第32話 【緊急災害速報】と魔獣の大暴走。特務チームによる広域避難支援
専用の仮想通信網と、クリエイター支援プラットフォーム【ルミナス・ステージ】の大成功により、学園のシステムは大陸中の人々の生活に欠かせないインフラになりつつあった。
ある日の午後。理事長室で平和にコーヒーを飲んでいた俺のタブレット端末が、突如としてけたたましい警告音を鳴らした。
ピロロロロッ! ピロロロロッ!
「なんだ!? システム障害か?」
俺が画面を覗き込むと、大陸全土に配置した通信端末が収集している環境データが、一箇所で異常な数値を叩き出していた。
『Alert:東部山岳地帯ニテ、極メテ大規模ナ魔力ノ異常隆起ヲ観測。魔獣ノ大暴走ガ発生シマシタ』
【生成AI】が空中に投影したホログラムマップには、無数の赤い点が東の商業都市に向かって濁流のように押し寄せている様子が映し出されていた。
「スタンピードだと……!? 数万規模の魔獣の群れです! このままでは、数時間で東の商業都市が壊滅します!」
報告を受けた財務顧問のアカザワが、顔面を蒼白にして叫んだ。
東の商業都市といえば、先日コンサルティングを行って経営を立て直した、若き院長ルークの治療院がある場所だ。
「被害規模が大きすぎる。都市の防壁じゃ持ちこたえられないな」
俺は即座に決断を下した。
「都市の全住民を、この学園の絶対防壁の中へ避難させる。【広域避難支援】のオペレーションを開始するぞ」
俺はシステムのコンソールを叩き、大陸中の全端末に向けて強制割り込みのプッシュ通知を送信した。
【緊急災害速報(Emergency Alert)】
商業都市の広場や各家庭にある通信端末から、一斉に緊迫したサイレン音が鳴り響く。
『魔獣の大暴走が発生。都市の防壁到達まで残り2時間。住民の皆様は、端末のマップに表示された最寄りの「ピックアップポイント」へ至急移動してください。学園の救助車両が向かいます』
「な、なんだこの音は!?」
「画面に地図が出てるぞ! ここに向かえばいいのか!」
かつてない事態にパニックになりかけた市民たちだったが、手元の画面に「安全な避難ルート」と「到着までの残り時間」が明確に表示されたことで、奇跡的に秩序を保ったまま移動を開始した。
「よし、情報伝達は完了だ。コイケ、出番だぞ!」
「ハッ! 特務支援チーム、全機出撃準備完了しております!」
学園のグラウンドには、俺がシステムで量産した数十台の【移動支援車両(空飛ぶ大型バス)】がズラリと並んでいた。
真紅のコートを纏ったコイケたち特務チームのメンバーと、新人のレオンティーナがそれぞれのバスに乗り込む。
「目標は東の商業都市! 対象者を一人残らず保護し、安全な場所へエスコートする究極の【移動支援】だ! 出るぞ!」
ゴゴゴゴゴォォォッ!!
数十台の空飛ぶバスが、一斉に空高く舞い上がり、音速を超えて東の空へと消えていった。
【東の商業都市・ピックアップポイント】
「急いで! お年寄りと子供を先に乗せて!」
ルーク院長が、衛兵たちと協力して市民を誘導していた。
上空から次々と舞い降りる巨大な空飛ぶバスに、市民たちが吸い込まれるように乗車していく。
車内は魔法の空間拡張により見た目以上の収容力があり、さらにパニックを鎮めるためのリラクゼーション音楽と、適温の空調が完備されていた。
だが、避難が完了する直前。
ズズズズズッ……!
地鳴りとともに、都市の防壁をぶち破って、巨大な魔獣の先陣が都市内になだれ込んできた。
「ひぃぃっ! ま、魔獣だぁぁっ!」
「まだ逃げ遅れている人がいるのに!」
絶望的な悲鳴が上がった、その瞬間。
「対象者の安全を脅かすバグは、私がデリートする!!」
上空のバスから飛び降りた銀色の閃光――元帝国将軍のレオンティーナが、大剣を構えて魔獣の群れの前に立ちはだかった。
彼女の目には、かつての冷酷な将軍の光はない。ただ純粋に「弱者を守る」という、学園の研修で叩き込まれた伴走者の魂が燃えていた。
さらに彼女の視界には、俺が支給したスマートグラスを通じて【予測照準アシスト(エイムボット)】のデータがリアルタイムで投影されている。
「見切れる! システムが、すべての敵の死角を教えてくれる!」
ザシュゥゥゥッ!!
レオンティーナの大剣が、凄まじい速度と完璧な最適化ルートを描き、先陣の巨大魔獣たちを一瞬にして細切れのポリゴンへと変えた。
「す、すげえ……! あの剣士、一人で魔獣の群れを……!」
「今のうちに全員バスに乗るんだ! 急げ!」
コイケたちの的確な誘導により、最後の一人まで市民を乗せ終わったバスのドアが閉まる。
「レオンティーナ、撤収だ!」
「了解!」
彼女が跳躍して最後尾のバスに飛び乗ると同時に、車両は一斉に空へと舞い上がり、魔獣の群れが完全に都市を飲み込む寸前で離脱に成功したのだった。
【日本創紀学園・上空】
「……嘘だろ。何十万人という市民が、誰一人欠けることなく避難できたなんて……」
ルーク院長をはじめとする市民たちは、空飛ぶバスの窓から、絶対に安全な神の領域――日本創紀学園の広大な敷地を見下ろして感涙にむせんでいた。
学園のグラウンドには、急造された快適な仮設住宅(俺がAIにデザインさせ、数秒で錬成したものだ)と、温かい炊き出しの準備がすでに整っている。
理事長室でオペレーションの完了を見届けた俺は、深く息を吐いた。
「よし、全対象者の保護完了だ。被害は建物だけで済んだな」
「理事長、本当に見事な手腕でした。ですが、彼らの故郷である都市は魔獣に占拠されたままです……」
アカザワが沈痛な面持ちで言う。
「ああ。だから、魔獣を駆除した後は、俺たちの【コンサルティング】と【システム】を使って、元の都市よりも何倍も住みやすい、完璧なスマートシティを再建してやるさ」
俺は不敵に笑い、次なる『都市再建プロジェクト』の青写真をシステム画面に描き始めた。
災害すらもワンクリックのシステムで乗り越え、すべてをより良いものへとアップデートしていく。俺たちの学園は、ついに大陸の究極の『セーフティネット』としての地位を確立したのだった。
【キャラクター・プロフィール】
【レクト】
役割:主人公(日本創紀学園・理事長)
状況:通信網を利用した【緊急災害速報】システムを開発。魔獣の大暴走をいち早く察知し、空飛ぶバスの大部隊を派遣して、数十万人の市民を無傷で避難させるという神業を成し遂げた。
【レオンティーナ】
役割:特務支援チーム研修生
状況:戦闘狂の将軍から「対象者を守る盾」へと精神的な成長を遂げた。システムの【予測照準アシスト】を組み合わせた彼女の剣技は、もはや災害レベルの魔獣すら一蹴する強さを誇る。
【ルーク】
役割:治療院院長
状況:再び訪れた絶望的な危機を、またしても学園のシステムと特務チームに救われる。学園への信頼はもはや信仰の域に達している。




