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第6話

すると警察官がタイプライターを持ち上げた。


「あと、これ持っていきますね。」

私は反射的に駆け寄った。


タイプライターを掴んだ。


私は掴んで離さなかった。


「お願いです。これは持っていかないで


ください。母に手紙を書くことができな


くなります。これだけはお願いします」


私は必死だった。


警察官が困ったような顔をする。


「これは大事な証拠品なんですよ。」


するともう一人の警察官が静かに聞い


た。


「お母さんに手紙を?」


私は頷いた。


涙があふれてくる。


「はい。」


「十年間……。」


「十年間、一日も欠かさずに手紙を出しています。」


「それがなくなると私は……。」


「私は……。」


その先が言えなかった。


私はタイプライターを抱えたままその場


に崩れ落ちた。


すると、同じ警察官が、静かな声で尋ねた。


「お母さんになぜ手紙を?」


私は涙をぬぐいながら答えた。


「生き別れたんです。」


「今は北の国にいます。」


「会いたくて……。」


「ずっと手紙を……。」


そこまで言った時だった。


「いい加減にしてください!」


もう一人の警察官が苛立った声を上げた。


そして私が抱きしめていたタイプライターを無理やり引き離そうとした。


「これは証拠品です!」


「だめです!」


私は必死だった。


絶対に離したくなかった。


だが相手は大人の男性だった。


力では敵わない。


スルッ――。


一瞬だった。


手が滑った。


その拍子にケースの留め具が外れた。


バタン!


「あっ!」


次の瞬間。


ガシャン!


タイプライターが床に落ちた。


金属音が部屋に響く。


ケースが開き、中身が飛び散った。


「あーっ!」


警察官が顔をしかめた。


「大事な証拠品が!」


「どうするんだ!」


私は呆然とした。


壊れてしまった。


母へ手紙を書いてきた大切なタイプライターが。


すると、さっきから穏やかに話していた警察官がしゃがみ込んだ。


床へ散らばった部品を一つずつ拾い集めていく。


タイプライターの部品。


そして小さな金属片。


活字。


文字の刻まれた部品だった。


「ん?」


警察官の手が止まった。


一つの活字を見つめる。


さらにもう一つ拾う。


そして眉をひそめた。


「おい。」


もう一人の警察官を呼ぶ。


「替えの部品だろ?」


「そうだろうな。」


だが彼は首を傾げた。


「でも……。」


拾った部品を並べる。


「なんで同じ文字が何個もあるんだ?」


「え?」


「Eが三つ。」


さらに別の部品を拾う。


「Hも三つ。」


他にも同じ文字が複数見つかった。


警察官はしばらく黙っていた。


そして二つのEを並べる。


「……あ。」


小さく声を漏らした。


「どうした?」


「よく見ろ。」


もう一人の警察官も覗き込む。


二つのEは同じではなかった。


ほんのわずか。


普通なら見逃してしまうほどの違い。


だが確かに違った。


「そうか……。」


穏やかな警察官は何かに気づいたようだった。


しばらく考え込む。


そしてゆっくり立ち上がった。


私の方を見る。


先ほどまでとは少し違う目だった。


だが声は変わらず優しかった。


「お嬢さん。」


私は顔を上げた。


「このタイプライターですが……。」


「どうしても調べる必要があるんです。」


私は何も言えなかった。


「ですが。」


彼は続けた。


「明日、私が代わりのタイプライターを必ず持ってきます。」


思わず顔を上げる。


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