2次元・5ZIGEN 〜平成車と平成アニメの融合地点〜
S・H・B部室。
マイケルがホイールカタログを見ていた。
「ちょっと待ってYO」
「何だ」と加賀。
「このサークル、オレ以外みんなホイールが5ZIGENじゃないYO?」
「俺のホイールはエンケイPF01だ」と加賀。
「え、5ZIGENじゃないYO?」
「5ZIGENじゃない。エンケイだ」
「マフラーは5ZIGENDesuYO」
「マフラーは5ZIGENProRacerだ。ホイールはエンケイPF01だ。別メーカーだ」
「雅紀は?」
「俺のRX-8はキャノンボールだ。5ZIGENのホワイトだ」と雅紀。
「細田は?」
「FN01R-C STVだ。5ZIGENだ」と細田。
「じゃあ加賀以外は5ZIGENじゃないYO」
「加賀のマフラーは5ZIGENだ」と雅紀。
「マフラーとホイールは別の話だ」と加賀。
「でもマフラーが5ZIGENなら——」
「別の話だ」
「……そうDesuネ。でもマイケルのホイールはどうなんだと聞かれると思うYO」
「何を履いているんだ」と雅紀。
「コーセイのK1レーシングRev.デスYO」
全員が止まった。
「……なにそれ」と細田。
「K1レーシングRevivalDesuYO」
「聞いたことがない」と準。
「知らないYO?」と加賀。
「加賀は知ってるのか」
「知ってる。1990年代に走り屋の間で人気のあったホイールだ。その後一時期市場から消えた。復活版がRev.だ」
「復活版か」
「バブル期から平成の走り屋黄金期に活躍したブランドだ。あの頃を知っている走り屋なら知っている」
「マイケルがそれを知っているのか」と雅紀。
「小学5年でアメリカから来たYO。でもJDMは小学生の頃からビデオで学んだYO。K1レーシングはその頃の動画に出てきたYO」
「ビデオで学んだのか」
「VIDEO OPTIONDesuYO。あの時代の動画を全部見たYO」
加賀が少し間を置いた。
「……本物のJDMマニアだな、マイケルは」
「そうDesuYO。K1レーシングを知らない走り屋は——」
「あの頃を知らない走り屋だ」と加賀。
「そうDesuYO」
「俺も知っている。親父の走り屋仲間がK1レーシングを履いていた」
「親父さんも走り屋DesuYO?」
「そうだ。埼玉の走り屋だった」
「……加賀が走り屋なのは親父さんの影響DesuYO?」
「影響はある。でも俺自身がセリカに乗ってから自分の走り屋になった」
「……それが走り屋の継承DesuネYO」
「で、5ZIGENの話に戻ろう」と細田。
「戻るか」と加賀。
「5ZIGENの"5"は何の意味か知っているか」
「知ってる。5次元だ」と雅紀。
「そうだ。5次元——つまり5ZIGEN」
「5次元というのはどういう意味だ」と準。
「ブランドのコンセプトだ。現実の3次元を超えた、走りの次元を表している」
「5次元か」と細田。
「そうだ」
細田が少し間を置いた。
「……俺たち、2次元が好きだよな」
「俺はケモ耳だが実質2次元だ」と準。
「俺はこなたが推しだから完全に2次元だ」と細田。
「雅紀は3次元の元カノがいたが今は13Bだ」と準。
「13Bは次元の概念外だ」と雅紀。
「加賀はセリカだ」と細田。
「セリカは現実に存在する」と加賀。
「でも走り屋的な理想化をしている」
「理想化ではない。事実を見ている」
「まあ、どちらにせよ」
細田が立ち上がった。
「俺たちは2次元が好きで——5ZIGENで走っている」
「それがどういう意味だ」と加賀。
「5ZIGEN=5次元だ。俺たちは2次元の存在を愛しながら、5次元のホイールで走っている。2次元と5次元の狭間に生きている」
全員が少し間を置いた。
「……何だその哲学は」と雅紀。
「走り屋オタクの哲学だ」
「2次元と5次元の狭間か」と準。
「そうだ。3次元の現実で走りながら、2次元の推しを愛して、5次元のロマンを追う——それが俺たちだ」
「細田、今日は珍しくいいことを言っている」と加賀。
「珍しくとは何だ」
「いつもは走り屋よりオタクの話が先に出る」
「今日はちゃんとまとめた」
「まとまっていた」
「認めてくれるのか」
「認める。でも——」
「でも?」
「2次元と5次元の狭間、というのは正しいが、加賀は修正がある」と加賀。
「何の修正だ」
「俺のホイールはエンケイPF01だ。5ZIGENではない」
「……だから加賀は狭間にいないのか」
「狭間にいる。でも5ZIGENではなくエンケイで狭間にいる」
「エンケイの次元は何次元だ」
「エンケイに次元の概念はない」
「では加賀は何次元にいるんだ」
「俺はセリカの次元にいる。それ以外の次元は知らない」
「セリカ次元か」と準。
