『歓声のグラウンドと、ふたりだけの特等席』
澄み渡る秋晴れの下、校庭には大音量の BGM と生徒たちの威勢の良い歓声が響き渡っていた。今日は待ちに待った秋の球技大会。色とりどりのクラス T シャツを着た生徒たちが、グラウンドや体育館を行き交っている。
「おーい、宮川! 次、俺たちのサッカー予選だぞ! 早くウォーミングアップ行くぞー!」
同じクラスの男子生徒数人が、遠くからボールを掲げながら諒を呼んだ。
「おう、今行く!」
諒が声を張り上げて応えると、隣にいた同じクラスの女子数人と話をしていた美月が、ふっとこちらに駆け寄ってきた。
「諒、ファイト! ちゃんとコートの脇で応援してるからね」
「ありがとう。美月もドッジボール、怪我しないように気をつけてな」
美月は笑顔でうなずくと、周りの目を盗むようにして諒のユニフォームの裾をキュッとつまんだ。ほんの一瞬の、ふたりだけの合図。諒は胸の奥が熱くなるのを感じながらグラウンドへと駆け出していった。
試合が始まると、諒はミッドフィルダーとしてピッチを縦横無尽に駆け回った。激しい接触や汗ばむ展開の中、ふと観客席の方へ視線をやると、クラスの女子たちと並んで必死に手を振る美月の姿が見えた。彼女と視線が交わった瞬間、諒の脚に一気に力が宿る。
諒の鮮やかなスルーパスから得点が決まり、歓声が上がった。チームメイトの男子たちとハイタッチを交わしつつ、諒はまっすぐに美月へと視線を送り、小さなポーズで応えた。
午前の試合がすべて終わり、昼休み。賑やかな渡り廊下や中庭から少し離れた、校舎裏の木陰にある小さなベンチにふたりは座っていた。
「はい、お疲れ様! 諒、すごくカッコよかったよ」
美月が冷えたスポーツドリンクを差し出してくれた。それを受け取りながら、諒は美月の隣に腰を下ろす。
「美月もドッジボール勝ち進んだんだろ? クラスの女子が『角谷さんの逃げ方が上手すぎる』って褒めてたぞ」
「もう、そこ!? 必死だったんだから笑わないでよ」
美月は照れくさそうに笑いながら、自分の膝の上で手をギュッと握りしめた。周りには風で揺れる木の葉の音と、遠くの校内放送の音だけが聞こえている。
「ねえ、諒」
「ん?」
「みんなでワイワイやるのも楽しいけど……やっぱり、こうやって諒とふたりで話してる時が、一番落ち着くな」
美月がそっと身を寄せ、諒の肩に小さな頭を預けてきた。ふわりと漂う彼女の髪の香りに、諒の心臓がトクトクと跳ねる。
「……俺もだよ。みんなといる時も楽しいけど、美月の声を聞いてる時が一番ホッとする」
諒は空いた手で、美月の柔らかい手をそっと包み込んだ。指と指を深めに絡め合わせると、美月もキュッと力を込め返してくれる。大勢のクラスメイトに囲まれた賑やかな一日の中で、ふたりだけの甘く確かな時間が静かに流れていた。




