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細田のらき☆すた聖地巡礼〜なんで俺等がこの京アニ信者の巡礼に付き合わねえといけねえんだよ〜

朝。S・H・Bのガレージ。

細田が仁王立ちで待っていた。

「お前ら、今日は鷲宮神社に行くぞ」

「なんで」と加賀。

「なんでじゃない。らき☆すたの聖地だぞ。オタクの巡礼原点。聖域中の聖域だ」

「俺はオタクじゃない。走り屋だ」

「今日だけオタクになれ」

「なれない」

「なれ」

「なれない」

「なれ」

「……なれない、と言った」

「頼む」

加賀が少し間を置いた。

「……走って行くのか」

「フィットで行く」

「フィットの走行距離はどのくらいだ」

「鷲宮まで往復70kmくらいだ」

「オイルは確認したか」

「していない」

「してから行け」

「確認してから行く」

「その間に考える」

「何を考えるんだ」

「行くかどうかを考える」

「行ってくれるのか」

「考えると言った」

「考えてくれるんだな」

「考えると言った」

「考えてくれ」

「……考える」

準が横から言った。

「鷲宮ってまだ盛り上がってるのか」

「魂は今も燃えてるよ」と細田。

「アニメスピリット、スティルアライブYO」とマイケル。

「10年以上前のアニメの聖地に、まだ人が来るのか」と雅紀。

「来る。信仰は消えない。俺のVTECへの信仰と同じだ」

「VTECへの信仰と聖地巡礼を同列に置くのか」

「同列だ。愛するものに会いに行く。それだけだ」

呉が工具を持ちながら通りかかった。

「……またくだらんドライブか」

「くだらなくない、聖地巡礼です」と細田。

「くだらんドライブだ。ちゃんとオイル見たか、オイル」

「……見ます」

「見てから行け。あとお守り代わりに10W-40を持っていけ」

「整備士のお守りがエンジンオイルなのか」と準。

「当然だ。エンジンオイルは全てを解決する」

「全ては解決しない」と加賀。

「走り屋の問題は全て解決する」

「……まあ、そうかもしれない」

細田がフィットのボンネットを開けた。

オイルを確認した。

「……大丈夫です、呉さん」

「よし。行ってこい」

「加賀、行ってくれるか」

加賀がセリカのキーを見た。

「……フィットで行くなら俺はセリカで行く」

「セリカで聖地巡礼か」と雅紀。

「走り屋は自分の車で走る。フィットには乗らない」

「フィットが可哀想だ」と細田。

「フィットはお前の車だ。お前が乗れ」

「乗る。でも加賀にも乗ってほしかった」

「乗らない。でも行く」

「行ってくれるのか」

「行く。走り屋は道がある限り走る。鷲宮に道があるなら走る」

「走り屋の聖地巡礼だ」と細田。

「聖地には行かない。道を走るだけだ」

「一緒だ」

「一緒じゃない」

「一緒だ」

「……まあ、そういうことにしておく」


鷲宮神社。

到着した。

細田が痛車のフィットから降りた。

泉こなたのラッピングだった。

「見ろ、この空気を。この社殿を。この鳥居を。全部らき☆すたの息吹だ」

「どのへんが息吹なんだ」と準。

「この絵馬コーナーを見ろ。これが息吹だ」

「うるせぇ」と雅紀。

「なんかこの空気、懐かしい感じがする。まだ"萌え"が純粋だった頃の——」

「ピュア・モエ・エナジーYO」とマイケル。

「俺、車で待っていていいか」と加賀。

「ダメだ。今日はお前もオタクになる日だ」

「オタクにはなれないと言った」

「言ったが今日だけだ」

「今日だけもなれない」

「なれ」

「なれない」

「なれ」

「……わかった。5分だけだ」

「5分で巡礼できるか」

「できなければ帰る」

「……まあ、来てくれるだけでいい」

細田が手水舎に向かった。

「全員並べ。手水舎で浄化してから参る」

「オタクなのに礼儀正しいな」と準。

「これが聖地巡礼マナー講座の成果だ」

「その講座、どこで受けるんだ」

「YouTubeデースYO」とマイケル。

「YouTubeで礼儀を学ぶのか」と加賀。

「ちゃんとした内容だった」と細田。

「内容が正しいとは限らない」

「正しかった。確認した」

「何で確認した」

「Wikipedia」

「Wikipediaで確認したのか」

「した」

「……まあ、間違っていなければいい」

細田が鈴を鳴らして祈った。

「……推しがこれからも幸せでありますように。あとVTECがよく回りますように」

「それ、どっちに祈ってるんだ」と加賀。

「神とこなた、等価交換だ」

「等価交換か」

「そうだ。俺の信仰を捧げる代わりに、推しとVTECの加護をもらう」

