↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣と悪の血統者~海賊王の伝説~  作者: 名録史郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/25

第十二話 聖剣の試練

「ついてこい」


 ボーレンは聖剣を取り上げ、工房の奥へ歩いていった。ソウたちが後を追うと、工具の並ぶ壁の脇に扉があった。  


 開いた途端、陽の光が差し込んでくる。


 工房の裏は、石壁に囲まれた広い空き地になっていた。壁際には、切り裂かれた鉄板や、砕けた石が積まれている。地面にも幾筋もの溝が走っていた。  


 その中央に、腰ほどの高さの台座が据えられている。

 ボーレンは台座の細い穴へ、聖剣を差し込んだ。


 刀身が半ばまで沈む。  


 かちり、と音がした。


「まず、こいつを抜いてみろ」


 ソウは台座を見下ろした。


「抜くだけか?」


「剣を通して台座に魔力を注げ。必要な量が満ちれば、剣を留めておる仕組みが外れる」


「力ずくじゃ駄目なのかよ」


「台座を壊す試験ではないぞ」


 ボーレンが睨む。


「そいつを扱うには、相応の魔力が要る。足りん奴に持たせても、まともに働かん。まずは魔力量を確認させてもらう」


 ルーンが台座を覗き込み、くすりと笑った。


「心配いらん。おぬしの剣を使いこなせる男がいるとすれば、ソウじゃ」


「おまえがそこまで言うか」


「見ればわかる」


 ルーンはリナの手を引き、壁際へ下がった。


 ソウは剣の柄を掴んだ。

 試しにそのまま引いてみる。


 動かない。


 剣が重いという感触ではなかった。台座そのものに食いつかれている。


「どこから入れりゃいい」


「柄を持ち、魔力を注げ。魔法剣を使っていたのならいつも通りだ」


 ソウは両手で柄をしっかり握りしめた。


 ひんやりとした感触が伝わってくる。  


 刀身を通し、その先の台座へ魔力を流し込んだ。


 剣のエンブレムが輝いた。


 刀身を伝った赤い光が、台座へ流れ込む。  石の表面に刻まれた溝が、一筋、また一筋と光を帯びた。

 光は剣の根元から枝分かれし、台座の縁へ広がっていく。


 光は台座の縁を巡り、中央の剣へ向かって伸びていく。


 ソウは眉を上げた。


「結構、入るじゃねえか」


 普段、剣を使うときよりも多くの魔力が流れ出し、ソウの額に汗が浮かぶ。


「やめるか?」


「まだ始めたばかりだろ」


 さらに魔力を注ぐ。

 光の筋が、一気に増えた。


 ボーレンの目が細くなる。


 台座の奥で、低い音が響いた。  

 赤い光が最後の溝を満たす。


 かちり。


 ソウが剣を引くと、今度はあっさり抜けた。


「これでいいんだな」


 抜き放った刃が、陽を反射する。


 ボーレンは剣よりも、台座を見ていた。まだ光の残る溝を確かめ、それからソウの顔を見上げる。


「……息も乱れんか」


 ソウは額の汗を腕で拭った。


「もう一回やるか?」


「いらん。次の試験だ。その剣の形を変えて見せろ」


 ソウは、台座から抜き取った剣を見下ろした。


「変えていいのか」


「そのために作った。持ち主の魔力を吸収し、その力と、使い手の求める働きに応じて、自らを組み直す。それが、その剣の仕組みだ」


「へえ」


 ソウは柄を握り直した。


 変える形なら、決まっている。


 魔狼の牙フェンリルファング。

 剣も盾も噛み砕く牙。  


 リナを閉じ込めていた檻を開けた、自分の武器だ。


 魔力を流す。

 赤い光が鍔を越え、刀身へ走った。

 抵抗がない。

 するりと魔力が流れ込んでいく。 


 奪った魔法剣のように、無理やり力を押し込む必要がなかった。


 エンブレムが光輝くと、鋼の表面に筋が走る。 刃の縁が幾つもの牙へと分かれ、その内側を黒い鎖が繋いでいく。


 魔力変形――《フェンリルファング》。


 連なった牙が動き始めた。  


 ギュル、ギュルギュル――。


 低い唸りが、工房裏の空き地に響く。


「……おう」


 ソウは笑った。


 いつもの剣が、手の内にあった。


 欠けた牙も、切れた鎖もない。

 手元に蘇った形を確かめるように、ゆっくり刃を傾ける。


「こいつなら、また噛み砕けるな」


 ボーレンは動く牙へ目を凝らしていた。

 だが、頷きはしなかった。


「そこの鉄棒を斬ってみろ」


 ボーレンが指した先には、試し斬り用の太い鉄の棒が立っていた。表面には幾筋もの切り傷があるが、断ち切られた跡はない。


 ソウはその前へ立ち、足を開いた。


 回る牙を鉄へ当て、魔力を流し込む。柄を握る手に力を込め、刃を押しつけた。


 ギャン!


 硬い音が一瞬だけした。

 牙の先が一つ欠け、火花に混じって飛んだ。

 ソウは、とっさに押し込む力を緩めた。


「またか」


 山賊頭の腕当てに牙を砕かれた感触が、掌に蘇る。


 だが、その瞬間だった。


 柄を握る手から、魔力が吸い上げられた。

 赤い光が黒い鎖を伝う。  

 欠けた牙の輪郭を光が縁取り、その内側を鋼が満たしていく。

 鎖が一巡する頃には、牙は元の鋭さを取り戻していた。


「……戻っただと?」


「魔力を止めるな。そのまま続けろ」


 ボーレンの声が飛ぶ。

 ソウは柄を握り直した。

 魔力を流す。 剣が、それを取り込む。


 鉄を噛む牙が傷んでも、次に巡ってきたときには、再び鋭い刃となって食いついた。


 ソウの口元が上がった。


「そういうことかよ」


 腰を入れ、剣を押し込む。

 牙が鉄を削り、食い破る。 最後に残った部分が断たれ、鉄棒の上部が傾き、重い音を立てて地面へ倒れた。


 ソウは剣を止めた。


 鎖の動きが緩まり、牙の唸りが静まっていく。 その間にも、刃の縁に残っていた小さな欠けが埋まっていった。


「こいつ……魔力を食って、直りやがる」


 ボーレンが頷いた。


「普通の魔法剣は、使えば傷む。刃を研ぎ直しても、内に積もった傷みまでは消せん。いずれは、おまえが持ってきた剣のようになる」


 太い指が、聖剣の刀身を示した。


「だが、そいつは違う。吸収した魔力で自らを組み直す。形を変えることも、欠けた刃を戻すこともできる」


 ソウは牙の先を見た。  さっき欠けたのがどれだったのか、もう見分けがつかなかった。


「俺様が魔力をくれてやりゃ、直せるんだな」


「そうだ」


 ソウは笑った。


「いいな。なら、遠慮なく使える」


 ソウは修復された牙を眺めた。

 これなら、また戦える。


「これで、認めてくれるだろ?」


 ソウの問いに、ボーレンは頷かなかった。


「次だ」


「まだあるのかよ。今度はなんだ?」


「一種類しか変形させられないのなら、聖剣である意味はない。他の形態にも変形させてみろ」


フェンリルファング(聖剣変形形態)

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。