↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/17

『夏休みの始まりと、眩しい私服の君』

終業式が終わり、校庭のセミの声がいよいよ勢いを増してきた7月の終わり。学校という枠組みから解放された解放感と、これから始まる長い休みに胸を躍らせる空気感が、街全体を包み込んでいた。


そんな夏休み最初の週末、諒は約束の場所である駅前の時計台の下で待っていた。

照りつける太陽の熱でアスファルトがじんわりと温まり、遠くの道路にはかすかな陽炎が揺らしている。手元のスマートフォンで時間を確認すると、約束の10分前だった。


制服ではない私服で会うのは、これが初めてのことだった。

学校という共通の背景がない場所で彼女と待ち合わせるだけで、まるで自分が知らない別の世界に足を踏み入れるような、不思議な緊張感が胸の奥で高まっていく。


「――諒!」


雑踏の中から、聞き慣れた明るい声が届いた。

振り返ると、人混みを掻き分けるようにして駆け寄ってくる美月の姿があった。


いつもの紺色の制服とはガラリと印象の違う、淡いアイボリーのノースリーブワンピース。肩を少しだけ出した爽やかな装いで、動くたびに裾が軽やかに揺れている。髪もいつもより少し高めの位置でまとめられており、うなじの白さが夏の強い光に映えていた。


「待たせちゃった? ごめんね、服を選ぶのにすごく時間かかっちゃって……」


息を少し切らしながら、美月は照れくさそうに上目遣いでこちらを見上げた。手で軽く顔をあおぐ仕草さえも、どこか大人びて見えて、諒は思わず言葉を詰まらせてしまう。


「いや、俺も今着たところだから。……すごく、似合ってるよ。私服、新鮮だな」

「本当? よかった……。諒に変だって思われたらどうしようって、ずっとドキドキしてたんだよ」


美月は胸に手を当ててホッとしたように息を吐くと、満面の笑みを浮かべた。その無邪気な反応に、諒の胸の緊張が少しずつ解けていく。


「諒も、そのシャツすごく格好いい。……ねえ、行こうか?」


美月が歩き出すと同時に、自然な動作で諒の隣に並んだ。

街中はお買い物を楽しむ家族連れやカップルで賑わっており、すれ違うたびに肩が触れそうになる。二人で歩く歩道は少し狭く、歩幅を合わせながら歩いていると、美月の手がそっと諒のシャツの袖口をかすめた。


「人、多いね」

「そうだな。はぐれないようにしよう」


諒がそう言って手を差し出すと、美月は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに嬉しそうに目を細め、その小さな手を諒の手の中に収めた。


ぎゅっと握り返される指先の温もり。

制服を脱いだ二人を包む夏風はどこか甘く、新学期までの長い時間が、二人だけのものとして静かに動き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。