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第13話

「あの……」


 私は思い切って聞いてみた。


「なぜ、そんなにママのことを探してくださるんですか?」


 アンドレさんは少し首を傾げた。


「僕ですか?」


「はい。お仕事も忙しいでしょうし……」


 アンドレさんはふっと笑った。


「最初に言ったじゃないですか」


「えっ?」


「十年間も会いたいって手紙を書き続けていた人を見て、何か手伝えたらと思っただけです」


 私は小さく頭を下げた。


「ありがとうございます」


 それしか言葉が見つからなかった。


 それから月に一度。


 私たちは会った。


 母の情報を聞くために。


 もちろん進展はほとんどなかった。


 だから少しずつ話題は変わっていった。


 仕事の話。


 天気の話。


 最近読んだ本の話。


 そんな他愛もない話。


 いつの間にか会う回数は月に二回になっていた。


 喫茶店で会い。


 喫茶店で別れる。


 ただそれだけだった。


 それでも私は、それを楽しみにするようになっていた。


 仕事にも慣れた。


 心にも少し余裕ができた。


 毎回、アンドレさんが食事代を払ってくれた。


 申し訳なくて、冬になると私はセーターを編んだ。


 アンドレさんは顔を真っ赤にして照れていた。


 でも、とても嬉しそうだった。


 相変わらず私は遅刻ばかりしていた。


 けれどある日。


 初めて私の方が先に着いた。


 私はもう十七歳になっていた。


 この喫茶店に通い始めて、もうすぐ一年になる。


 窓際の席で待っていると、扉のベルが鳴った。


 カランカラン――。


 アンドレさんだ。


 私は少し緊張した。


 今日こそ聞ける。


 あの言葉が。


 アンドレさんは席に着くと店員に言った。


「コーヒーはブラックで」


 出た。


 私は思わず吹き出しそうになった。


 やっぱり言った。


 ブラックなのにブラックって言った。


 私はくすっと笑った。


「どうしたんですか?」


「いえ……」


 笑いをこらえながら言った。


「コーヒーって黒いのに、なんで毎回ブラックでって言うのかなと思って……」


 一瞬、アンドレさんは目を丸くした。


 そして声を上げて笑った。


「ああ、そういうことですか」


「違うんですか?」


「セリーヌさんはコーヒーを飲まないんでしたね」


 そう言って、隣の席を指差した。


「ほら、あの人」


 若い女性がコーヒーにミルクを入れていた。


 続いて砂糖も入れる。


「僕はあれを入れないんです」


「えっ?」


「だからブラックでって言うんですよ。そのままって意味です」


 私は固まった。


 そして、その女性と目が合った。


 女性はにこっと笑った。


 恥ずかしい。


 顔が一気に熱くなる。


 今までずっと勘違いしていた。


 周りを見れば分かったはずなのに。


 観察能力ゼロだ。


「あっ、でも飲まなきゃ分からないですよね」


 アンドレさんは何事もなかったように言った。


 助かった。


 本当に助かった。


 それから三年後の春。


 アンドレさんは私にプロポーズした。


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