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第5話

そろそろ父さんが帰ってくる時間だわ。


料理はもう出来上がっている。


今日はポトフ。


父の大好物。


帰ってくると、いつも同じことを言う。


――おまえの作るポトフ、ほんと最高だ。


――将来、シェフになれるぞ。


そして最後に、


――はははっ。


そうやって笑う。


その笑顔が今日も見られる。


そう思うと少し嬉しい。


いや、少しどころではない。


かなり嬉しい。


気がつくと自然に頬が緩んでいた。


その時だった。


ブーッ。


ブーッ。


玄関のブザーが鳴った。


「帰ってきた。」


私は慌てて立ち上がった。


急いで玄関へ向かい、ドアを開ける。


だが、そこに立っていたのは父ではなかった。


警察官が二人。


私は思わず固まった。


「アランさんの娘さんですか?」


「はい。」


嫌な予感がした。


胸の奥がざわつく。


「パパに何かあったんですか?」


事故だろうか。


怪我だろうか。


そんなことを考えながら、とっさに尋ねた。


すると警察官は少しだけ間を置いて言った。


「あなたのお父さん、アランさんが本日逮捕されました。」


「えっ?」


その先は何も聞こえなかった。


逮捕。


その言葉だけが頭の中で何度も響く。


私の中で何かが崩れていった。


気がつくと警察官たちは部屋の中に入っていた。


たぶん何か説明されたのだと思う。


部屋を調べるとか。


そんなことを言われたのだろう。


でもよく覚えていない。


私はただ立ち尽くしていた。


二人は部屋を調べ始めた。


引き出し。


棚。


戸棚。


そして一人が私の部屋へ入った。


しばらくして声が聞こえた。


「これですね。」


警察官が持っていたのはタイプライターだった。


私は思わずそちらを見た。


タイプライターはリビングのテーブルの上に置かれた。


そして再び部屋の捜索が始まる。


「あの部屋はあなたの部屋ですか?」


「はい。」


すると一人の警察官が吐き捨てるように言った。


「あいつ、娘に罪を擦り付けるために娘の部屋に置かせてたのか。」


意味が分からなかった。


何を言っているのか分からなかった。


「お父さんは頻繁にタイプライターを使っていましたか?」


「いえ。」


私は首を振った。


「毎日、私が打っていました。」


警察官が顔を上げた。


「あなたが?」


「はい。」


私は頷いた。


「そして毎日、ポストに入れていました。」


「あなた、お父さんをかばうんですか?」


警察官の声が少し強くなった。


「あなたも罪に問われますよ。」


「本当です。」


私は即座に答えた。


「私が毎日、母に手紙を打っていました。」


警察官が何か言おうとした。


だが、もう一人の警察官がそれを制した。


そして静かに聞いた。


「あなた、名前はセリーヌさんで合っていますか?」


「はい。」


それから年齢を聞かれた。


勤め先も聞かれた。


いくつもの質問に答えた。


だが私が知りたかったのはそんなことではない。


「父は……。」


声が震えた。


「父は…父はどうなるんですか?」


「なぜ逮捕されたんですか?」


少しの沈黙のあと


返ってきた答えは短かった。


「嫌疑が晴れるまで拘束されます。」


「内容についてはお話できません。」


私は何も言えなかった。


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