キチガイ王を決めよ
埼玉中央総合大学・学生会館前。
看板があった。
手書きだった。
でかかった。
「第1回 埼玉中央総合大学 "真性キチガイ王決定戦"」
「……ねえ、これ本当に公式イベントなの」と舞花。
「広報掲示板に貼ってありました。"参加自由"と書いてあります」と朱音。
「……終わったわ、この大学」
「終わっていると思います」
「誰が許可したのか」
「掲示板の掲示には学生課のスタンプが押してありました」
「学生課が許可したのか」
「押してありました」
「学生課も終わってるわね」
「そう思います」
遠くから雄叫びが響いた。
「うおおおおおっ」
舞花がため息をついた。
「……参加者の声を聞く前から内容がわかる」
「わかりますね」
「やめさせるか」
「やめさせるべきかもしれませんが——」
「でも?」
「面白そうなので記録しておきたいです」
舞花が朱音を見た。
「……記録者の本能か」
「記録者の本能です」
「……まあ、見ておきましょうか」
司会:チャイワット・スリサイ。
「コンニチワ〜。今日は"最狂"キチガイを探す大会デスネ〜。優勝者には"呉自動車無料オイル交換券"と"セブン唐揚げ棒1年分"をアゲマース」
観客から歓声が上がった。
「唐揚げ棒1年分って、どれくらいの量だ」と朱音。
「毎日1本として365本、1本7円として2,555円分だ」と朱音(自分で計算した)。
「腎臓が壊れない量だな」と舞花。
「壊れない量ですが、毎日食べ続けると精神が壊れるかもしれません」
「チャイワットのカレーを食べると腹が壊れるが」
「それは別の問題です」
「チャイワット、大丈夫なのかこの景品」
「オイル交換券ハ呉サンガ提供シテクレマシタYO」とチャイワット(MC席から)。
「呉さんが提供したのか」
「"お前ラが暴れルのに整備屋の景品使うナ"と最初は言ってましたが——」
「でも提供したのか」
「結局出シテクレマシタYO。"クレ自動車の宣伝になるナラしかたない"とのコトデス」
「呉さんらしい断り方だ」
エントリーNo.1。
細田葵人。
「オタクこそ人類の進化形態だ」
フィットのドアを開けた。
痛車からこなたの等身大パネルを取り出した。
「こなたァァァ」
抱きついた。
バチィッ。
静電気だった。
「うっ……尊死……」
「ノリ良シ。キチガイ度8点」とチャイワット。
「8点か」と細田(床から)。
「8点デス」
「満点は?」
「10点デスYO」
「あと2点足りなかった」
「尊死ダケデハ2点足りないデスYO」
「次回に向けて精進する」
「次回もあるのか」とチャイワット。
「俺がオタクである限り次回もある」
「ノリ良シYO」
エントリーNo.2。
鈴木準。
狭霧と朔夜を連れて登壇した。
「僕の同居人たちです。どちらも本物の妖怪です」
狭霧が準を見た。
「……いかなる場でも愚か者を連れて立つとは、滑稽の極みなり」
「ねえちゃん、ぼく、こういうの苦手にゃ」と朔夜。
観客が沸いた。
「狐だ」
「猫だ」
「耳が本物だ」
「尻尾が本物だ」
「ケモ耳加点デ、キチガイ度9点」とチャイワット。
「9点か」と準。
「デスYO。本物の妖怪を連れてきた点が高イデスYO」
「本物かどうかはわからないと思いますが」と朱音(観客席から)。
「本物デスYO。狭霧サン、証明シテクレマスカ」
狭霧が少し間を置いた。
「……やめろ」
「ヤメルデスカ?」
「やめる」
「デスカ……」
「尻尾は見せてもいい」
「ホントデスカ?」
「見せるだけだ」
銀色の尻尾が揺れた。
観客が再び沸いた。
「9.2点ニ修正デスYO」とチャイワット。
「上がったのか」と準。
「尻尾ハ貴重デスYO」
「まあ、貴重だな」
「同意するな」と狭霧。
「でも貴重だ」
「……うるさい」
瑞羽が観客席の端から言った。
「のう、一尾。妾も登壇すれば点数が上がるのではないか」
「来るな」と狭霧。
「三尾を見せれば——」
「来るな」
「でも妾がいれば——」
「来るな」
「……わかったのう。でも観客は妾にも気づいておるぞ」
観客が瑞羽を見た。
「三尾だ」
「金色の尻尾だ」
「えっこっちの方がデカい」
「ケモ加点サラニ増加デスYO」とチャイワット。
「もう準のエントリーじゃないな」と準。
「準サンのエントリーデスYO。瑞羽サンは観客席デスYO」
「でも点数に影響してる」
「影響シテルデスYO。9.5点デスYO」
「……妾は点数に貢献したのじゃな」と瑞羽(満足そうに)。
「貢献するな」と狭霧。
「したのじゃ」
「するな」
「したのじゃ」
エントリーNo.3。
一ノ宮雅紀。
「俺、元カノに服従宣言されてるんだが、どうすればいい」
静寂だった。
「……それもう選手権じゃなくて事件よ」と舞花。
「恋愛メンタル崩壊点、10点満点デス」とチャイワット。
「満点か」と雅紀。
「満点デスYO。誰も予測できなかった内容デスYO」
「予測できない状況で俺が一番困ってるんだが」
「キチガイ度ハ本人の苦しみでハナク、周囲の驚キで測リマスYO」
「そういうルールか」
「今決めマシタYO」
「今決めたのか」
「MCの特権デスYO」
「……わかった。10点か」
