第六話:三禿、クセが強い
翌日。
「……で、次はどこだ」
タケルはコンビニ前で缶コーヒーを飲みながら言う。
「ヒントはこれだ」
シンが取り出したのは、あの“紋の紙”。
よく見ると、うっすらと線が増えている。
「……地図?」
「らしい」
紙の中央に、ぼんやりと浮かぶ文字。
> 『第三の禿、隠す物あり』
「隠す物?」
「つまり――」
シンは周囲を見回す。
「……偽装している可能性が高い」
「スパイかよ」
二人が向かったのは、○○公園の隣にある小さな商店街。
八百屋。惣菜屋。古びた本屋。
人通りもそこそこ。空気は平和そのもの。
「ここに禿が……?」
「気配がある」
「どんな気配だよ」
シンは静かに言う。
「……静かなツヤだ」
「わかるかそんなもん!」
タケルのツッコミが商店街に響く。
その時だった。
「いらっしゃいませー」
柔らかい声。
振り向くと、そこには――
帽子屋。
そして店主。
年齢不詳の男。
だが何より目を引くのは――
帽子の量。
キャップ、ハット、ニット帽、サンバイザー――
壁一面、棚一面、天井から吊るされているものまで含めて、
明らかに多い。
**とにかく帽子を揃えている。**
「多くない!?」
「どう見ても飾られている帽子が多い!」
男はニコニコしている。
だが、何かがおかしい。
「……シン」
「ああ」
二人は同時に確信する。
(こいつだ)
「何かお探しですか?」
男は穏やかに言う。
「いや…」
タケルは即答する。
そして男が被っているニット帽に注目する。
この暑いこの季節に…ニット帽…!!!
あきらかにおかしい。
そして怪しい。
シンが一歩前に出る。
「そのニット帽――脱いでみろ」
「今一番触れちゃいけないとこだろ」
空気が一瞬で張り詰める。
シンが一歩前に出る。
「お前――八禿の一人だな」
一瞬。
店の空気が変わる。
だが男は笑ったまま。
「……何のことでしょう」
「とぼけるな」
シンは一切ブレない。
シンは静かに言う。
「この時期にニット帽……どうみてもただのファッションじゃない」
「いやファッションでも怪しいけどな!?」
再び沈黙。
そして――
男はゆっくりとニット帽に手をかけた。
「……バレてしまっては、仕方ないですね」
静かに。
ゆっくりと。
頭からニット帽が外される。
その下にあったものは――
「……あれ?」
タケルは首をかしげる。
「フサフサ……じゃない?」
いや違う。
よく見ると。
中央だけ――
ピンポイントで“空いている”。
「アルシンドかよ!?河童型!?ピンポイント禿!?」
「一点突破だな!」
男は深く息を吐く。
「……私は、犬山カクレ」
「“隠しの禿”です」
「そのまんまだな!!」
「……私のところにも封筒と紙が送られてきました。」
カクレは言う。
「私は能力の代償として――」
「代償あるんだ」
「常に“防御”を維持しなければならない」
「どういうことだよ」
カクレの表情がわずかに曇る。
「外気に晒されると、暴走するのです」
「何が!?」
その瞬間。
風が吹いた。
ヒュウ――
「あ」
カクレの頭頂部に、風が直撃する。
「ちょっ」
ピカッ――
「うわっ!?」
衝撃波。
近くののぼりが吹き飛び、帽子がいくつか宙に舞う。
「威力おかしくない!?」
「……これが、“空力性能”の応用だ」
シンが冷静に分析する。
カケル
「応用で済ませるな!!」
カクレは慌てて帽子を被り直す。
「はぁ……はぁ……危なかった」
「危ないのはこっちだよ!」
「とくかくこれで俺たちは仲間だ!」
その時。
ザッ……
またしても足音。
「……やはりここか」
振り向く。
そこには――
昨日のフサフサ男。
さらに後ろに、もう一人。
ロングヘアの女。
「増えた!?」
「フサフサ連合、第二席――ミスト」
女は微笑む。
髪をふわりと揺らす。
その瞬間。
**ふわっと、いい香りが広がる。**
タケルの動きが一瞬止まる。
「……え、ちょっと待って」
(いい匂いすぎない?)
しかも。
美人。スレンダーで巨乳。なのに存在感がある。
シン
「こいつは危険だ――狩の本能で、匂いがマヒしてる状態だ」
狩の本能により、人は自分の匂いを感じにくくなる。
そのため香水をつけても、しばらくすると自身では匂いが分からなくなり、さらに香水を重ねてしまう。
――そうした現象の結果だ。
タケル
「攻撃が嗅覚!?」
シンが低く言う。
「まずい……“香り系”は厄介だ」
「分類あったの!?」
ミストは微笑む。
「逃がさないわ、“禿の者たち”」
その髪のいい匂いが、ゆっくりと広がる。
まるで霧のように。
「……あれ」
タケルが気づく。
「これ、視界悪くない?」
「そういう能力だ」
「地味に強い!」
シンが叫ぶ。
「タケル!カクレ!走るぞ!」
「また逃げるの!?」
「いまはまだ俺たちの能力では戦えない 」
逃げる
頭のニット帽を押さえながらカクレが叫ぶ。
「私の帽子が!風で飛んでしまう!」
「知らんがな!!」
三人は走る。
霧の中を。
光る頭と、帽子を押さえながら。
その背後で。
フサフサの気配が迫る。
残り、五禿。




