第18話
レッスンスタジオに入ると、ソルがひとりピアノの前にいた。
鍵盤の上で指が迷い、短い旋律が何度も途切れる。
「ソル」
私の声に、彼は肩をすくめて振り向いた。
「……ユナ、今日は忙しいんじゃ?」
「あなたの顔が見たかっただけ」
私は隣に腰を下ろす。
「スヒョンとの提携、決まったわ」
ソルの手が止まる。
「俺のため、だろ?」
「それもある。でも、それだけじゃない」
私はまっすぐに彼を見る。
「あなたを、ただ守るためじゃなく、自由にするために選んだの。チャンスも、選択肢も増やしたかった」
ソルは苦笑した。
「俺さ……君の世界に釣り合わなくなるんじゃないかって、時々怖くなる」
「そんなことない」
「言葉じゃなくて……証明してほしいんだ」
ソルは不意に私の手を取った。
「ユナ、俺は君が好きだ。前からずっと。でも――俺のことで縛られるのは嫌だ」
「縛られるんじゃない、選んでるの」
私は強く握り返した。
「だから、怖がらないで。私もあなたと一緒に未来を選ぶ」
ソルの瞳が揺れ、優しく細められた。
そのまま、そっと私の額にキスを落とす。
けれど彼はそれ以上踏み込まず、ふっと離れた。
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1 スヒョンの挑発
数日後。
財閥のパーティーに顔を出すと、スヒョンがすかさず隣に来た。
「今夜もお綺麗だ、ユナ」
「ありがとうございます。今日は“ビジネスの顔”で来ていますけど」
「それなら、僕からも“ビジネスの提案”を」
スヒョンはワイングラスを傾けた。
「カン・ソル。君は彼を守ろうと必死だが、果たしてその価値があるかな?」
「彼を“価値”で量ること自体が間違いよ」
「感情的な答えだ」
スヒョンは微笑を崩さず続けた。
「僕なら、君の夢も事業も、もっと強く後押しできる」
「それがあなたの本心?」
「……一部はね。残りは、君への興味そのものだよ」
私は静かに視線を合わせた。
「私の心は、私が決める。誰にも奪わせない」
スヒョンの目が一瞬だけ鋭く光った。
けれどその表情はすぐに柔らかな笑みに戻る。
「楽しみだよ、君がどこまで抗えるのか」
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2 新たな兆し
帰りの車中。
私はふとスマホを開いた。
レイラからの新たなメッセージが届いていた。
《ソルの運命に新しい“揺らぎ”が出ている。歌う未来はまだ決まっていない》
私は拳を握りしめた。
「なら、もっと強く守ってみせる」
声に出して誓う。
窓の外、夜の街が遠ざかる。
けれど私の心は、次なる行動へとすでに動き始めていた。




