第25話 【個別支援計画】と【給与明細】。そして特務部隊の最上位ランク『REDANGEL』
帝国最強の将軍レオンティーナが、ただの「Web小説のファン」として亡命してきてから数日が経った。
理事長室のデスクで、俺は彼女の今後の育成方針を決めるための書類を作成していた。
「よし、レオンティーナの【個別支援計画】はこれで完成だな」
俺がシステム画面に入力したのは、彼女の適性や目標を詳細に分析し、どうすれば一人前の【伴走者】になれるかを導き出したロードマップだ。
「血生臭い戦闘しか知らない彼女には、まず『他者を守る喜び』を学んでもらう必要がある。そのためには……」
俺が計画書を保存したタイミングで、コンコンとドアをノックする音が響いた。
「レクト理事長、失礼いたします。特務支援チーム【RED】、全員揃いました!」
リーダーのコイケを筆頭に、ミクニ、タダ、アンドウ、タダノの5人が、一糸乱れぬ動きで部屋に入ってくる。
その後ろには、すっかり毒気が抜け、真面目な研修生のような顔つきになったレオンティーナも続いていた。
「ああ、ご苦労。今日は月末の締め日だからな、みんなに渡すものがある」
俺は空中にシステム画面を展開し、【給与計算】のアプリを起動した。
日々の業務日報、移動支援のルート実績、そして対象者へのサポート貢献度。
俺のシステムは、それらのデータを一瞬で集計し、一切の不正や未払いがない完璧な【給与明細】を空中にプリントアウトした。
「まずは今月の給与だ。みんな、本当によくやってくれた」
俺が手渡した封筒の中身を見て、レオンティーナが悲鳴のような声を上げた。
「な、なんですかこの金額は……!? 私が帝国で将軍として受け取っていた給金より、桁が一つ……いや、二つ多いではありませんか!?」
「うちの学園は完全な実力主義かつ、ホワイトな報酬体系だからな。お前も研修生とはいえ、きっちり成果を出せばこれくらいは当然だ」
「おおおっ……! 八咫先生……いえ、理事長! 私は一生、あなた様に付いていきます!」
帝国では一部の貴族だけが富を独占し、兵士たちは薄給で使い捨てにされていた。
透明で公正な給与システムという【当たり前の権利】に触れ、元将軍は再び感動の涙を流している。
「そして、コイケ、ミクニ、タダ、アンドウ、タダノ。お前たち5人には、さらに渡すものがある」
俺はデスクから、金色の装飾が施された5枚の辞令を取り出した。
「【昇進書類】だ」
「しょ、昇進……!?」
コイケたちが息を呑む。
「お前たちのサッポロ地区での完璧なコンサルティングと、平素の圧倒的なサポート実績を高く評価する」
俺は彼らの顔を一人ずつ見渡し、厳かに宣言した。
「今日この瞬間をもって、お前たち特務支援チームのランクを最上位へと引き上げる。これからは【REDANGEL】と名乗ることを許す」
「「「【REDANGEL】……!!」」」
ピィンッ。
俺がシステムで権限を付与した瞬間、彼らの着ていた制服が光に包まれ、深紅のスタイリッシュなロングコートへと自動でアップデートされた。
その背中には、誇り高き『真紅の天使』を模したエンブレムが輝いている。
「おおおおっ……! 力が……対象者を救うための優しき力が、全身から溢れてきます!」
「我ら【REDANGEL】! レクト理事長の理念を翼に乗せ、大陸中のあらゆる悩める人々を救済してみせます!」
感極まって敬礼するコイケたち。
彼らはもはや、単なる実動部隊ではない。
対象者の心にどこまでも寄り添い、共に歩む【伴走型支援】の究極系――まさに救済の天使へと進化したのだ。
「レオンティーナ、お前も彼らの背中を見てしっかり学べ。個別支援計画の通りにカリキュラムをこなせば、お前もすぐに天使の仲間入りだ」
「は、はいっ! 私、死ぬ気で……いえ、生きる気で頑張ります!」
活気に満ちた彼らを見送りながら、俺は冷えたコーラで祝杯をあげた。
【一方その頃】
ガルディア帝国の玉座の間は、もはや国としての機能を完全に喪失しかけていた。
「へ、陛下……! 申し上げます! 軍の兵士たちが、一斉にストライキを起こしました!」
「なんだと!? なぜだ!」
皇帝が青ざめた顔で叫ぶ。
「そ、それが……日本創紀学園の『ホワイトな労働環境』と『完璧な給与システム』の噂が、帝国軍の末端にまで知れ渡ってしまいまして……」
情報大臣が震えながら報告する。
「『俺たちも週休二日にしろ』『給与明細をきっちり出せ』『残業代を払え』と暴動が起きております!」
「ば、馬鹿な……! 軍隊とは、気合と根性と皇帝への絶対の忠誠で動くものではないのか!」
古い独裁国家の常識しか知らない皇帝には、労働者の権利という【現代の概念】が全く理解できなかった。
「さらに、レオンティーナ将軍の亡命に触発され、文官や職人たちも次々と国境を越えて学園へと逃亡しております! 我が国の国庫は空っぽ、経済は完全に崩壊しました!」
「おのれぇぇぇっ! 武力でもなく、魔法でもなく……【福利厚生】と【エンタメ】で、我が誇り高き帝国を滅ぼすというのかぁぁぁっ!」
剣を交えることすらなく。
俺が学園で構築した「当たり前の生活を保証するシステム」は、圧倒的な魅力となって、敵国を内側から完全に瓦解させてしまったのだ。
【キャラクター・プロフィール】
【レクト】
役割:主人公(日本創紀学園・理事長)
状況:【給与計算】システムで月末の事務処理を完璧にこなし、レオンティーナの【個別支援計画】を立案。さらに実績を上げたREDチームに【昇進書類】を交付し、彼らを特務部隊の最上位ランクへと引き上げた。
【REDANGEL】(New)
役割:最上位特務支援チーム
メンバー:コイケ、ミクニ、タダ、アンドウ、タダノ
状況:レクトから昇進を認められ、【RED】から【REDANGEL】へと進化。真紅のコートを身に纏い、対象者に寄り添う伴走型支援のプロフェッショナルとして大陸中にその名を轟かせることになる。
【レオンティーナ】
役割:特務チーム研修生(元帝国将軍)
状況:初めて受け取った透明性の高い【給与明細】と、自分専用の【個別支援計画】に触れ、レクトへの忠誠心がもはや神への信仰レベルに到達した。
【ガルディア皇帝】
役割:ざまぁ完了
状況:武力ではなく「ホワイトな労働条件」という現代の概念の前に、軍部と国民から完全に愛想を尽かされ、国家崩壊の憂き目に遭っている。




