表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/153

ツインテールよりもツインターボ 〜髪よりタービンが回る方がロマンある〜

S・H・Bの部室。

いつものくだらない車談義をしていた。

「なあ、なんでこの大学周辺のツインテール女子って全員クセ強いんだよ」と細田。

「俺もうトラウマだ。黒髪ツインテールを見ると心拍数が上がる」と雅紀。

「詩音も阿部も、あの髪型に人を狂わせる魔力がある」と準。

「"狂わせる"はお前らの問題だろ」と細田。

「俺たちの問題か」と準。

「そうだ。髪型は関係ない」

「でも心拍数が上がるんだ、黒髪ツインテールを見ると」と雅紀。

「それはトラウマだ」

「トラウマだと自覚してる」

「自覚があるなら対処しろ」

「対処の方法がわからない」

「走り屋的に言えばどうする、加賀」と準。

加賀が少し考えた。

「走り屋的に言うと——」

「うん」

「トラウマはデータの蓄積だ。データが正しくない方向で蓄積されている。正しいデータで上書きすればいい」

「正しいデータとは何だ」

「ツインテールに対する正しい評価だ」

「正しい評価は何だ」

「ただの髪型だ」

「……言うのは簡単だが体が反応する」

「体が反応するのはエンジンの熱ダレと同じだ。冷却してから走れ」

「冷却するのか」

「距離を置いて冷やす。それだけだ」

「走り屋的なトラウマ克服法だ」

「走り屋の方法論はどこにでも応用できる」


マイケルが前に出た。

「HAHA、ツインテールはクレイジーガール。でもオレはツインターボの方がクレイジーでLOVEだYO」

「また始まったJDM講座だ」と細田。

「JDM講座じゃないYO。愛の告白デスYO」

「誰への告白だ」

「EJ20へのYO」

「エンジンへの告白か」

「エンジンへの愛の告白デスYO。オレのレガシィGT-B、シーケンシャルツインターボ。このブーストが上がる瞬間が恋のようダYO」

「恋にタービンを例えるな」と雅紀。

「例えてないYO。タービンが恋なんデスYO。順番が逆デスYO」

「どちらが正しいんだ」

「タービンが先デスYO。恋はその後DesuYO」

「タービンから恋が生まれるということか」

「そうデスYO。オレがJDMを愛したのはEJ20のブーストを体で感じたからデスYO」

「……走り屋の恋愛論だ」と準。

加賀が補足した。

「ちょっと待て。シーケンシャルツインターボとパラレルツインターボは違う。マイケルのEJ20の場合——」

「正確に言うデスYO」とマイケル。

「BH5のEJ20は正確にはシーケンシャルツインではない。シングルターボとツインターボの切り替えに近い設計だ。低回転では小さいタービンが主に仕事をして、高回転になると大きいタービンが加勢する」