「神とアニメキャラクターを等価に扱うのか」

「等価だ。どちらも俺の人生に同じくらい影響を与えた」

加賀が少し間を置いた。

「……俺もセリカに祈っておくか」

「セリカに祈るのか」と細田。

「お前が神とこなたを等価交換するなら、俺はセリカに祈る権利がある」

「それは走り屋の祈りだ」

「走り屋の祈りだ」

加賀が鈴を鳴らした。

「……セリカ。今日も走らせてくれてありがとう。明日も走る」

「参拝の内容が走り屋すぎる」と雅紀。

「走り屋だから」

「神様に伝わるのか」

「伝わらなくていい。俺が言いたかっただけだ」

「それは参拝じゃなくて独り言だ」

「走り屋の独り言は全部参拝だ」

「そういうことにしておく」


絵馬コーナー。

準が絵馬を読み上げた。

「"泉こなたforever。" "つかさ尊い。" "オタクに救いを。"……」

「十年前からタイムスリップしてきたような文化遺産だな」と雅紀。

「アニメ神話学的資料YO」とマイケル。

「で、俺たちはいつ帰れるんだ」と加賀。

「帰らん。このあと"らき☆すた聖地マップ"全制覇だ」と細田。

「どこに行くんだ」

「鷲宮→幸手→春日部→京アニ跡地」

「京アニは京都だぞ」と準。

「行く」

「埼玉から京都は遠い」

「行く」

「東名高速で4時間以上かかる」

「行く」

「高速代と燃料代が——」

「行く」

「フィットのオイルが——」

「行く」

「細田」

「行く」

「細田」

「行く」

「……全員でフィットに乗っていくのか、京都まで」

「セリカも来る」

「俺のセリカを京都まで走らせる気か」と加賀。

「来てくれるか」

「……走行距離が伸びる」

「構わない」

「構わない、とは言えない。俺のセリカの走行距離は俺が管理する」

「……わかった。京都は諦める」

「鷲宮と幸手と春日部でいい」

「春日部まで行くのか」と雅紀。

「クレヨンしんちゃんの聖地だ」

「らき☆すたの巡礼じゃなかったのか」

「ついでだ。埼玉の聖地を全部回る」

「全員「遠い!!」」


帰り道。

フィットの中。

全員が疲れていた。

「もう二度と行かない」と雅紀。

「巡礼というより修行だった」と準。

「俺、車の走行距離が魂より先に限界来た」と加賀。

「どういう意味だ」と細田。

「俺は魂ではなく車で限界を測る。今日のセリカは87km走った。俺の魂も87km分消費した」

「走り屋の精神論だ」

「走り屋の物理論だ」

「だが心は一つになったYO」とマイケル。

「一つになったか」と加賀。

「なったYO。みんな今日、一緒に走ったYO」

「俺はセリカで走った。お前らとフィットは別の道だった」

「でも同じ目的地に着いたYO」

「……まあ、そうだな」

細田が言った。

「だろ。オタクも走り屋も、聖地を愛する者に境界なし」

「境界があるかどうかはわからない」と加賀。

「でも今日は一緒に来てくれた」

「来た。セリカを走らせたかっただけだが」

「走り屋的な理由で来てくれた」

「走り屋の理由しかない」

「それでいい」

細田が窓の外を見た。

春日部から帰る道だった。

荒川の土手が見えた。

「……なんか今日、よかったな」

「何がよかったんだ」と加賀。

「みんなと来れたから」

「俺はセリカで来た」

「でも来てくれた」

「……まあ、そうだな。来た」

「ありがとな、加賀」

「礼は要らない。走った。それだけだ」

「でもありがとな」

「……要らないと言っている」

「でも言う」

「……まあ、好きにしろ」

準が窓の外を見た。

「……次はどこの聖地に行くんだ」

「え、行ってくれるのか」と細田。

「聞いてるだけだ。行くとは言っていない」

「聞いてくれたということは興味があるということだ」

「興味はない。聞いただけだ」

「聞いてくれた」

「聞いただけだ」

「……でも聞いてくれた」

「……まあ、聞いた」

「次は秩父だ。あの花の聖地だ」

「あの花は埼玉の秩父だな」

「そうだ。また来てくれるか」

準が少し間を置いた。

「……考える」

細田が笑った。

加賀が川越街道に入った。

ヴォォォン。

2ZZ-GEが、夕方の埼玉に響いた。

朱音がメモ帳に書いた。

「細田のらき☆すた聖地巡礼:鷲宮神社→幸手→春日部を走破。京都(京アニ跡地)は加賀のセリカの走行距離を理由に断念。加賀が鈴を鳴らしてセリカに感謝を祈った——走り屋の祈りは全部参拝だと言った——記録しておく」

「細田:"オタクも走り屋も、聖地を愛する者に境界なし"と言った——走り屋とオタクの統一理論として記録しておく」

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