「セリカ次元だ」
「そういう次元があるのか」
「俺にとってはある」
「……走り屋だな」
「走り屋だ」
「マイケルはK1レーシングだからどの次元だ」と雅紀。
「オレはK1レーシングRevivalDesuYO」とマイケル。
「K1レーシングの次元は何次元だ」
「K1レーシングは"あの頃"の次元DesuYO。Revivalだから、1990年代の走り屋が生きた次元に戻る意味があるDesuYO」
「過去次元か」
「過去次元じゃなくてRevival次元DesuYO。一度消えたものが戻ってくる次元DesuYO」
「……なんか壮大になってきた」と細田。
「ホイールの話だYO」とマイケル。
「ホイールの話が次元論になった」
「走り屋の話はなんでも次元論になるDesuYO」
「なるのか」
「なるDesuYO。走り屋は常に"どの次元を目指すか"を考えてるDesuYO」
「目指す次元が人によって違うということか」
「違うDesuYO。加賀はセリカ次元、雅紀はロータリー次元、細田はVTEC次元と二次元の境界、準はケモ次元——」
「ケモ次元か」と準。
「そうDesuYO」
「否定できないな」
「否定できないDesuYO」
加賀が言った。
「走り屋として聞くが——次元の違いがあっても、走ることは同じだ」
「どういうことDesuYO」
「俺がセリカ次元にいて、お前がK1レーシングRevival次元にいても——川越街道を走るのは同じだ。次元が違っても走り屋として走る場所は同じだ」
「……それは深いDesuYO、加賀」
「深くない。事実だ」
「でも深いDesuYO」
「深くない」
「深いDesuYO」
「……まあ、そういうことにしておく」
「で、5ZIGENと2次元をかけた話をしているが——」と準。
「まとめると何だ」と加賀。
細田が言った。
「俺たちは2次元を愛しながら、5ZIGEN(5次元)のホイールで走っている。届かない次元を愛しながら、届かない次元を目指して走っている。それが俺たちだ」
「……加賀はエンケイだが」と雅紀。
「エンケイだが、走り屋として届かない次元を目指している点は同じだ」と細田。
「届かない次元とは何だ」と加賀。
「峠の限界だ。タイムだ。自分の車の本当の限界だ——走り屋として届かない先を目指している」
加賀が少し間を置いた。
「……そういう意味では、走り屋は全員どこかの次元を目指している」
「そうだ」
「加賀も次元を目指しているのか」
「セリカの限界を目指している。その先がどの次元かはわからない。でも走ればわかる」
「走ればわかるか」
「走らなければわからない。走り屋は走って答えを出す」
「走り屋だな」
「走り屋だ」
マイケルが言った。
「K1レーシングRevivalは、一度消えた次元が戻ってきたホイールDesuYO。走り屋の文化が消えても戻ってくる——そういうメッセージがあると思うDesuYO」
「ホイールにそこまでのメッセージがあるのか」と細田。
「あるDesuYO。走り屋の魂が込められたパーツには全部メッセージがあるDesuYO」
「……マイケルが一番走り屋哲学を語っている」と準。
「JDMサムライDesuからYO」
「JDMサムライか」
「そうDesuYO」
「認める」と加賀。
「加賀が認めたYO」
「K1レーシングを選んだ理由がわかった。マイケルは本物のJDMマニアだ」
「ありがとうDesuYO、加賀」
「礼は要らない。事実だ」
「次回予告をしてもいいか」と細田。
「何の次回予告だ」と加賀。
「中古車価格の話だ。EK9が400万になってる」
「400万か」と雅紀。
「DC2が500万だ」
「俺たちが学生の頃に買えた値段で売られていたのに」
「今じゃ資産運用の対象だ」
「走り屋として走るための車が資産になるのか」と加賀。
「なってる」
「……走れない資産より走れる車の方がいい」
「加賀は売らないのか、セリカを」
「売らない。乗る。走る。それだけだ」
「走り屋だな」
「走り屋だ」
朱音がメモ帳に書いた。
「2次元・5ZIGEN:ホイール確認。加賀→エンケイPF01(5ZIGENはマフラーのみ)、雅紀→5ZIGEN CANNON BALL、細田→5ZIGEN FN01R-C STV、マイケル→コーセイK1レーシングRev.。マイケルのK1レーシングは1990年代平成走り屋黄金期のブランド復活版——K1レーシングを知る走り屋は本物の走り屋マニアという補足あり——記録しておく」
「細田:"俺たちは2次元を愛しながら5次元(5ZIGEN)のホイールで走っている"——走り屋オタクの哲学として記録しておく。加賀:"次元が違っても走り屋として走る場所は同じだ"——走り屋の統一原理として記録しておく」




