『秋晴れのグラウンドと、揺れる実行委員会』
来週に迫った球技大会に向け、放課後の校内はどこか浮き立った空気に包まれていた。グラウンドからは運動部の掛け声とサッカーボールを蹴る乾いた音が響き、新校舎の廊下ではクラスの旗を作る生徒たちが床に画用紙を広げている。
「宮川、そっちの用具のカウント終わったか?」
体育館裏の器具庫の前で、黒川蓮がリストボードを片手に声をかけてきた。
実行委員に選ばれた諒と美月、そして蓮の三人は、球技大会で使用する用具の点検を担当していた。かつて旧図書室で張り詰めた空気を交わした相手とは思えないほど、蓮の態度は淡々としていてビジネスライクだ。
「ああ、サッカーボールはこれで全部。あとはバスケットボールの空気圧チェックだけだな」
「了解。じゃあ僕が体育館から運んでくる」
蓮が立ち去ろうとしたとき、少し離れて用具の拭き掃除をしていた美月が、意を決したように声をかけた。
「黒川くん、手伝うよ。ボール、重いでしょう?」
蓮は一瞬だけ足を止め、美月を振り返った。その瞳には以前のような険しさはなく、どこか遠くを見るような静けさがあった。
「……いいよ。角谷さんは宮川とそっちの整理をしてて。僕は一人で大丈夫だから」
立ち去る蓮の背中を見送りながら、美月は小さく息を吐いた。諒が美月の隣に歩み寄り、そっと肩を並べる。
「黒川、ちゃんと割り切ろうとしてくれてるんだと思う」
「うん……そうだね。でも、なんだか少し切ないな。黒川くんも、ずっと一人で抱えてたんだもんね」
美月の優しい横顔を見つめながら、諒は胸の奥が温かくなるのを感じた。他人の痛みに寄り添える彼女のこういうところが、自分はたまらなく好きなのだと再確認する。
「……美月」
「ん?」
用具庫の影、他の生徒たちからは見えない絶妙な死角で、諒は美月の小さな手をぎゅっと握りしめた。作業で少し冷たくなった彼女の指先に、自分の体温を分けるように力を込める。
「球技大会、絶対勝とうな。俺、サッカー出るから……応援しててほしい」
「もう、あたりまえじゃない。誰よりも一番近くで応援するよ」
美月は頬をほんのり赤く染めながら、嬉しそうに目を細めて握り返してくれた。
かつてのようなギクシャクした空気は少しずつ氷解し、クラスという大きな枠組みの中で、二人の絆はより確かなものとして周囲の景色に溶け込み始めていた。




