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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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672話 補償です

 朧水晶の販売に関わった人間は怒号を浴びせられ、店の前にはゴミが投げられ嫌がらせがエスカレートする。

 そうして矢面に立つ者達は、自分達の受ける理不尽な批判から、大元への恨みを募らせ責任の追求と補填を求めた。


 朧水晶の販売を一手に引き受けるハインミュラー商会へと。


 勿論、その産出元のオイゲンゾルガー伯爵家が一番の槍玉に上がったのだが、こちらは鉱山支配人達による犯罪で裁かれている最中だ。


 しかも伯爵邸は、山の上ときていて気軽に訪れる場所ではない。

 苦労してたどり着いたとて本人は不在で、衛兵や騎士が慌ただしく出入りしている所へ押しかけても門前払いされるだけである。


 犯罪の詳細はまだ明らかにされてはいなかったが、横領が起きたことは報じられていた。

 勿論、取引相手のハインミュラー商会への立ち入り調査もあり、それがより世間の不安を煽っていた。


 そういう意味からも、商会へ人の目が集中するのは当然とも言えた。


 ここで商会長は悪手を打つ。

 今回の件は、朧水晶が変質したのではなく巧妙にすり替えが行われたのだと公言したのだ。

 捜査当初の方針の通り組織的な犯行であり、これはハインミュラー商会を貶める為の何者かの策略なのだと。

 そう、自分達も被害者であると発表したのだ。

 大掛かりな陰謀論を掲げ、購入者達の主張とは平行線を辿る事になる。


 それの真偽がどうであれ、責任逃れの主張であるのは誰の目から見ても明らかであった。

 彼らは自身らが敷居の高い老舗の商会であると自負し、非がないと今までと同じようにしただけであったのだが今回は勝手が違った。


 そんな中、貴族の中でも被害に合わなかった者達も当然ながら存在する。

 伝統的な既存の宝石を好む古い家門の者や高位貴族、そして朧水晶の流通が比較的少なかった東部の貴族達であった。


 東部の流通を担うロンメル商会はその商会理念、「オカルトには関わらない」という方針から、いきなり現れた歌う水晶と呼ばれる胡乱な宝石「朧水晶」とは距離をとっていた。


 それが懇意にしている聖女と対立する賢者アニカ・シュヴァルツが発見したというのだから避けたのは経営者の判断として当然ともいえる。


 販売元のハインミュラー商会とは方針も違っていたし、これまで西部進出の邪魔をされたりもしてきた。

 そんなライバル商会に頭を下げて仕入れたとしても、その時点で高値を提示されるだけだろう。

 たかが利益はしれている。

 小金を稼ぐ為にエーベルハルト侯爵家の機嫌を損ねては、元も子もなかった。


 そういった意味で、ロンメル商会は朧水晶とは縁がなかったのだ。


 その結果、今回の被害はほぼなかったと言ってよい。

「ほぼ」というのは、懇意にしている貴族からの要望で朧水晶を融通することもあったからだ。

 それについても、苦情にまでは発展しなかったのは運が良かったといえよう。


 さて朧水晶の責任の在処がどうなったかと言うと、結果としては当然オイゲンゾルガー伯爵家とハインミュラー商会が負うことになった。


 朧水晶が消えるなら盗難としても扱えたが、すべてをクズ石にすり替える事など人の技では不可能だからだ。


 この奇妙な事件の調査の為、宝石や鉱物の専門家達が召集され議論が交わされた結果はこうであった。


 朧水晶は特殊な石であった。

 時に音を出したり僅かな発光をするそれは、何らかのエネルギーを蓄えていたと思われる。

 そして今回の件は、そのエネルギーを使い果たした結果なのだと。


 他にも博物学の学者からは長年地中にあり掘り出された事で空気に触れて急速に劣化したのではないかとの意見が出されたり、宗教者からは神に何らかの理由で嫌われて輝きを奪われたのだという話も出たものだ。

 どれも根拠はないが聞いた人間が受け入れやすそうな説が流布されることになる。


 そしてその予測が出来なかったのは不幸であるが、石の性質の精査を充分に行わず世に流通させ混乱を招いたということで、オイゲンゾルガー伯爵家とハインミュラー商会が被害者達に幾ばくかの補償金を出す事で落ち着いたのだ。


 被害者達は、全額は無理とも一部だけでも戻る事で一旦は落ち着きを取り戻した。

 保守的な社会において、出自の怪しいものに飛びついた浅はかさへの批判も上がりだしていたことも、事態の収拾に一役買っていた。


 詐欺に遭ったようなものだが、この場合加害者である伯爵と商会もある意味被害者なのだ。

 関わった者達は、その真価を見抜けず高い勉強代を払ったという形になった。

 その裏返しには朧水晶を買わなかった者達の優越感もあっただろう。


 補償金の受け取りについても、一悶着が起きる事になった。


 貴族はそのプライドから、おいそれと受け取りに出向く事は出来なかった。

 そんな中、恥を忍んで補償金を受け取るとなると「あそこの家は、平民と並んで金を施されたのだ」と噂が立つ始末だ。

 それもあって受け取りを拒否する貴族が多かったのは伯爵と商会には幸運な事であったが、それでも一筋縄ではいかなかったのである。


 明らかに貴金属の購入が不可能な庶民をはじめ、上流階級の装いをした紳士までが、その辺の石を拾って「これは朧水晶だ」と主張する補償金受取詐欺が横行したのだ。

 殆どは見るからに偽物であったが、白濁したグレードの低い水晶など一部は見分けがつかないものもあり鑑定には時間が掛かることになる。


 その影響で、庶民向けの石屋や採掘場にある捨て値の水晶が飛ぶように売れて、最終的には補償される金額よりも高くなるという逆転現象も起きた程で、この騒動は人の愚かしい笑い話として歴史に残る事になった。


 そして振り回された彼らの中には、燻るように朧水晶を発見した賢者への不満が芽生えていた。

 逆恨みでもこう思うのだ。


 見つけなければ良かったのに、と。







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