表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

693/697

678話 報告書です

「なんとも、気味が悪かったですね。女が片言だったり、妙に間延びした声で誘うんです。抗えずに声のする方へ行くと、透明な氷の中に閉じ込められて身動きも取れずに……。今思えばあれは水晶の棺だったのかもしれません。そんなようなものに閉じ込められて、叫んでも金属が擦れるような高い音が……。ああ、朧水晶が鳴った音だ、あれは。音を立てる度に自分の身体が硬いものになっていって、恐怖に飛び起きるという訳です」

 嫌そうにザームエルはそう吐露した。


「なるほど。朧水晶がそばにあると悪夢を見るということは、ありえるね。世の中に放出した欠片を経由して、お仲間を増やす勧誘をする訳だ」

「鉱山に坐する大元の意志を、ばら撒かれた欠片たちが中継するというわけかの」

 ザームエルの話を基点に彼らが語っているのを横目に、私もまた考えていた。


 鉱山には水晶の棲家がそばにあったから、皆が悪夢を見たということかしら?

 少なくともアニーも私も朧水晶を持っていなかった。


 それとも、気付かないだけで身近に置かれていたとか?

 ベッドの下とか、柱の中とか、天井裏とか、誰も漁ったりしない場所にそっと置いて……。

 それともあの廃墟となった鉱山の町全体に、そういう仕掛けがされていたのかしら。

 そう思うと寒気がした。


 そうやって知らないまま、朧水晶に汚染されようとしていたとしたら、それはなんと酷い悪意だろう。

 それこそ呪いというものだ。


「ああ、なるほど。朧水晶がただの石になったのはそういう事か」

 突然、学者が閃いたように顔を上げた。

「僕は古くなった紙がボロボロになるように、掘り出された朧水晶は一定の期間で魔力的な何かが抜けでて劣化したのではないかと思ってたんだけどね。それだと全部が一斉に変化したのが腑に落ちなかったんだよ」


 世間はちょうど朧水晶がクズ石にすり替わったと、大騒ぎをしていた。


 エーベルハルトの家では賢者縁の石を買う人間はいなかったので、新聞や又聞きでしか詳細はしれないが、朧水晶を購入した貴族はまだしも希少価値から投資先として資金を出した者達の中には一夜でクズ石となった事に絶望して首を括った人がいるとかいないとか。

 世間は騒然としているそうだ。


「それで、そちは何に合点がいったのか?」

 勿体ぶるなとダンプティが促す。

「朧水晶が生命体だといったね? 石が何らかの形で離れても繋がっているから、人に夢を見せることが可能だった訳だ。魔力なり生命力なりが欠片に供給されていたと考えよう。だからね、大元が死んだから欠片達も死んだんだよ。死体だからもう輝きも歌いもしないんだ。それなら全部が同じタイミングで変わってしまったのもわかる」

 ギルベルトのその言葉に私は驚くしかなかった。


「朧水晶が死んだ?」


 確かに水晶の棲家でビーちゃん達が対峙した時、朧水晶はところどころ光を無くしていった。

 夫人はそれを恐れ、私達を解放したのだ。

 でも、その時も十分あの場は光に満たされ輝いていたはずだ。


 何かあったとすれば、その後だ。

 黒い雄牛様の起こした崩落が想像以上に激しくて、核を損傷したのかもしれない。

 それだとますますアニカの利を損なう事になるけれど、神様の考えはわからない。

 それとも別の何かが、あの場を壊したのかしら。


 腑に落ちないけれどギルベルトの説はもっともな気がしたし、人知れず脅威が去ったのだから喜ぶべき事なのだ。


 あの後亡くなったとしたら、夫人にあの枯れた花を渡せたのは良かったといえるだろう。

 人であった時に大事にしていたものだもの。


 悪意からか善意からか、人を水晶にし続けた夫人はもういない。


 どうか安らかにと、水晶に振り積もった人々の魂に哀悼を捧げた。


 朧水晶がいなくなったのなら、もう鉱山自体を警戒したり封鎖することもしないでいいのだ。


 ラムジーの小屋には人を解体する為の道具が用意されていた事や、骨を抜いたその後ゴミ穴に投げ捨てていたことは、現地の調査が証明してくれるだろう。


 あの場の惨状が、実際にその目で見た鉱夫達から広まることもありうることだ。

 上から与えられた情報ではなく、鉱山帰りの男達から臨場感を持って語られるそれは、疑われることなく瞬く間に広まることだろう。


 だけど公には真実の10分の1程も伝わる事はないのだ。

 いや、ひとつも伝わらないかもしれない。

 朧水晶が人であったなんて誰も思いはしない。

 人の体を身につけ飾っていたなんて、公表出来るはずがない。


 あそこであった事は、全て人の手によるものとされるのだ。

 罪深き犯罪者は、人の死体を弄ぶ快楽殺人鬼と、金に目のくらんだ守銭奴の2人だけなのだから。


 今回の聞き取りは論文ではなく王国見聞隊の報告書として公に出るものではないだろうが、それでもひっそりと後世に残される事になるだろう。

 混乱を避ける為に真実は隠されても、それは人の目に触れない場所に眠るのだ。


 この私の告白はギルベルトの手により書き上げられ、万が一の時の一助となる。



 また朧水晶、もしくは似たような怪異が世に出た時の為に。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