第19話 【実地監査】の襲来と、規格外の【重度訪問介護】
【日本創紀学園】での順調な日々が続く中、またしても王都から厄介な連中がやってきた。
学園の正門前に並ぶ、いかにも神経質そうな顔をした役人たち。
彼らは、先日ガンツさんのお掃除アプリで撃退されたバルザック子爵の息がかかった、魔法監査院の【監査官】たちだった。
「レクト理事長! 彼ら、学園の運営記録や魔力使用の帳簿をすべて確認すると言って……!」
アリシア王女が焦った様子で駆け寄ってくる。
「ふん。いくら貴族を力で退けたとはいえ、ここは法治国家だ」
主任監査官の男が、分厚い魔導書のようなバインダーを叩きながら冷笑した。
「これほど巨大な施設を運営し、未知の魔道具を生徒に使わせているのだ。当然、完璧な【安全管理記録】や【指導計画書】が存在するのだろうな?」
「もし書類に一つでも不備や捏造があれば、即座にこの学園は営業停止処分とする!」
どうやら彼らは、実力行使ではなく「事務的な嫌がらせ」で学園を潰そうとしているらしい。
異世界の中世レベルの事務処理能力で、これだけの学園の書類を完璧に揃えるのは不可能だと高をくくっているのだ。
「書類の不備、ねえ」
俺はクスッと笑い、空中に巨大なシステム画面を展開した。
「ミレナ、例の【クラウド監査データ】のアクセス権限を彼らに開示してやってくれ」
「はい、理事長! 【ファイル共有】を実行します!」
元勇者パーティーの魔法使いから、今や優秀なシステム管理アシスタントへと成長したミレナがタブレットを操作する。
ピィンッ。
監査官たちの目の前に、光の板が無数に出現した。
「な、なんだこれは……!? 文字が、恐ろしい速度で自動更新されていくぞ!」
「生徒一人ひとりの日々の魔力変動グラフ……! 毎日の指導記録が、秒単位で完璧に記録されているだと……!?」
俺が構築した【スプレッドシート】と【データベース】は、生徒がタブレットを使うたびに、すべての活動記録を自動で集計し、監査用のフォーマットに変換するよう組んである。
手書きの書類などというアナログなミスが入り込む余地は、1バイトたりとも存在しない。
「ひぃぃっ……! 完璧すぎる……! 過去数百年分の王宮の記録より正確で美しい……!」
書類の粗探しでお茶を濁そうとしていた監査官たちは、完璧すぎるデータ管理の前に絶望して膝から崩れ落ちた。
「書類審査はこれでクリアだな。次は【実地指導】の試験を見てもらおうか」
俺は監査官たちを立ち上がらせ、学園の裏手にある広大な保護区画へと案内した。
そこには、山のように巨大な古竜が横たわっていた。
「ひぃぃっ!? な、なぜこんなところに伝説の神竜が!?」
「数百年前に呪いを受けて寝たきりになってたのを、先日俺たちが引き取ってきたんだ」
俺は怯える監査官たちに説明した。
「今日はうちの保健の先生と生徒たちによる、最高難易度の【重度訪問介護】の実地訓練だ」
「じゅ、じゅうどほうもん……なんだって?」
俺が合図を送ると、白衣を着た専属看護師のクルミと、ガンツたち生徒のチームが神竜の元へ駆け寄った。
「竜さん、今日はいいお天気ですよ。今からお体を綺麗にしますね」
クルミが優しく微笑みかけながら、手元のタブレットを操作する。
【Application_Start:Holy_Cleansing_Shower(神聖浄化シャワー)】
シュワァァァァッ!
神竜の巨大な体を、温かく輝く光のシャワーが包み込む。
長年こびりついていた瘴気や汚れが、一切の負担なく一瞬にして洗い流されていく。
「ガンツさん、室温と湿度の調整をお願いします!」
「任せてくだされクルミ先生! 【最適化フィールド】展開!」
ガンツがアプリを起動すると、神竜の周囲の環境が最も回復に適した心地よい空間へと書き換えられた。
さらに、生徒たちが連携してタブレットを操作し、【床擦れ防止の無重力クッション】や【自動マッサージ機能】を次々と発動させていく。
「グルルル……(おお……なんという心地よさじゃ……我の体が羽のように軽い……)」
数百年間、苦痛に喘いでいた神竜の顔が、とろけるような恍惚の表情に変わった。
攻撃魔法しか知らない監査官たちは、その光景を見て完全に魂を抜かれていた。
「信じられん……あの狂暴な古竜を、魔法の力で力ずくで従えるのではなく……『癒やし』と『奉仕』で完全に手懐けているだと……!?」
「なんという慈愛……! なんという高度な魔法運用……! 我々が信じてきた常識は、すべて間違っていたというのか……!」
主任監査官はポロポロと涙を流し、持っていたバインダーをその場に放り捨てた。
「参りました……! 書類も実技も、すべてにおいて非の打ち所がありません! 【日本創紀学園】こそ、世界最高の学び舎です!」
監査官たちは俺に向かって深々と土下座し、感動に打ち震えながら王都へと帰っていった。
「ふぅ、これで面倒な横槍も入らなくなるな」
俺が背伸びをしていると、クルミが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「レクトさん! 竜さんの呪い、完全に解けましたよ! みんなのケアのおかげです!」
「ああ、よくやったなクルミ。みんなの技術もすっかり板についてきた」
俺は、すやすやと眠る神竜と、達成感に満ちた生徒たちの笑顔を見渡した。
圧倒的な武力で敵を排除するだけでなく、こうして誰かを救い、共に歩む【伴走者】としてのシステム。
それこそが、この【日本創紀学園】の真骨頂なのだから。
【キャラクター・プロフィール】
【レクト】
役割:主人公(日本創紀学園・理事長)
状況:監査官の嫌がらせに対し、完璧な【クラウド自動集計システム】を見せつけて論破。さらに伝説の古竜を対象とした規格外の【重度訪問介護】を披露し、監査官たちを感動の渦に巻き込んで完全勝利を収めた。
【クルミ】
役割:専属看護師(保健の先生)
状況:魔法は使えないが、レクトの開発した医療アプリと生来の慈愛の心で、伝説の神竜すら癒やし尽くす。生徒たちのケアチームをまとめ上げる頼れるリーダーへと成長。
【ミレナ】
役割:システム管理アシスタント
状況:元勇者パーティーの魔法使いから、IT事務作業のプロへとジョブチェンジ。膨大なデータを涼しい顔で管理し、監査官を絶望させる一翼を担った。
【神竜】(New)
役割:保護動物(?)
状況:数百年の呪いで寝たきり(要介護状態)だったが、学園の生徒たちによる手厚すぎる【重度訪問介護】によって完全に回復。あまりの快適さに、そのまま学園のペットとして居座ることを決めた。




