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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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675話 堕ちたモノです

「人っていっても死体だからねえ。倫理的な問題はあるかもしれないけれど、結局『肉』は『肉』ってことだと思うよ。墓場荒らしが実は屍食教信者だったという事件があってね。そこから屍食教の名前が世に出たんだ。死体を食べても、実際には器物損傷の扱いになるのかな? 別に彼らが殺した訳じゃないんだ。死体を盗まれた家族はたまったものではないだろうけどね」


 そりゃあそうだ。

 私ならいくら死体だからといっても誰かに好き勝手されたくない。


「うむ、だが屍食教の方も盗まれたと気付かれないよう偽装しているだろうしの。果たしてどれだけの死体が盗まれているのやら」

「周りからの扱いは推して知るべしだけど、忌避感が強いせいか事件は伏せられることが多いと聞くね」


 では、ぐーちゃんも人を食べたのかしら。

 ぐーちゃんはいい人だわ。

 それは間違いない。


 でも死体を食べるなんて受け入れていいものかどうかなんて、考えたこともない。

 でも人を食べる動物は多い。

 彼が言うように「肉」なのだ。

 そう考えても、元が人ならば共喰いではないか。


 その時に、ぐーちゃんの言葉を思い返した。


「ぐーうの食べ物」が苦手で、みんなに置いていかれたと言っていなかったかしら?

 彼のいっていた「ぐーうの食べ物」は人の死体を指していたのね。

 それを食べるのを拒否して仲間外れになったというなら、ぐーちゃんは人を食べていないのではないだろうか?


 そう思い当たってホッとした。

 彼らの文化を否定する訳ではないけれど、ギルベルトのようには割り切れない。

 気になるのは当然ではないか。


「それでね、悩ましげなお嬢さんに伝えたいことがある」

 得意気にギルベルトは私に話し掛けた。

 思わず自分の頬を両手で包む。

 そんなに顔に出ているとは思わなかった。


「『グール』は、なんと神話の生き物なんだ!」

「……、え?」


 学者は高揚したように声を張り上げた。

「その目で本物を見た君なら、文献を紐解かなくてもわかるだろう? 犬のような顔? 赤い目?  湾曲した背骨? あまりに人から離れた姿だ。中には人のままの姿の者もいるらしいけれど、ほとんどは異形であるらしい。それらが何らかの病で変貌したとは考えられないだろう?」

「確かに……」

 言われれば、その通りである。

 目が赤くなる病があったとして、暗闇でそれが光るなんておかしいもの。


 そういう種族であると思っていたから何も疑問を持たなかったけれど、元は人であると言われたら耳を疑ったことだろう。


「人をそこまで変化(へんげ)させるのだから、それはもう神の御業に近い何かなんだよ。異形の姿でありながら生命活動が維持出来ているんだ」


 そうよねマズルのような鼻と口元になるだけでも、頭蓋骨が変形するのだ。

 そうして形を変えても生きていられているのは確かに奇跡かもしれない。

 声が高くて細いのも、声帯や気管支が変化した結果なのかもしれなかった。


 同時に噛みつき男を思い出していた。

 頭が無くても動いていた。

 手の平に口が付いて喋っていた。

 あれは人でありながら人ならざるモノだった。


「人によっては、それは忌まわしい呪いであり、見方を変えれば祝福とも言えるんだ」


 そう聞くと屍食教なるものが存在するのも納得だ。

 目に見える「祝福」を前にして、人は神の存在を感じるだろう。

「だから君の友人について『人喰い』かどうかなんて気に病む必要はこれっぽっちもないんだ! 大抵の神話生物は人を喰ってしまうものだからね。死体を喰う事が『グール』を『グール』としてたらしめているのならば責めるのはお門違いだ。だからどうか気にせず僕に紹介してくれ!」


 この人は、あっけらかんと私の悩みを蹴り飛ばしてしまった。

 最後の一言が全てなのだろうけど。

 心底神話生物に魅入られているのだ。

 その潔さが羨ましくなる。


「そしてもうひとつ重要なことは、屍喰鬼は堕ちた神だということだ」

 学者は眼鏡をクイッとあげて見せた。


「君は『グール』の存在を知っていたよね?」

「ええ、物語に出てきたり、御伽噺とかにも」


 そう、その存在は寝物語にピッタリだ。

 早く寝ないとグールが迎えに来るとか、悪い子はグールに連れ去られるとか躾に都合よく使われたりしている。


 それは、よくある話だ。

 どこにでも転がっている、よくある話。


「それこそが堕ちた証拠なんだ。彼らが昔にどのような力を持っていたのかは分からないが、それを脅威に思った人間達がいたのは間違いない」

 すっかり興が乗ってきたようで、学者は少々早口だ。

 それを遮るようにダンプティが口を挟む。


「如何にも。彼らは大昔、大いなる力を奮って人間を脅かしていた。そして人と交わりその数を増やしていたのだ。今だ消えぬ因子として人の中で眠っておる」

 見てきたように言うダンプティへ、ギルベルトは少し怪しそうに視線を投げ掛けた。

 ダンプティが、本の知識を実際に自分が見たように表現していると考えてのことかもしれない。


「だから人は『グール』の名を貶めたのだろうね」

「貶めた?」

 学者は大きく頷いた。


「その名を広げ、物語の三下に配役をしてね」

「神の名は、秘匿すべきもの……」


 私はようやく合点がいった。









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