第9話
家に着いた私は、何もする気力が起こらなかった。
心の中がぽかんとしていた。
気がつくと部屋は暗くなっていた。
なにか食べなきゃ……。
そう思っても体が動かない。
一人で食べても美味しくない。
「パパ……」
また涙がこぼれてきた。
止めどなく。
私はどうしたら良いの?
何を支えに生きれば良いの?
テーブルに突っ伏して泣いた。
母にも会えない。
父もいない。
何もない。
ふと、父と出会った日のことを思い出した。
孤児院のみんなが父を見ていた。
その中で父は、すぐに私を選んだ。
すごく優しそうな笑顔だった。
いや。
今までずっと優しかった。
「ママに会いたい」
そう言った時もそうだった。
父はすぐにタイプライターを買ってくれた。
「何を書く?」
そう聞いてくれた。
だから私は言った。
「ママに会いたい。ずっと待ってる。」
その時、父はなぜか涙ぐんでいたような気がする。
定かではないけれど。
保育園にも通わせてくれた。
小学校も。
中学校も。
さすがに高校は悪いと思った。
だから働きたいと言った。
そして、この春から働き始めたばかりだった。
これで少しでも恩返しができる。
そう思っていたのに。
「パパ、ごめんなさい……」
また涙があふれた。
声を上げて泣いた。
どれくらいそうしていたのだろう。
ひとしきり泣いたあと、私は立ち上がった。
簡単な夕食を作る。
一口食べる。
味がしない。
美味しくない。
その時だった。
ふと思い出した。
父が言っていた。
「辛くなったら読むんだぞ。」
私は引き出しを開けた。
奥から一冊の本を取り出す。
黒くて分厚い本だった。
手に取る。
少し重い。
でも――。
さすがにもう読める。
学校も出た。
タイプを打つのが遅いだけだ。
私は少しだけ笑った。
「はははっ……」
泣き腫らした顔のまま、本を開いた。
聖書?
あの教会にあるやつ?
パパは教会に通っていたのかしら。
そう思いながら聖書を開こうとした時だった。
何かが挟まっている。
一枚の紙だった。
その場所を開く。
文字がびっしりと書かれている。
でも難しくてよく分からない。
ふと挟まっていた紙に目を落とした。
そこには父の字でこう書かれていた。
『セリーヌ。
どんな時も、ママに会いたい。その気持ちを持ち続けなさい。
辛い時も苦しい時も、そのことを考え続ければ乗り越えられるはずだ。
そして、きっと会える。』
私はその紙を見つめた。
そして胸に抱きしめた。
「ありがとう、パパ……」
涙がこぼれた。
でも今度の涙は少し違った。
「私、頑張る。」




