変化した。

猫耳の可愛らしい姿になる者、屈強な騎士の姿になる者。

そして何より――現実世界では寝たきりで動けなかった高齢者や重病の患者たちが、アバターの姿で元気いっぱいに跳びはねていた。

「うおおおっ!? 足が……足が動くぞ!」

「腰も痛くない! 空だって飛べるわ!」

「ここでは肉体の制限は一切ないからな」

俺は歓喜する市民たちに向かって宣言した。

「この【メタバース】内では、書類作成やデータ分析、さらには現実の魔導機械の遠隔操作テレワークまで、すべての仕事が完結するようシステムを紐付けてある。現実でベッドから起き上がれなくても、ここでは誰もが自由に働き、対等に交流できるんだ!」

「おおおおっ……! レクト理事長! これこそが、究極のバリアフリー! 肉体の壁すら越える『リモート就労支援』ですか!」

アバター姿のアカザワが、感動のあまりバーチャル空間の床に崩れ落ちて号泣している。

一方、状況がまったく理解できない死霊王は、杖を振り回して激怒した。

『ふ、ふざけるなぁぁっ! ここは我が作り出した恐怖の悪夢だぞ! なぜ貴様らが勝手にオフィスに改装して、しかも楽しそうにテレワークを始めているのだ!』

死霊王は強大な即死魔法を詠唱しようとしたが、コイケたち【REDANGEL】が瞬時に立ち塞がった。

「対象者の安全な労働環境を脅かす荒らし行為スパムは、システム管理権限モデレーターによって排除する!」

コイケが空中に展開した管理者用コンソールをタップする。

【Command:Ban_Magic(魔法詠唱の禁止)& Muteミュート

『我が究極のデス・メテオを食らえぇぇ……って、あれ? 声が出ない!? 魔法も発動しない!?』

「ここはレクト理事長が管理する仮想空間。管理者権限を持たない一般ユーザー(死霊王)の攻撃判定など、ボタン一つで無効化できる」

さらに、タダとアンドウが死霊王の背後に回り込み、バーチャルな手錠(行動制限プログラム)をガチャリと嵌めた。

『ひぃぃぃっ!? や、やめろ! 我は数千年を生きる大アンデッドだぞ!』

「年齢は関係ありません。あなたがこのサーバー(悪夢)を立ち上げたおかげで、我々はメタバース環境を構築する手間が省けました。そのサーバー維持費は、あなた自身に労働で払っていただきます」

俺が冷酷に告げると、死霊王の目の前に山のような「カスタマーサポートの未対応チケット」がドサッと出現した。

「今日からあなたは、このメタバース内の【初心者案内窓口ヘルプデスク】の担当です。アンデッドなら睡眠も休憩も必要ありませんよね? 24時間365日、市民からの問い合わせに丁寧な言葉遣いで対応してください」

『そ、そんなブラックな労働環境……! 嫌だ、土に還してくれぇぇぇっ!』

泣き叫ぶ古代の王だったが、システムに完全にログイン情報を握られているため、逃げ出すことは一生不可能だった。

「レクト理事長! 私、ここでなら案内係のお仕事ができそうです!」

「ワシは若い者たちに、昔の知恵を教えるバーチャル講師をやろう!」

現実世界では身体の自由が利かなかった市民たちが、メタバースという新たな職場で、目を輝かせながら自分の居場所を見つけていく。

「よしよし。これで文字通り、すべての市民の伴走支援が完了したな」

悪夢すらも「リモートワークの拠点」へと書き換える。

日本創紀学園が提供する圧倒的な福利厚生とITシステムの前では、魔王も死霊も、ただの便利な【インフラの一部】でしかなかった。

キャラクター・プロフィール

レクト

役割:主人公(日本創紀学園・理事長)

状況:死霊王の精神攻撃を逆手に取り、仮想就労支援プラットフォーム【創紀メタバース】を構築。寝たきりの市民がアバターを通じて働ける究極の「テレワーク環境」を実現した。

アカザワ

役割:財務顧問

状況:肉体の制限すら突破するレクトのシステムに、もはや崇拝の念を隠しきれない。メタバース内での新たな経済サイクルの確立に奔走している。

死霊王リッチ(New)

役割:古代のアンデッド(ざまぁ完了)

状況:市民の魂を悪夢に引きずり込もうとしたが、サーバーを乗っ取られてメタバース化される。現在は管理者権限で能力を封印され、24時間年中無休でヘルプデスクのクレーム対応をさせられている。

コイケ(REDANGEL)

役割:特務支援チーム・リーダー(空間モデレーター)

状況:メタバース内ではシステム管理権限モデレーターを付与されており、荒らし行為を行う敵をボタン一つで無力化(BAN)する、絶対的な治安維持を行っている。

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