「10点デスYO。オメデトウゴザイマスYO」
「喜べないな」
「キチガイ王はソウイウモノデスYO」
エントリーNo.4。
マイケル・タナー。
「ミナサン、コンニチワ。アメリカ西海岸出身のJDMサムライデス」
ボンネットの上に乗った。
盆踊りを始めた。
「This is Saitama Drift Spirit」
レガシィのハザードが点滅した。
「なんでハザードが点滅してるんだYO」とマイケル(自分でも驚いていた)。
「ボディソウル融合。キチガイ度9.5点デスYO」とチャイワット。
「9.5か」とマイケル。
「デスYO。ボンネットの上で踊ルコトハ予測できましたが——」
「でも?」
「ハザードが自動点滅スルコトハ予測デキマセンデシタYO」
「ワタシも予測できなかったYO」
「ソレガ9.5点の理由デスYO」
「レガシィが一緒に踊ってくれたんだYO」とマイケル(感動していた)。
「車が踊るのか」と加賀(観客席で呆れていた)。
「一緒に踊ったYO」
「ハザードが点滅しただけだ」
「一緒に踊ったYO」
「……まあ、そういうことにしておく」
エントリーNo.5。
加賀練斗。
拍手の中、加賀が前に出た。
淡々としていた。
「俺は別にキチガイじゃない。俺は車が好きなだけだ」
沈黙だった。
「……ただ、セリカは恋人だ」
会場がざわめいた。
「もしセリカが人間だったら、結婚してる」
「マジ恋度MAX、優勝候補デスネ〜」とチャイワット。
「優勝候補か」と加賀。
「デスYO。この発言、全エントリーで一番インパクトあリマスYO」
「インパクトを狙ったわけじゃない。事実を言った」
「ソノ"事実"が一番キチガイデスYO」
「キチガイではない。走り屋だ」
「走り屋もキチガイの一種デスYO」
「……それは認める」
「認めるんデスカ?」
「走り屋は常識の範囲外で生きてる。その点ではキチガイに近い部分がある」
「正直デスYO」
「走り屋は正直だ」
「加賀サン、優勝候補デスYO」
「優勝は要らない。オイル交換券は呉さんから普通にもらえる」
「デモ唐揚げ棒1年分ハ?」
「要らない」
「365本デスYO」
「要らない」
「2,555円デスYO」とチャイワット。
「……計算したのか」と加賀。
「シマシタYO。毎日1本として」
「正確だな」
「セブンのバイトデスから唐揚げ棒の価格ハ熟知シテマスYO」
「……まあ、要らない」
「ソウデスカ」
「そうだ」
最終投票。
「どいつもこいつもヤバすぎる」と舞花。
「選べません。全員逮捕でいいんじゃないですか」と朱音。
「逮捕は大げさだ」と加賀。
「大げさではないと思います」
「俺は事実を述べただけだ」
「その事実が問題です」
「何が問題だ」
「"セリカが人間なら結婚する"という発言が——」
「事実だ」
「事実として問題があります」
「どこが問題だ」
「……まあ、記録しておきます」
会場がざわめき続けた。
そのとき。
駐車場の方向から音がした。
ドオォォォン。
「俺のフーガがァァァ」
安藤の声だった。
白煙が上がっていた。
Y50フーガが炎上していた。
「爆発加点。優勝は安藤凪斗デス」とチャイワット。
「またかよ」とチャイワット(観客席の反応)。
「またです」と朱音。
「また爆発したのか、フーガが」と細田。
「また爆発した」と加賀。
「何回爆発するんだ」
「フーガは爆発しやすい車なのか」
「爆発しやすくはない。安藤が爆発させやすくしている」
「安藤が問題か」
「安藤の整備不足が問題だ。呉さんに言われた通り点検に来ていれば——」
「来ていないのか」
「来るとは言ったが来ていないのだろう」
安藤が炎の中から出てきた。
「俺のフーガ……また……」
「ざまぁ」と凛(どこからか来ていた)。
「ひどいだろ凛。俺、被害者だぞ」
「……何度目の被害者だ」
「……2回目だ」
「……2回目を被害者とは言わない。学習能力の問題だ」
「辛辣だな」
「……事実だ」
消防車のサイレンが鳴った。
チャイワットがマイクを持った。
「というワケで、今回の優勝は安藤凪斗サンデス。オイル交換券と唐揚げ棒1年分、おめでとうございマス」
「喜べないな」と安藤(煤だらけで)。
「オメデトウGozaiマス」
「……どうもありがとうございます」
「フーガの修理、頑張ってくだサイYO」
「……頑張ります」
加賀が安藤を見た。
「次は本当に点検に来い」
「来ます」
「本当に来るか」
「本当に来ます。今度こそ」
「今度こそ、と言うのは今回もそう言ったからだ」
「……今度こそ、本当に来ます」
「……まあ、来い」
「来ます」
「来い」
「来ます」
消防車が来た。
フーガに水が放水された。
大会は自然解散した。
朱音がメモ帳に書いた。
「キチガイ王決定戦:エントリー細田(8点)、準(9.5点)、雅紀(10点)、マイケル(9.5点)、加賀(優勝候補・最終投票前)、優勝・安藤(フーガ爆発による爆発加点)。MCはチャイワット——公正な司会だったと思う。瑞羽が観客席から点数に影響した——記録しておく」
「加賀:"セリカは恋人、人間なら結婚してる"と公式の場で発言した——走り屋の公式見解として記録しておく」




