第19話
ソルは明らかに無理をしていた。
新曲のレコーディング、深夜まで続くダンス練習、メディア対応。
スヒョンとの提携が報道され、注目度が急上昇した分、スケジュールは殺人的に詰め込まれていた。
私はたびたびスタッフに掛け合ったが、現場では「トップアイドルの宿命」と一蹴される。
そんなある晩――。
「ソル!」
スタジオで倒れた彼を見つけたとき、血の気が引いた。
顔は真っ青で、額に玉のような汗。
息も荒い。
「だ、大丈夫……ちょっとめまいが……」
「大丈夫なわけないでしょう!」
私は彼の手を握り、震える声を押し殺した。
救急車を呼ぶよりも早く、自分の車に彼を乗せて病院へ向かう。
心臓が早鐘のように鳴っていた。
⸻
1 医師の言葉
「過労と心臓への負荷が限界を超えています」
医師の声は冷静だった。
「一度、最低でも二週間の完全休養が必要です。それ以上続ければ……命に関わります」
私は目を閉じた。
――わかっていた、こんな日が来ることを。
でも現実に突きつけられると、恐怖で胸が潰れそうだった。
ソルの瞳がかすかに開く。
「……ユナ、ごめん……また、迷惑かけて」
「迷惑なんて言わないで」
私は手を強く握りしめた。
「私のためじゃない、あなた自身のために休んで」
「……わかった。けど……」
ソルの目が曇る。
「スヒョンの思うツボになるな……君の未来、邪魔させない」
「そんなことさせない」
私は誓うように囁いた。
「あなたの未来も、私たちの未来も、誰にも壊させない」
⸻
2 スヒョンとの対決
翌日。
病室から戻った私は、その足でスヒョンのオフィスを訪れた。
受付を通さず扉を開ける。
「ソルの件、知ってますよね」
スヒョンは微笑を崩さない。
「もちろん。だが彼は人気者だ、君もわかっているはずだろう?」
「もう二度とあんな働かせ方はさせません。契約には健康保護条項が入っているはずです」
「それは“原則”であって“絶対”ではない」
「私に本気を出させたいなら、どうぞ」
私は一歩踏み込んだ。
「財閥内でも、あなたのやり方を快く思っていない人はいる。情報が必要なら、こちらにも手段はあります」
スヒョンの目が鋭くなった。
「強くなったな、ユナ」
「あなたにそう言わせたなら、上出来です」
私たちの間に、一瞬火花が散るような空気が流れた。
⸻
3 約束の夜
その夜、病室で静かに眠るソルの手を握った。
「あなたの未来を守るって決めたの。私が勝つ。絶対に」
指先がぴくりと動いた。
「……信じてる……ユナ……」
小さな声が胸に染みた。
私は微笑み、そっと額にキスを落とす。
たとえ未来がまだ霧の中でも――
私はこの手を離さない。必ず。




