第10話
不思議だった。
さっきまで何もする気が起きなかったのに。
少しだけ力が湧いてきた。
私は電話を取った。
市役所へ電話をかける。
「明日から出勤します。」
そう伝えた。
そして決めた。
父に会いに行こう。
何をしたのかは知らない。
どうして捕まったのかも知らない。
でもパパは今までずっと私を支えてくれた。
だから今度は私が支える。
その思いだけははっきりしていた。
母への手紙を書き終えると、私は家を出た。
いつものポストへ向かう。
角を曲がる。
すると――。
またあの二人の警察官がいた。
二人は何も言わなかった。
ただ私がポストへ手紙を入れるのを見ていた。
私はいつものように手紙を入れた。
そして歩き出す。
すると後ろから声がした。
「どちらへ?」
振り返る。
アンドレさんだった。
「警察署に行きます。」
私は答えた。
「パパに会いに。」
アンドレは少し驚いた顔をした。
そして小さく頷く。
「ちょうど良かった。」
「え?」
「アランさんが会いたいと言っていました。」
私は思わず顔を上げた。
パパも。
会いたいと思ってくれていたんだ。
嬉しかった。
自然と歩く速度が速くなる。
警察署へ着くと面会室へ案内された。
重い扉が開く。
中へ入る。
透明な仕切りが部屋を二つに分けていた。
しばらくして向こう側の扉が開く。
父が現れた。
その隣にはアンドレさんがいた。
私は思わず立ち上がった。
「パパ!」
両手が仕切りに触れる。
父も立ち止まった。
そして少し笑った。
「セリーヌ。」
優しい声だった。
「来てくれたんだな。」
私は何度も頷いた。
「ありがとう。」
アンドレさんに促されて私たちは椅子に座った。
父が静かに口を開く。
「五年。」
私は首を傾げた。
「五年、出られないそうだ。」
「五年?」
「ああ。」
五年。
その言葉が頭の中で何度も響いた。
母とは十年会えていない。
そして父とも五年。
そう思った瞬間、涙があふれてきた。
父は何かを言おうとした。
「実はな……」
「言わないで!」
私は思わず叫んでいた。
父が驚いた顔をする。
「こんな私を拾って。」
「大切に育ててくれた。」
「十年間も……。」
「パパは……。」
「パパは私にとって優しくて頼もしいパパでしかない。」
父は目を見開いた。
そして静かに目を伏せた。
私は続けた。
「私は待ってる。」
「パパを待ってるから。」
「そしてママも探し続ける。」
父の視線が動いた。
アンドレさんを見る。
「アンドレさんが代わりのタイプライターを持ってきてくれたから。」
父はしばらくアンドレさんを見ていた。
アンドレさんは何も言わなかった。
ただ壁の方を見つめていた。
面会はそれで終わった。
私は警察署を出た。
不安がないわけじゃない。
でも気持ちは不思議とすっきりしていた。
ちょうど働き始めたところだった。
良い自立のタイミングだったのかもしれない。
その時だった。
ぐぅ。
お腹が鳴った。
私は思わず立ち止まる。
そういえば朝から何も食べていない。
すると――。
遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。