「加勢するんデスYO」とマイケル。

「加勢する。だから"ブーストが上がる瞬間"というのは2個目のタービンが仕事を始める瞬間だ」

「そうDesuYO。その瞬間が——」

「恋のようだ、というわけか」

「そうDesuYO。2個目が目覚める瞬間、世界が変わるDesuYO」

加賀が少し間を置いた。

「……その表現は、走り屋として正確だ」

「認めるのか」と細田。

「2個目のタービンが起動する瞬間は、エンジンの特性が変わる。その変化を"恋のようだ"と表現するのは——間違っていない」

「走り屋がロマンチックなことを言った」と雅紀。

「ロマンチックではない。技術的な説明だ」

「でもロマンチックに聞こえた」

「聞こえ方は知らない。事実を言った」

「……走り屋の技術説明がロマンチックになる瞬間があるんだな」と準。

「そういうことにしておく」

マイケルが続けた。

「でもツインターボといえばZ32フェアレディZDesuYO。湾岸MIDNIGHTならこれDesuYO」

「Z32か」と加賀。

「VG30DETTデスYO。3.0リッターV6パラレルツインターボDesuYO」

「パラレルとシーケンシャルの違いを説明しろ、マイケル」

「パラレルは2個のタービンが同時に仕事するDesuYO。シーケンシャルは順番に仕事するDesuYO」

「正確だ」

「JDMサムライデスからYO」

「パラレルの方が特性はどうなる」

「低回転からターボラグが少なく、全域で一定のパワーが出るDesuYO。でもシーケンシャルの方が——」

「低回転はNAに近くて、高回転でドカンと来る」と加賀。

「そうDesuYO。その"ドカン"が恋DesuYO」

「"ドカン"が恋か」

「そうDesuYO。突然来るDesuYO。予測できないDesuYO」

「走り屋として突然来るブーストは予測すべきだが」と加賀。

「でも来た瞬間は驚くDesuYO」

「驚くことと恋は似てるのか」

「似てるDesuYO」

「……まあ、そういうことにしておく」


ドアが吹き飛びそうな勢いで開いた。

「お前らぁぁぁ!! 我らが三菱のGTOを忘れるなぁぁ!!」

大宮先生だった。

「出た」と全員。

「なんでGTOの話になるんですか、先生」と細田。

「ツインターボの話をしていると聞いた。GTOを外してツインターボは語れん」

「GTO推すのは先生だけですよ。普通はZ32かスープラが出る」と加賀。

「Z32は確かに名車だ。でもGTOには魂がある」

「GTOの魂とは何ですか」

「6G72。3.0リッターV6ツインターボだ。最高出力280PS。4WDで全輪にパワーが届く。アクティブエアロで空力を制御する」

「スペックは知ってます」と加賀。

「スペックを知っているなら魂もわかるはずだ」

「スペックと魂は別の話だと思いますが」

「同じだ。スペックに込められた意志が魂だ」

「……その意志とは何ですか」

「全部入りだ」と大宮先生。「4WD、ツインターボ、アクティブエアロ、電動格納ミラー、後輪操舵まで入れた。1990年代に全部入れた」

「重くなりましたよね、GTOは」と雅紀。

「重い。1,750kgある。重くてもロマンがある」

「重くてもロマンがあるのか」

「ロマンのために重さを引き受けた。それがGTOの魂だ」

「……GTOに乗ってるんですか、先生」

「コルト ラリーアートに乗っている。GTOは維持費が——」

「維持費が高すぎますよね」

「高い。でもGTOへの敬意は失っていない」

「敬意があれば乗らなくてもいいのか」

「敬意があれば十分だ」

「それは少し違うと思いますが」と加賀。

「違うか」

「走り屋として——愛する車には乗るべきだと思います。乗らない愛は、走らない走り屋に近い」

大宮先生が少し間を置いた。

「……痛いことを言うな、加賀くん」

「事実を言いました」

「……まあ、GTOへの夢は捨てていない。いつか乗る」

「いつかではなく今乗るべきです」

「維持費が——」

「走り屋として妥協するなと言いたいが——まあ、現実問題はあります」

「わかってくれるか」

「わかる。俺もセリカの維持費は毎年計算している」

「走り屋の悩みは共通だな」

「共通です」

マイケルが言った。

「ソレ、まさにクレイジー!BIG LOVE!GTOに6G72ツインターボ、4WDとアクティブエアロ全部入り、でも重すぎて速くない、それがロマンDesuYO」

「速くないのにロマンがあるのか」と細田。

「速さだけが走り屋じゃないDesuYO。GTOは"走る哲学"DesuYO」

「走る哲学か」と大宮先生(嬉しそうに)。

「そうDesuYO。設計者の哲学が詰まってるDesuYO。全部入りにした理由があるDesuYO」

「その通りだ」と大宮先生。

「でもその哲学が重さを生んで——」

「重さを引き受けた哲学だ。それがGTOだ」

「……この二人のテンション、ブーストがかかりすぎている」と細田(小声)。

「かかってるYO」とマイケル(本人に聞こえていた)。


「結論を出そう」と加賀。

「何の結論だ」と準。

「ツインテールとツインターボの比較だ」

「比較するのか」

「話の流れで比較することになった」

「……どちらが優れているんだ」

「優劣ではない。特性の話だ」

「特性の話か」

「ツインテールは——予測できない。黒髪ツインテールを見ると心拍数が上がる。対処法がわからない。データが蓄積されていない。言い換えると、制御できない」

「制御できないツインテール」

「対してツインターボは——データがある。ブーストの上がり方がわかる。タービンが何回転で起動するかがわかる。制御できる」

「制御できるツインターボ」

「恋はトラブルだ。タービンは信頼だ」

全員が少し間を置いた。

「……名言だ」と準。

「名言ではない。事実だ」

「でも名言だ」

「事実だ」

「名言だ」

「……まあ、どちらでもいい」

舞花がドアの外から言った。

「何の宗教会話をしているの、あんたら」

「宗教ではない。走り屋の哲学だ」と加賀。

「哲学ね。"恋はトラブル、タービンは信頼"って聞こえたけど」

「聞こえていたのか」

「聞こえた。廊下まで声が届いていた」

「……それは走り屋として失格だ」

「なんで」

「走り屋は周囲への影響を考える。声の大きさも含めて」

「走り屋として自省しているのか、今」

「自省している」

「……まあ、面白い自省だ」

「面白くない。事実だ」

舞花が廊下から去った。

朱音がメモ帳に書いた。

「加賀練斗:"恋はトラブル、タービンは信頼"——走り屋の哲学として記録しておく。大宮先生:GTOは1,750kgの哲学だと言った——コルトに乗りながらGTOを愛している——記録しておく。マイケル:2個目のタービンが起動する瞬間を"恋のようだ"と言った——EJ20への愛情表現として記録しておく」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