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第11話

「セリーヌさん!」


後ろから声がした。


振り返る。


アンドレさんだった。


アンドレさんは少し息を切らしながらこちらへ駆け寄ってきた。


「お昼、一緒に食べませんか?」


私は首を横に振った。


「結構です。」


「父のことでしたら。」


踵を返そうとした時だった。


「お母さんのことなんです。」


私は思わず振り返った。


「えっ?」


「ママのこと?」


アンドレさんは静かに頷いた。


近くのレストランに入り、簡単な食事を注文した。


料理が来るまでの間、アンドレさんが口を開いた。


「あの戦争で生き別れてから、お母さんをずっと探しているんですよね。」


「はい。」


アンドレさんは少し考えるように窓の外を見た。


「私の両親は運良く一緒に避難できました。」


私は黙って聞いていた。


「でも親友がいるんです。」


「同じ警察官で、小さい頃からの幼なじみです。」


少しだけ笑う。


「一緒に警察官になれたんですよ。」


その時、料理が運ばれてきた。


アンドレはスープに手を伸ばしながら言った。


「ただ、その親友は今、北にいるんです。」


「北に?」


「ええ。」


アンドレは頷いた。


「戦争の時に警備へ行っていて、そのまま向こう側の住人になってしまったんです。」


「そうなんですか……。」


「今でも何とか連絡は取れています。」


私は話の意味がよく分からなかった。


同じような境遇と言われても違う。


父は戦争で亡くなった。


六歳で母と生き別れた。


孤児院に引き取られた。


私とは全然違う。


するとアンドレさんが真っ直ぐ私を見た。


「それで、お母さんの名前とか特徴とか。」


少し間を置く。


「何でも良いんです。」


「教えてもらえませんか?」


私は目を瞬いた。


「それって……。」


アンドレさんは真剣な顔だった。


「あなたのお母さんを見つけたいんです。」


「えっ?」


言葉が出なかった。


探してくれるの?


本当に?


見つかるの?


いろんな思いが頭の中を駆け巡った。


でも。


アンドレさんの目を見ていると、不思議と託してみようと思えた。


「そんなこと……。」


私は小さく言った。


「お願いしても良いんですか?」


「もちろんです。」


アンドレは頷いた。


「絶対に見つかるとは約束できません。」


少し困ったように笑う。


「でも、十年間も毎日手紙を書いていたって聞いて。」


「何かできないかと思ったんです。」


私は胸が熱くなった。


警察官だからじゃない。


一人の人間として言ってくれている。


それが分かった。


アンドレはふと面会室でのアランの言葉を思い出していた。


――アンドレさん。


――ひとつお願いがある。


――ああ、正確には二つかな。


――セリーヌは私がいなくなって一人ぼっちになった。


――少しでも良い。


――気にかけてやって欲しい。


――それと、あの子の母親を見つけ出してやって欲しい。


――無理にとは言わない。


その時は少し腹が立った。


十年間会えないようにしたのは、あなたじゃないか。


そう思った。


だが。


胸ぐらを掴んだあの日。


何も言わず流れたアランの涙を思い出す。


あの人も苦しかったのだろう。


アンドレは最初からそうするつもりだった。


言われなくても。


すると。


「お願いします!」


セリーヌが勢いよく頭を下げた。


アンドレは我に返った。


そして思わず笑った。


「頑張ります。」


そう言って敬礼した。


父はいなくなった。


でも。


私には母がいる。


会いたい人がいる。


仕事もある。


そして。


手伝ってくれる人もいる。


頑張らなくちゃ。


そう思えた。


翌朝。


いつもの時間に起きた。


一人分の朝食を作る。


一人分の弁当を作る。


そしてタイプライターの前に座った。


いつものように手紙を書く。


封筒に入れる。


家を出る。


いつものバス停。


いつものバス。


そして職場である市役所へ向かった。


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