『夏休みの始まりと、眩しい私服の君』
終業式が終わり、校庭のセミの声がいよいよ勢いを増してきた7月の終わり。学校という枠組みから解放された解放感と、これから始まる長い休みに胸を躍らせる空気感が、街全体を包み込んでいた。
そんな夏休み最初の週末、諒は約束の場所である駅前の時計台の下で待っていた。
照りつける太陽の熱でアスファルトがじんわりと温まり、遠くの道路にはかすかな陽炎が揺らしている。手元のスマートフォンで時間を確認すると、約束の10分前だった。
制服ではない私服で会うのは、これが初めてのことだった。
学校という共通の背景がない場所で彼女と待ち合わせるだけで、まるで自分が知らない別の世界に足を踏み入れるような、不思議な緊張感が胸の奥で高まっていく。
「――諒!」
雑踏の中から、聞き慣れた明るい声が届いた。
振り返ると、人混みを掻き分けるようにして駆け寄ってくる美月の姿があった。
いつもの紺色の制服とはガラリと印象の違う、淡いアイボリーのノースリーブワンピース。肩を少しだけ出した爽やかな装いで、動くたびに裾が軽やかに揺れている。髪もいつもより少し高めの位置でまとめられており、うなじの白さが夏の強い光に映えていた。
「待たせちゃった? ごめんね、服を選ぶのにすごく時間かかっちゃって……」
息を少し切らしながら、美月は照れくさそうに上目遣いでこちらを見上げた。手で軽く顔をあおぐ仕草さえも、どこか大人びて見えて、諒は思わず言葉を詰まらせてしまう。
「いや、俺も今着たところだから。……すごく、似合ってるよ。私服、新鮮だな」
「本当? よかった……。諒に変だって思われたらどうしようって、ずっとドキドキしてたんだよ」
美月は胸に手を当ててホッとしたように息を吐くと、満面の笑みを浮かべた。その無邪気な反応に、諒の胸の緊張が少しずつ解けていく。
「諒も、そのシャツすごく格好いい。……ねえ、行こうか?」
美月が歩き出すと同時に、自然な動作で諒の隣に並んだ。
街中はお買い物を楽しむ家族連れやカップルで賑わっており、すれ違うたびに肩が触れそうになる。二人で歩く歩道は少し狭く、歩幅を合わせながら歩いていると、美月の手がそっと諒のシャツの袖口をかすめた。
「人、多いね」
「そうだな。はぐれないようにしよう」
諒がそう言って手を差し出すと、美月は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに嬉しそうに目を細め、その小さな手を諒の手の中に収めた。
ぎゅっと握り返される指先の温もり。
制服を脱いだ二人を包む夏風はどこか甘く、新学期までの長い時間が、二人だけのものとして静かに動き始めていた。




