路地裏の守護者たち
崩落する地下実験場から、ラミエラたちは間一髪で地上へと脱出した。夜が明け始めたギネタールの街に、灰と埃にまみれた彼らが転がり出る。
地上では、地下の崩落音を聞きつけた市民たちが何事かと集まっていた。そこへ、レイヴンが準備していた情報網が火を噴く。街中の広場や掲示板に、エリスが解析し、ルナが監視していた「地下実験の実態」を告発する資料が一斉に貼り出されたのだ。
もはや騎士団は、隠蔽を続けることは不可能だった。
汚職に関与した騎士団の幹部たちは、駆けつけた王室直轄の監査局によって、その場で次々と拘束されていった。かつての権威は地に落ち、市民たちの怒りと困惑の熱気が、街を覆いつくしていた。
数日後。
騎士団の詰所は一時的に閉鎖され、ガレウスら、腐敗に染まっていなかった若い騎士たちが中心となって、組織の再建が始まった。
ラミエラの自宅兼探偵事務所には、連日、多くの依頼人が訪れるようになった。しかし、以前のような猫探しではない。「街の小さな困りごと」から「貴族の不当な圧力の相談」まで、ラミエラはF級冒険者のまま、街の人々の相談役として信頼を勝ち取っていた。
「まさか、こんなに有名になっちゃうなんてね」
エリスの研究所で、ラミエラは苦笑いしながら紅茶を啜った。窓辺ではルナの黒猫が日向ぼっこをし、ルナも珍しく外の空気を吸いに姿を見せている。
「君が騎士団を引退させちゃったからね。おかげで街の魔導管理はめちゃくちゃだよ。しばらくは僕たちの商会が、物流を支えることになるだろうね」
レイヴンはそう言いながらも、その瞳には以前のような「権力を塗り替えたい」という野心ではなく、より大きな「この街を自分たちの手で良くしたい」という穏やかな情熱が宿っていた。
「ねえ、ラミエラ。これからも、その『蟲使い』の仕事、続けるの?」
ルナの問いに、ラミエラは肩に止まるチョウチョさんを見つめた。
彼らとの冒険は終わったのではない。むしろ、この街を本当の意味で見守るための、ようやく始まったばかりの日常なのだ。
「ええ。騎士団がどんなに立派になっても、見えない場所の痛みは、騎士にはわからないわ。路地裏の小さな声を聞くのは、私の仕事だもの」
ギネタールの街は、相変わらず騒がしく、権力争いの火種は尽きないだろう。けれど、路地裏にはもう、隠された真実を暴く準備ができた四人の幼馴染がいる。
ラミエラは事務所の看板を掛け直した。
『ラミエラの相談所 ―蟲と仲間と、真実の行方―』
路地裏の蟲使いの物語は、これからも静かに、しかし確実に、この街の根っこで紡がれていく。




