クソみたいな出会いの物語 〜魔法とチャリと偏差値の交差点〜
ナレーション(舞花)
「これは恋の物語などではない。事故であり、災害であり、そして何より埼玉である。なお、私はこの話を弟から後から聞かされた。聞かされたくなかった」
埼玉。ある冬の夕暮れ。
一ノ宮雅紀、高3、偏差値63。
放課後の川越街道。
ルイガノのMTBに跨がり、冬の風を切る少年が一人だった。
「指定校推薦、取れなかったら浪人確定。もう嫌だ。でも塾は高い」
溜息をつきながらペダルを踏んだ。
自転車の音だけが、彼の青春を知っていた。
彼にとって放課後は孤独な直線コースだった。
寄り道の定番はハードオフとコンビニの100円コーヒーだった。
今日も同じ道だった。
指定校推薦の掲示板に自分の名前がなかった今日も、同じ道だった。
「……ハードオフで何かいいジャンクが出てればいいんだが」
ペダルを踏んだ。
「時速38km。追い風あり」
そのとき。
前方のダンプからコンクリ片が落ちた。
「ぬおっ」
避けられなかった。
衝突した。
バイクと共に宙を舞った。
空を飛ぶ少年——物理の敗北であった。
同時刻。
川越街道から少し外れた歩道橋の上。
望月詩音、高1、偏差値65。
黒髪のエアリーツインテールが風に揺れていた。
「兄貴がまた"ロータリーは人生"とか言ってた。はぁ」
スマホを見ながらため息をついた。
かつての中学での肩書きは「学年の女王」だった。
今は普通の女子高生だった。
節約のため徒歩帰宅を選ぶ誇り高き庶民だった。
その時。
歩道橋の向こうから、人影が来た。
詩音が目を細めた。
「……あれ?」
すれ違う少女だった。
中学時代、自分がいじめていた子だった。
その目には恐怖がなかった。
殺意だった。
「望月詩音……ようやく見つけた」
「は?」
空気が歪んだ。
紫の光が迸った。
「私は契約したの。絶望を糧に力を得る魔法少女として」
「……お前、それ大丈夫? 権利関係とか」
「滅びよ、学歴主義」
光弾が発射された。
「ぎゃあああ」
同時刻。
「うおおおっ、時速38km、追い風あり」
雅紀がコンクリ片を踏んだ。
浮いた。
「ぬおっ」
空を飛んだ。
空を飛ぶ少年——物理の敗北であった。(2回目)
弧を描いた。
歩道橋の上に落ちた。
ドゴォォォン。
「ぎゃっ」
魔法少女に直撃した。
光と煙が散った。
「……え?」と詩音。
「……痛い」と雅紀。
ルイガノのリムが変形していた。
「何この展開。今、助けられた? チャリで?」
「俺が聞きたい。俺、なんで飛んだ」
「えっと……まーくん?」
「誰だお前」
ナレーション(舞花)。
「こうして、二人の出会いは始まった。それは魔法でも運命でもない。ただの交通事故だった。弟から聞いた時、私は3秒間無言だった」
次回:「ロータリーに恋をした少年〜嗚呼、回転という名の恋〜」に続く




