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里美八禿伝(さとみはちとくでん)  作者: レモンティー


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第三話:禿の能力

第三話:禿の能力

シンは語る。

「八禿には、それぞれ特殊能力があるという伝説を聞いている」

犬塚シンは、やけに重々しく言った。

その頭部は相変わらず無駄に光を拾っている。

「能力って……ゲームじゃないんだから」

タケルは呆れた声を出す。

だがシンは気にしない。

「まず一つ。“フラッシュ”」

スッ、と顎を上げる。

太陽の角度を、まるで狙撃手のように確認する。

「実演が一番早い」

次の瞬間。

キィィィィィィン!!

「うわぁぁぁぁ!!目ぇぇ!!」

タケルは反射的に顔を覆う。

視界が白で埋まる。

「これがフラッシュ。角度と湿度、皮脂量で威力が変わる」

「皮脂で威力上がるのやめろ」

「曇りの日は弱体化する」

「天候依存スキルかよ!」


「次。“エコ”」

「それ能力なのか?」

「シャンプーの使用量を極限まで抑えることができる」

「いやそもそも使う量が――」

「年間コストで見ると大きい」

「現実的な話すな!!」

「コンディショナーも不要だ」

「ちょっと羨ましいのが腹立つ」

シンはさらに続ける。


「“完全防御”」

「それはさすがに強そうだな」

「雨でも、崩れない」

「そりゃそうだろ!!」

「台風でも問題ない」

「だから元から崩れるものがないだろ!」

「寝癖も発生しない」

「もうそれは単なる仕様だよ!!」

だがシンは真顔のまま、最後の一つを告げる。


「“空力性能”」

「それ普通に強そう」

「風の抵抗を受けない」

「やっぱり強いじゃねぇか!」

「向かい風でも前進速度が落ちない」

「地味に最強じゃね?」

「帽子も飛ばない」

「それは帽子側の問題だろ」

「ドライヤー不要」

「地味に羨ましいのやめろ」


シンが腕を組む。

「俺が伝え聞いている能力はこれぐらいだ」

「これらはあくまで基礎能力だ」

「基礎でそれ!?」

「八人揃えば、能力は共鳴する」

「共鳴?」

「“複合能力”が発現する可能性がある」

タケルは一瞬、真顔になる。

「……例えば?」

シンは少しだけ考え、

「フラッシュ+空力性能で、移動しながら全方位目くらまし」

「迷惑行為の進化版じゃねぇか」

「エコ+完全防御で、永久にシャンプーを買わなくていい」

「ただの節約術だよ!」

「まだ未知数だがな」

「未知のままでいい気がしてきた」

一拍の沈黙。

風が吹く。

だがシンの頭は、一切影響を受けない。

「……本当に風の影響受けてねぇ」

タケルは思わずつぶやく。

その時だった。

シンの表情が、わずかに引き締まる。

「気づいたか」

「何が」

「戦いは、もう始まっている」

「いやだから何とだよ」

「“フサフサ派”だ」

「だから急に敵対構造作るなって!!」

タケルの叫びは、もはや虚空に消える。

だがシンは確信していた。

「奴らは、“量”で来る」

「量!?」

「我らは“質”で対抗する」

「何の質だよ!!」

シンは静かに、しかし力強く言い切った。

「――輝きだ」

タケルは空を見上げる。

(……帰りたい)

だがその時、ふと気づく。

自分の頭頂部に触れると――

「……あれ?」

ほんのわずかに。

ほんのわずかだが。

ツヤが増している。

「なにこれ、レベル上がってない?」

「覚醒の兆しだな」

「そんな軽いノリで言うこと!?」

シンはうなずく。

「タケル。お前は“一禿”だ」

「その呼び方やめろ」

「いずれ、“中心”になる」

「何の中心だよ!」

シンは遠くを見る。

「八禿の中心。輝きの核だ」

「急に主人公っぽい設定足すな」

しかしタケルは、もう否定しきれなかった。

意味はわからない。

だが確かに、何かが始まっている。

毛根は減っているのに、

存在感は増している気がする。

(……なんだこれ)

風が吹く。

木々が揺れる。

――だが、二人の頭は微動だにしない。

その静かな安定感だけが、

妙に頼もしかった。

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