第16話
翌日。
アンドレは国境警備の応援に駆り出され、休日返上で勤務していた。
私は家で一人、テレビを見ていた。
気になるのは北の国。
そして母のいる町だった。
その町はここから遠くない。
偶然にも三十キロほどしか離れていなかった。
その町に母はいる。
そう思うだけで落ち着かなかった。
テレビでは南北の境界が事実上解放されたと報じられていた。
北側の人々が一斉に南へ流れ込んでいるらしい。
母も来るかもしれない。
そう思った瞬間だった。
電話のベルが鳴った。
アンドレだった。
息を切らしている。
「セリーヌ。お母さんがいなくなった」
「えっ?」
「親友が動かないでって言ったらしい。でも、多分……」
アンドレは息を整えて続けた。
「君に会いたい一心で国境を越えたかもしれない」
私は立ち上がった。
行かなきゃ。
今すぐ。
そう思って受話器を置こうとした時だった。
「切らないで!」
アンドレが叫んだ。
「セリーヌ、待って。よく聞くんだ」
私は黙って聞いた。
「子供を連れて出るのは危険だ。僕が二十分か三十分で帰れる。待っていてくれ。一緒に探しに行こう」
「分かった」
私は答えた。
「待ってる。アンドレも気を付けてね」
電話を切った。
焦る気持ちを必死で押さえながら、私はアンドレの帰りを待った。
やがて――。
ドアが勢いよく開いた。
アンドレだった。
私は立ち上がり玄関へ向かった。
「多分、お母さんの足では国境付近までが限界だと思う」
アンドレは早口で言った。
「でも今、国境付近は大混乱している。見つけるのは簡単じゃない。だから少し待って――」
「行くわ」
「えっ?」
「私は行く」
人生最大のわがままだと分かっていた。
でも――。
私は会いたかった。
そして、会える気がした。
アンドレは私の目を見た。
しばらく黙っていたが、やがて小さくうなずいた。
「分かった」
そして言った。
「じゃあ、子供たちを乗せて車で行こう」
私たちは急いで支度をした。
子供たちを車に乗せ、国境へ向かった。
だが、数キロ手前で車は止まった。
渋滞だった。
前にも後ろにも車が連なっている。
みんな同じ気持ちなのだろう。
家族に会いたい。
ただ、それだけで。
けれど私は思っていた。
この時を逃したら、もう二度と会えない。
車はついに動かなくなった。
アンドレが言った。
「ここから先は車じゃ無理だ」
少し周りを見回して続ける。
「戻る方も詰まってる」
そして私を見た。
「歩く?」
「うん」




