『放課後、もう一度伝えたい』
十二月。
吐く息が白くなるほど冷え込む放課後、諒は教室で帰り支度をしていた。
「諒」
聞き慣れた声に振り返る。
そこには美月が立っていた。
「一緒に帰らない?」
「うん。ちょうど終わったところ」
二人は並んで教室を出た。
廊下には、まだ部活へ向かう生徒たちの声が響いている。
「そういえばさ」
美月が歩きながら口を開いた。
「この前、図書室で話したこと……覚えてる?」
「もちろん」
「そっか」
美月は少し安心したように笑った。
あの日から、二人の間には以前とは違う空気が流れていた。
互いの気持ちは、もう分かっている。
それでも、どこか曖昧なままになっている部分があった。
「諒」
「ん?」
「今日、旧図書室に行かない?」
「いいよ」
二人はそのまま旧図書室へ向かった。
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扉を開けると、いつもの静かな空間が二人を迎えた。
夕方の光が窓から差し込み、机の上を淡いオレンジ色に染めている。
美月はいつもの席に座った。
諒も向かいに座る。
しばらく二人とも何も話さなかった。
「……なんか緊張するね」
美月が小さく笑った。
「俺も」
「実はね、今日ここに来たのには理由があるの」
「うん」
美月は膝の上で手を握った。
「諒に、ちゃんと聞きたいことがある」
「何?」
美月は少しだけ顔を上げる。
「私たちって……今、どういう関係なのかな」
諒は一瞬言葉に詰まった。
今まで何度も一緒に過ごした。
手を繋いだこともある。
お互いに特別な存在だと伝えたこともある。
でも、「付き合っている」とは、まだはっきり言葉にしていなかった。
「……美月」
「うん」
諒はゆっくり立ち上がった。
そして、美月の前まで歩く。
「俺も、ずっとそれを考えてた」
「……うん」
「俺は、美月のことが好き」
美月の表情が少しだけ変わる。
諒は続けた。
「友達としてじゃなくて、もっと大切な人として好きだ」
言葉にするのは恥ずかしかった。
それでも、今度は逃げたくなかった。
「だから……俺と付き合ってほしい」
静かな図書室に、諒の声が響いた。
美月は驚いたように目を丸くしていた。
数秒の沈黙。
そして――
「……うん」
小さな声が返ってきた。
「私も、諒が好き」
美月の頬が赤くなる。
「だから……私でよかったら、よろしくお願いします」
諒の胸が一気に熱くなった。
「……本当に?」
「うん」
美月は笑った。
「ずっと言ってほしかったから」
「そっか……」
諒も思わず笑ってしまう。
「じゃあ、今日から俺たち……」
「うん」
美月が頷く。
「恋人、だね」
その言葉を聞いた瞬間、二人とも照れくさそうに笑った。
「なんか、変な感じだな」
「私も。でも……嬉しい」
美月が机の上に手を置く。
諒もその隣に手を置いた。
そして、二人は自然に手を重ねた。
「これから、いろんなことがあると思う」
美月が言う。
「喧嘩するかもしれないし、すれ違うこともあるかもしれない」
「うん」
「でも、その時はちゃんと話そうね」
「約束する」
諒はしっかりと頷いた。
「俺、美月のことを大切にしたい」
美月は少し驚いたあと、嬉しそうに笑った。
「……私も、諒を大切にする」
窓の外では、冬の風が木々を揺らしている。
けれど、二人のいる図書室は不思議なくらい温かかった。
「ねえ、諒」
「ん?」
「明日からどうする?」
「どうするって?」
「学校で会ったら……今まで通り?」
諒は少し考えてから笑った。
「今まで通りでいいんじゃない?」
「そっか」
「ただ……」
「ただ?」
「今までより、ちゃんと美月の隣にいたい」
美月は少し照れながら頷いた。
「……私も」
二人は手を繋いだまま、窓の外を眺めた。
これまでの時間が消えるわけではない。
むしろ、今まで積み重ねてきたすべての出来事があったからこそ、今日の言葉に意味があった。
放課後の旧図書室。
二人が初めてゆっくり話した場所で、二人はついに正式な恋人になった。
「諒」
「ん?」
「これからもよろしくね」
「ああ。よろしく、美月」
二人は笑い合った。
そして、いつもの帰り道を、今日は少しだけ違う気持ちで並んで歩いていった。




