第31話 専用通信網の確立と、クリエイター支援プラットフォーム。そして歌姫アリア
学園のコンサルティング部門の活躍により、大陸中の悩める事業主たちから、連日のようにお問い合わせが殺到していた。
理事長室のデスクで、俺は膨大な通信トラフィックを処理するためのインフラ整備を行っていた。
「理事長、各地からの通信依頼が多すぎて、既存の魔法陣ネットワークがパンク寸前です!」
システム管理アシスタントのミレナが、慌てた様子で報告してくる。
「わかってる。だから今日、学園専用の完全に独立した【仮想専用通信網】を構築したところだ」
俺は空中にシステム画面を展開し、新たに設定した通信プロトコルを指差した。
「これからは、すべての公式なやり取りはこの強固な専用回線を介して行う。これで外部からのハッキングも、情報漏洩も完全に防げる」
「わぁ……! なんだかよくわかりませんが、学園専用の安全な通信の道が出来たのですね! かっこいいです!」
ミレナが目を輝かせる。インフラの基盤が整ったことで、俺は次なる文化的なプロジェクトに着手することにした。
「インフラが安定したなら、次は【エンターテインメント】の拡充だ。俺の小説だけでなく、大陸中に眠っている才能……歌い手や絵師といったクリエイターたちを支援する仕組みを作る」
この異世界では、芸術家や吟遊詩人は路上で日銭を稼ぐしかなく、ほとんどの者が才能を咲かせる前に飢え死にしてしまっていた。
「そこで開発したのが、このデジタルクリエイター支援プラットフォーム……名付けて【ルミナス・ステージ】だ」
俺がタブレットを操作すると、色鮮やかでポップな画面が立ち上がった。
「これは、ファンが月額料金を払ってクリエイターの『ファンクラブ』に入会したり、直接支援ができるシステムだ。決済には、学園が独自に発行した暗号資産【エールコイン】を使用する」
「エールコイン……! またしても理事長の天才的な発想……! これなら、遠く離れた場所にいる芸術家にも、安全に活動資金を届けられますね!」
財務顧問のアカザワが、その完璧な経済圏の構築に深く感嘆する。
プラットフォームを一般公開して数日後。
俺の端末に、システムから一件の自動通知が届いた。
【Notification:ルミナス・ステージにて、新規クリエイター『アリア』が初投稿を行いました】
「ん? 新規の歌い手か。ちょっと覗いてみるか」
俺はタブレットで、アリアという少女の配信ルームを開いた。
画面の向こうには、みすぼらしい服を着た、透き通るような銀髪の少女が、小さなリュートを抱えて座っていた。
『あ、あの……はじめまして。アリア、です。今日は、私のオリジナル曲を聴いてください……』
彼女が歌い始めた瞬間。
「……っ!」
理事長室にいた俺、アカザワ、ミレナの三人は、言葉を失った。
それは、魂の奥底まで震わせるような、圧倒的で透明感のある歌声だった。魔法など一切使っていないのに、聴く者の心を浄化するような響き。
だが、画面の端に表示されている彼女の「ファンクラブ会員数」は【0】。
視聴者数も、俺たち以外には誰もいなかった。
『……ふぅ。やっぱり、誰にも聴いてもらえないのかな……。今日のご飯代もないし、もう歌うのは諦めて、工場に働きに出よう……』
アリアが悲しそうにうつむき、配信を切ろうとしたその時。
「こんな天才を埋もれさせるわけにはいかないだろ」
俺は即座に【エールコイン】を大量にチャージし、彼女のファンクラブに加入した。さらに、配信画面の『投げ銭』ボタンを連打する。
ピロリンッ! ピロピロピロリーンッ!!
画面上に、派手なエフェクトと共に大量のコインが降り注いだ。
【レクトさんが、アリアのファンクラブに入会しました!】
【レクトさんが、100,000エールコイン(約100万G相当)をプレゼントしました!】
『……えっ?』
画面の向こうで、アリアがリュートを取り落とし、目を丸くして固まった。
『い、じゅ、十万コイン!? えっ!? 夢!? 幻覚魔法!?』
「幻覚じゃないぞ、アリア。君の歌声は最高だ。これで美味しいものを食べて、新しい楽器を買って、これからも歌い続けてくれ」
俺がチャット欄にそう打ち込むと、アリアは画面越しにポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。
『あ、ありがとうございます……っ! 私、歌っててよかった……! 本当に、ありがとうございますぅぅっ!』
俺のギフトが起爆剤となり、ルミナス・ステージの『急上昇ランキング』にアリアの配信が一気にトップ表示された。
それを見た学園の生徒たちや、大陸中のユーザーが次々と彼女のルームになだれ込んでくる。
「なんだこの神曲は!?」
「すげえ才能だ! 俺もファンクラブに入るぞ!」
「エールコイン投げまくるぜぇぇっ!」
あっという間にアリアのファンクラブ会員数は数万人に膨れ上がり、彼女は一夜にして大陸最高の【歌姫】へと成り上がったのだった。
【一方その頃、学園の訓練場にて】
「アリアちゃんの新曲キタァァァァッ!!」
帝国から亡命してきた元最強の将軍レオンティーナが、タブレットを握りしめて血走った目で絶叫していた。
彼女は小説の大ファンであると同時に、今や完全にアリアの『ガチ恋勢』へと変貌していた。
「コイケ先輩! 今月の給料、全額エールコインに換金してアリアちゃんに投げ銭してもいいですか!?」
「バカヤロウ! 推し活は生活に支障のない範囲で計画的に行うのが特務部隊のルールだ! まずは家賃と食費を確保しろ!」
コイケがハリセンでレオンティーナの頭を叩き、厳しい【推し活コンサルティング】を行っている。
「レクト理事長のおかげで、才能ある者が正当に評価される時代が来たのですね……」
アカザワがしみじみと呟く。
専用通信網の確立から始まった、俺のクリエイター支援事業。
それは、剣と魔法の殺伐とした異世界に、【推し活】という新たな熱狂と平和をもたらすことになったのだった。
【キャラクター・プロフィール】
【レクト】
役割:主人公(日本創紀学園・理事長)
状況:インフラ整備のために学園専用の安全な仮想専用通信網を構築。さらにクリエイター支援プラットフォーム【ルミナス・ステージ】と暗号資産【エールコイン】を開発し、才能ある若者を直接支援するパトロンとしての活動も開始した。
【アリア】(New)
役割:ルミナス・ステージの歌姫
状況:才能がありながらも貧困にあえいでいたが、レクトの圧倒的な投げ銭によって見出される。現在は大陸を代表するトップアイドルとして、多くのファン(と元将軍)を魅了している。
【レオンティーナ】
役割:特務チーム研修生(元帝国将軍)
状況:小説だけでなく、アリアの配信にもドハマりし、給料のすべてをエールコインに注ぎ込もうとする重度のオタクと化している。コイケから「計画的な推し活」の指導を受けている。




