『冬の足音と、ふたりだけの約束』
十一月も終わりに近づき、朝の空気には冬の冷たさが混じり始めていた。
登校してきた生徒たちが「寒いな」と口々に言いながら教室へ入っていく中、諒も少し赤くなった手をこすりながら自分の席へ向かっていた。
「おはよう、諒」
後ろから聞き慣れた声がした。
振り返ると、美月が立っていた。
「おはよう、美月。今日寒いな」
「うん。朝、布団から出るの大変だった」
美月は笑いながら自分の席に荷物を置く。
その様子を見ていた幸星が、ニヤニヤしながら二人のところへやってきた。
「お前ら、最近ほんと仲いいよな」
「え?」
諒が振り返る。
「だってさ、朝来たらまずお互いに挨拶するし、休み時間になったら話してるし。もう見てるこっちが分かるくらいだぞ」
「そ、そんなに?」
美月が少し恥ずかしそうにする。
「まあ……そうかもしれない」
諒も否定しきれずに頭をかいた。
すると、横から佳鈴が笑いながら口を挟んだ。
「いいじゃん。仲良いのって」
「東さんまで……」
「だって、前より二人とも楽しそうだもん」
その言葉に、諒と美月は顔を見合わせた。
以前は、周りの人間関係に振り回されたり、些細なことで不安になったりすることもあった。
けれど今は違う。
何かあれば話せる。
不安になったら、相手に伝えられる。
そして、相手の言葉を信じられる。
それが二人にとって、以前とは大きく違うところだった。
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昼休み。
諒が弁当を食べ終えたところで、美月が小さな声で話しかけてきた。
「ねえ、諒」
「ん?」
「放課後……旧図書室、行かない?」
「もちろん」
即答すると、美月は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、決まりね」
そのやり取りを少し離れたところから見ていた蓮は、何も言わずに小さく笑った。
以前の蓮なら、複雑な気持ちを抱えていたかもしれない。
けれど今は、諒が誰を大切にしているのかを理解している。
「……よかったな、宮川」
小さな独り言は、誰にも聞かれなかった。
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放課後。
旧図書室の扉を開けると、冷たい空気が二人を迎えた。
「やっぱり寒いね」
美月が腕をさする。
「今日は早めに終わらせる?」
「ううん」
美月は首を横に振った。
「少しくらいなら大丈夫。諒と話したいから」
その一言に、諒は少し驚いた。
「……そっか」
二人はいつもの席に座った。
しばらく宿題を進めたあと、美月がふと窓の外を見た。
「もうすぐ十二月だね」
「早いな」
「今年、本当にいろんなことがあったよね」
「うん」
諒も窓の外を見る。
秋色だった木々は、いつの間にか葉をほとんど落としていた。
「最初は、こんなふうになるなんて思ってなかった」
「私も」
美月が笑う。
「諒とこんなにたくさん話すようになるなんて、最初は想像してなかったよ」
「俺も、美月とここまで仲良くなるとは思ってなかった」
「……でも、今は?」
美月が尋ねる。
諒は少し考えてから答えた。
「今は……これからも一緒にいたいって思ってる」
美月はしばらく黙っていた。
そして、嬉しそうに微笑んだ。
「私も」
その言葉だけで、十分だった。
二人の間に静かな時間が流れる。
やがて美月がノートを閉じた。
「ねえ、諒」
「ん?」
「約束しない?」
「何を?」
「これから、嫌なこととか不安なことがあったら、ちゃんと話すこと」
諒は少し驚いた。
けれど、すぐに頷いた。
「うん。約束する」
「それと……忙しくなっても、ちゃんと二人で話す時間を作ること」
「それも約束する」
「あと……」
美月は少し考える。
「無理して一人で抱え込まないこと」
「美月もな」
「……うん」
二人は顔を見合わせて笑った。
そして、机の上で手を重ねた。
「これからもよろしくね、諒」
「こちらこそ、美月」
窓の外では、冷たい風が木々を揺らしている。
冬は、もうすぐそこまで来ていた。
けれど二人にとって、その冬は決して寂しいものではなかった。
これまで積み重ねてきた時間がある。
そして、これから積み重ねていく時間もある。
すれ違うことがあっても、迷うことがあっても、そのたびに話していけばいい。
二人はそんなことを、今まで以上に強く感じていた。
旧図書室を出る直前、美月が振り返った。
「諒」
「ん?」
「来週も、ここ来ようね」
「もちろん」
「絶対だよ?」
「絶対」
美月は安心したように笑った。
そして二人は並んで廊下を歩き出した。
その歩幅は、以前よりずっと自然に揃っていた。




