第34話 【職業適性マッチング】と個別支援計画。そして王都のスパイの寝返り
魔獣の大暴走から救い出された東の商業都市は、俺のシステムによって【完全環境都市】として奇跡の復興を遂げた。
安全な防壁、清潔なインフラ、そして快適な住環境。
この夢のような都市の噂は、瞬く間に大陸中へと広まり、近隣の村や他国から「移住したい」という難民や希望者が爆発的に押し寄せる事態となっていた。
日本創紀学園の分校として設立した、都市の中央管理棟。
そこの執務室で、財務顧問のアカザワが山積みの書類を前に頭を抱えていた。
「レクト理事長……。移住希望者の受け入れは順調ですが、新たな問題が発生しています」
「問題? インフラのキャパシティはまだ余裕があるはずだが」
「物理的なインフラではなく、『雇用』です。農業しかしたことのない者、怪我で職を失った元兵士など、多様なバックグラウンドを持つ数万人に対し、この高度な都市でどのような仕事を与えればいいのか……。人力での適性審査は完全に限界を突破しています」
誰もが安全に暮らせる器(都市)を作っても、そこで生きがいを持って働く場所(中身)がなければ、社会はいずれ腐敗する。
「なるほど。ただ衣食住を与えるだけの『過保護』は、俺たちの理念じゃないからな。一人ひとりが自立して輝ける場所を見つけるための【伴走】が必要だ」
俺はホログラムのシステムコンソールを展開し、新たなアプリケーションのコーディングを開始した。
「全市民の適性と潜在能力をAIでスキャンし、最も輝ける天職へと導く【職業適性マッチング・システム】を起動する。さらに、就業までのステップを細分化した『個別支援計画』を全自動で生成させるぞ」
ピィンッ。
俺がエンターキーを叩いた瞬間、都市の全住民が持つ魔導端末に、一斉に新たなアプリがインストールされた。
「市民一人ひとりに数問の簡単なアンケート(心理テスト)を答えてもらうだけで、AIが隠れた才能をパーセンテージで割り出し、最適な職場とマッチングさせる仕組みだ」
「な、なんと……! 数万人の適性検査と就業支援を、たった数秒のシステムで……!」
アカザワが目を見開く中、都市のあちこちで驚きの声が上がり始めていた。
【スマートシティ・中央広場にて】
「なんだこの画面は? 『あなたの隠された才能は:魔導具の精密組み立て(適性98%)』だと!?」
右腕に怪我を負い、剣を振れなくなって絶望していた元傭兵の男が、タブレットを見て呆然としていた。
「俺はもう戦えないゴミだと思っていたのに……。手先の器用さと集中力が、精密作業に向いている……?」
画面にはさらに、【個別支援計画】として、どのような訓練を積めば技術者になれるのかというロードマップと、学園の無料研修コースへの案内が親切に表示されていた。
「俺は……俺はまだ、この新しい街で役に立てるのか……!」
男は涙を拭い、案内された研修所へと力強く走り出した。
このようにして、才能を持て余していた孤児が天才的な魔法農家になったり、接客業に向いていないと悩んでいた青年が優れたデータ分析官としてスカウトされたりと、都市の労働生産性は爆発的に向上していった。
【一方その頃、王都から潜入したスパイたちは】
「……おい。なんだこの街は。どうなっている」
スマートシティの路地裏で、ボロボロの旅人に扮した三人の男たちが顔を引きつらせていた。
彼らは、人口流出に危機感を覚えた王都の保守派貴族たちが送り込んだ、工作員である。
「我々の任務は、この都市の住民たちに『学園に支配されている』というデマを流し、暴動を起こさせることだったはずだ……」
「あ、ああ。だが、街のどこを見渡しても、不満そうな顔をしている奴が一人もいねえ! それどころか、全員が目をキラキラさせて自分の仕事に熱中してやがる!」
彼らがどれだけ「学園の理事長は悪魔だ!」とデマを囁こうとしても、市民たちは「は? レクト様は俺の天職を見つけてくれた恩人だが?」と全く取り合ってくれない。
「くそっ、これじゃあ工作のしようがない……!」
焦ったリーダー格のスパイが、自分の身分を偽装するために支給されたタブレット端末を乱暴に操作した。
その時、間違えて【職業適性マッチング・システム】のアイコンをタップしてしまった。
ピロリンッ。
『スキャン完了。あなたの隠された才能は:【一流のパン職人(適性99.9%)】です』
「……は?」
画面には、彼自身も忘れていた子供の頃の夢――「美味しくて温かいパンで、人を笑顔にしたい」という願望が、完璧なデータとして可視化されていた。
『あなたは長年、汚れ仕事や嘘をつく任務に心をすり減らしてきましたね。でも大丈夫。この都市では、あなたの真の才能(パン作り)を活かすためのサポートが完全に用意されています。共に歩みましょう』
「…………っ!」
AIが生成した、あまりにも優しく、心に寄り添う【個別支援計画】のメッセージ。
血みどろの暗殺や工作しか知らなかったスパイの目から、ボロボロと大粒の涙が溢れ出した。
「リーダー!? どうしたんですか!」
「……俺は……俺は本当は、美味しいパンが焼きたかったんだぁぁぁぁっ!!」
リーダーはスパイの暗器をその場に投げ捨てた。
「お前らもやってみろ! 王都の腐った貴族の命令なんかより、この街のシステムの方がよっぽど俺たちの【心】をわかってくれている!」
部下の二人も恐る恐るアプリを起動すると、それぞれ『保育士(適性95%)』『服飾デザイナー(適性96%)』という結果が表示され、その場で号泣し始めた。
こうして、王都が送り込んだ冷酷なスパイたちは、誰一人として暴動を起こすことなく、その日のうちに美味しいパン屋と保育所を開業し、都市の平和な発展に大いに貢献することになったのだった。
「よし、マッチングシステムの稼働も順調だな」
監視モニターでスパイたちが楽しそうにパンをこねている姿を確認し、俺は満足げにコーラを飲んだ。
システムとAIが導き出す、争いのない完璧な適材適所。
日本創紀学園が統べるこの都市は、名実ともに大陸最高の【理想郷】へと至ったのだ。
【キャラクター・プロフィール】
【レクト】
役割:主人公(日本創紀学園・理事長)
状況:数万人の市民の雇用問題を解決するため、【職業適性マッチング・システム】と【個別支援計画】の自動生成AIを開発。すべての市民が生きがいを持って働ける、究極の適材適所の社会を構築した。
【アカザワ】
役割:財務顧問
状況:数万人規模の雇用問題に胃を痛めていたが、レクトのシステムが一瞬でそれを解決し、都市の生産性が跳ね上がったデータを見て歓喜の涙を流している。
【王都のスパイ(元)】
役割:敵の工作員(ざまぁ&救済完了)
状況:都市に暴動を起こすために潜入したが、マッチングアプリによって自分の「本当の夢(パン職人)」を思い出させられ、心境が激変。暗器を捨て、現在は行列のできる大人気ベーカリーの店長として幸せなスローライフを送っている。




