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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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679話 新しい道です

「ロッ……? ロッテ婆?」


 王都の救貧院の一角にある院長室で、カトリンは目を丸くしていた。

 目の前にいるのは見た事のないような美しい陶磁器人形と見紛う令嬢である。

 無理もない、どこからどう見てもこの子供がロッテ・シャルルヴィルだと名乗っても信じられることではなかった。


 カトリンはあの後、鉱山から1番近い街の診療所へ運ばれて療養の後、王都の救貧院で手伝いとして住み込みで働いている。


 娼館の商品だった彼女が、救貧院にいるのには理由があった。

 それは、鉱山支配人のグンターが捕まった事に端を発する。


 彼は朧水晶の売り上げの一部を横領していただけでなく、その他にも死んだ鉱夫の給金などにも手をつけていたのだから、鉱山における金の流れが洗い直されたのは必然というべきものだった。

 そこで、娼館への報酬にも目が付けられた。

 鉱山からは契約通り支払われていたが、その調査の余波で娼館経営者の不正が見つかることになる。


 それは収入を低く申告する事をはじめ、花代のピンはね、娼婦の数や部屋数までが届出と違っていた。

 そして娼婦達の生活費や衣装に法外な値を付けて、彼女達の借金が減らないようにして縛り付けていたのだ。


 これは裏町の娼館では、よく見掛けるあこぎなやり方である。

 そのせいでほとんどの娼婦達は容色の衰える時期まで娼館を出る事は出来ないのだ。


 その悪辣な手法の大体は徴税官に賄賂を渡すことで見逃されていたし、読み書き計算の出来ない娼婦達がその本質に気付く事も、ましてや訴える事もなかったので摘発される事は稀なことであった。


 衛兵や自警団は国民の生活を守るとはいえ、行き場を無くした人間がたどり着く裏町までは中々手が回らなかった。

 娼館に客として通う事はあっても、わざわざ娼婦を助けようという奇特な人間はいないのだ。


 せいぜいが何年かに1度、見せしめの為に手頃な娼館に手が入るくらいで、それこそ新聞に載るくらいの殺人事件が起きなければ役人は動くことはない。


 そういう意味では、摘発の時期でもなく凶悪犯罪があった訳ではないこの娼館の経営者は、酷く運が悪かったといえよう。


 そうして娼館はこれまで誤魔化していた税金と娼婦達の給金をその財布から吐き出した結果、つぶれることになった。


 売れっ子であった娼婦達は本来の報酬を懐に自由を手に入れ、そうでない者は別のマシな娼館に居を移すことになる。


 そんな中で、カトリンはかなりのまとまった額を手にして、娼館を出たひとりだった。


 娼婦達の身の振り方についての相談に乗ったのは、何を隠そうギルベルトの母親ヨゼフィーネ・アインホルンである。


 救貧院や孤児院に出入りする本物の篤志家である夫人は、シャルロッテ・エーベルハルトの要請と、息子が鉱山の後処理に関わっていることもあって快くその役を引き受けてくれたのだ。


 そのお陰で娼婦の何人かは裏町の生活から抜け出すことが出来ていた。

 自由を手に入れたものの帰る家の無い者ばかりである。

 実際には家はあっても、戻ればまた売られかねないというのが正しいのか。


 無知な彼女達は実家に帰る帰らないを別にして、大概がそのまま流されるように裏町の飲み屋などで働き、その常連の男に入れ込んだ結果別の娼館に売られることもざらであった。


 そんな彼女達にヨゼフィーネ夫人は、最低限の教訓や常識を与えて幾つかのツテを頼り、ある程度生活に不自由のない仕事を斡旋したのだ。


 これは引退した娼婦には破格の待遇と言うべきものだった。

 女達は各々、夫人に感謝をして裏町を後にすることになった。


 そんな中、カトリンはヨゼフィーネ夫人が擁護する王都の救貧院の手伝いをする事になったのだ。

 彼女の顔の左側は1部抉れていたり、皮膚が引き攣っていたりと、水晶に侵食された痛ましい痕が残されていた。

 服で見えないだけで左半身にも同様な跡が刻まれている。

 もう娼婦としては売り物にならないのは自明で、かといって他の仕事があるかといえば難しくカトリンにとっては地元から離れたとてよい話であった。

 後遺症で少々左手が不自由ではあるが、洗濯や配膳などは特に苦労する事もなく出来て、衣食住も保証された生活に彼女は安堵した。


 娼館しか知らないカトリンにとっては、毎日が新鮮な驚きで満ちていた。

 陽の光の下、歩き周り物売りから直接物を買ったり市場へ遣いに出ることもある。

 何者にも縛られず自由に敷地外に出ることが出来る事が夢のようであった。


 彼女の美貌は半分喪われてしまっても、それは手にした自由を思えば苦ではなかった。

 色香に誘われて声を掛けられる事は格段に減り、女であることを強要されない毎日は、子供に戻った気分にさえなったものだ。

 傷跡に驚かれることや揶揄われることもあったけれど、彼女にとってはそれはどうでもいい事だったのだ。


 そんな穏やかな日々を暮らしていた所、ヨゼフィーネ夫人からシャルロッテの話を聞かされる事になる。


 神の御使いである聖女シャルロッテが老婆に姿を変え鉱山で食堂の手伝いとして働いていたのだと。

 そして、カトリンと会いたいのだという。


 にわかには信じられない話であったが、恩人であるヨゼフィーネ夫人を疑うのはバツが悪く、うっかり彼女は頷いてしまった。

 貴族の変な遊びかもとも考えたけれど、1度会えばわかることだろうと腹をくくり面会の日を迎えることになった。







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