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第24話 帝国最強将軍の亡命。そして【雇用契約】と【内部研修】

「……頼む! 武器はすべて捨てる! だから私を、あの結界の中に入れてくれ!」

日本創紀学園を覆う【絶対防壁ファイアウォール】の境界線。

そこに、帝国の誇る最強の女将軍レオンティーナが、たった一人で土下座していた。

彼女の背後には、帝国軍の追手たちが数十人ほど迫っているが、彼女は振り返りもしない。

「私はただ、『八咫日本』先生の最新話が読みたいだけなのだ! あそこで物語が途切れたら、私の精神がもたない!」

監視モニターでその様子を見ていた俺は、思わず苦笑してしまった。

まさか、ちょっとした情報戦のつもりで配信した【Nコード】の小説が、敵国の最高戦力を単騎で亡命させてしまうとは。

「理事長、どうしますか? 彼女は帝国の将軍……罠かもしれません」

移動支援部門のサトウが警戒するが、俺は首を振った。

「いや、あの目を見ればわかる。あれは狂信的な『読者』の目だ」

俺はシステムを操作し、結界の一部を開いてレオンティーナを学園の敷地内へと招き入れた。

「おお……! ここが、八咫先生の物語を生み出す神聖なる学園……!」

泥だらけの軍服姿のまま、レオンティーナは感動に打ち震えている。

俺が彼女の前に歩み出ると、彼女は鋭い眼光を俺に向けた。

「貴殿がこの学園の責任者か。頼む、私を八咫日本先生に会わせてくれ! そして第43話の原稿を読ませてほしい!」

「ああ、それなら俺のタブレットに入ってるぞ。なにせ、八咫日本ってのは俺のペンネームだからな」

「…………は?」

帝国最強の将軍の顔から、一瞬ですべての表情が抜け落ちた。

「き、貴殿が……? この若さで、あの魂を震わせる圧倒的な物語を……!?」

「暇つぶしに書いてるだけだけどな。ほら、これが最新話だ」

俺がタブレットを渡すと、レオンティーナは震える手でそれを受け取り、画面の文字を貪るように読み始めた。

「おおおっ……! そうか、あの絶体絶命のピンチを、こんなバグのようなスキルでひっくり返すとは……! 痛快! あまりにも痛快……!」

数分後、読み終えた彼女は、ポロポロと大粒の涙を流しながら俺の足元に平伏した。

「八咫先生……いや、レクト理事長! 私の魂は、完全にあなた様に救われました! どうか私を、この学園の犬としてお使いください!」

最強の将軍が、完全に俺の熱狂的ファン(信者)に成り下がってしまった。

「犬にはしないが、うちで働く気があるなら歓迎するぞ。防衛戦力はいくらあっても困らないしな」

俺は空中にシステム画面を展開し、【生成AI】に指示を出した。

「AI、彼女の【雇用契約書】を大至急作成してくれ。労働条件はホワイトに、福利厚生は学園のフルサポートを適用で」

『了解シマシタ。出力ヲ開始シマス』

数秒後、完璧な法務チェックを通過した雇用契約書が空中にプリントアウトされる。

「ここにサインしてくれ。今日からお前は、うちの特務支援チーム【RED】の所属だ」

「こ、雇用契約……? 私のような敵国の将軍に、これほど厚遇な労働条件を提示してくださると言うのですか!?」

レオンティーナは、契約書に書かれた「完全週休二日」「温泉入り放題」「食堂でのラーメン無料」などのチート級の福利厚生を見て、再び号泣しながらサインした。

「よし、契約成立だ。だが、いきなり現場に出すわけにはいかない。まずは【内部研修】を受けてもらう」

俺が合図をすると、【RED】のリーダーであるコイケと、サブリーダーのミクニがやってきた。

「理事長、お呼びでしょうか!」

「コイケ、ミクニ。彼女の新人研修を頼む。うちの【伴走型】の理念を叩き込んでやってくれ。終わったら、内部研修の報告書をシステムに提出しておくように」

「「了解いたしました!」」

レオンティーナはごくりと唾を飲んだ。

(帝国の軍事訓練よりも過酷な、秘密の暗殺訓練が始まるに違いない……!)

彼女は決死の覚悟でコイケたちについていったが。

数時間後、研修室で行われていたのは、彼女の予想とはまったく違うものだった。

「いいかレオンティーナ。対象者を支援する時、力でねじ伏せるのは三流だ。相手の心に寄り添い、共に歩む【伴走者】としての姿勢……それが我々REDの信条だ!」

「は、はいっ! コイケ先輩!」

「まずはこのタブレットを使って、日々の業務日報を正確に入力する訓練だ! 事務処理を疎かにする者に、真の支援はできない!」

「りょ、了解しましたっ! 文字入力の最適化……!」

帝国で血みどろの戦いしか知らなかったレオンティーナは、コイケたちの熱血な【ビジネス・マナー研修】と【IT事務訓練】に、目を白黒させながらも真剣に取り組んでいた。

「素晴らしい……! 誰も傷つけず、人を支えるための訓練……! これこそが、八咫先生の描いていた『真の強さ』なのですね!」

完全にベクトルが明後日の方向に向かっているが、本人が感動しているならそれでいいだろう。

【一方その頃】

ガルディア帝国の玉座の間は、お通夜のような絶望的な空気に包まれていた。

「へ、陛下……! レオンティーナ将軍が……王国の学園へ亡命いたしました……!」

情報大臣が、血の気のない顔で報告する。

「な、なんだと!? 我が帝国最強の剣が、なぜ敵国へ……! どんな卑劣な洗脳魔法を受けたというのだ!」

「それが……その……」

大臣は震える声で、絶望的な事実を口にした。

「『八咫日本』という作家の……Web小説の、続きが読みたかったからだそうです……」

「…………は?」

皇帝は玉座から崩れ落ちた。

自分たちの最強の戦力が、金でも、権力でも、魔法の洗脳でもなく。

ただの「娯楽小説のファンになったから」という理由で国を捨てたのだ。

「お、おのれぇぇぇっ! 八咫日本とは何者なのだ!? どれほどの悪魔的頭脳を持てば、活字だけで将軍を洗脳できるというのだ!」

帝国は完全に、目に見えない【文化侵略バグ】の恐怖に飲み込まれていた。

俺が片手間で書いた小説が、隣国を崩壊の危機に追いやっていることなど露知らず。

俺は今日も、学園の露天風呂で平和なスローライフを満喫しているのだった。

【キャラクター・プロフィール】

【レクト(八咫日本)】

役割:主人公(日本創紀学園・理事長 / 天才作家)

状況:熱狂的ファンになって亡命してきた帝国将軍に対し、AIで瞬時に【雇用契約書】を作成。さらに特務チームによる【内部研修】を受けさせ、超強力な自軍のコマとして合法的に取り込んだ。

【レオンティーナ】

役割:元帝国将軍 / 特務チーム【RED】の新人

状況:八咫日本レクトの正体を知り、忠誠心が限界突破。現在はコイケたちの下で、血生臭い戦闘ではなく、タブレット入力や【伴走型】の理念を学ぶ熱血研修を涙を流しながら受講している。

【コイケ&ミクニ】

役割:特務支援チーム【RED】リーダー&サブリーダー

状況:帝国最強の将軍を「新人」として扱い、熱心に社内研修を行っている。彼らにとって、対象者が魔物だろうが将軍だろうが、やるべきサポート(伴走)は変わらない。

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