皇女救出(三)
第九章 皇女救出(三)
ノアが、格納庫周辺の最新情報を接続区画の壁面表示に送った。
赤い点が十三。白い点が一つ。位置は、変わっていない。
アルクは表示を見ていた。
ガロンも、リアも、同じものを見ている。
ガロンの部下三名は、壁際に寄ったまま、通路の先を警戒していた。声は出さない。銃口も上げすぎない。だが、すぐに撃てる姿勢は崩していない。
「作戦通り、順番に削っていきましょう。」
リアが全員の顔を見回す。
ガロンは映像を指でなぞった。
「まずドック側の六人を切り離す。」
リアが続けた。
「同時に、側面通路の二名を制圧。」
ガロンが、部下三名へ視線を向けた。
「全員で行くぞ。位置は見えてる。先に取るぞ。」
三人は無言でうなずいた。
リアが続ける。
「続けて、ガロンの部下三名が皇女区画側出口へ回り、そこにいる二名を制圧。」
ガロンが低く言った。
「中央の三人を、格納庫の真ん中に置いたまま孤立させる。」
リアは表示を見ながら続けた。
「敵は、すでに管制を失っています。行き場所がないから、格納庫に残っている。こちらが出口を潰せば、交渉材料は皇女殿下だけになります。」
「その時点で突っ込むのか?」
ガロンの部下の一人が、初めて声を出した。
問いはガロンに向いていた。
ガロンは首を振って、静かに答えた。
「突っ込まない。ゆっくりだ。」
ノアが、別の画面を壁面に表示した。
格納庫内の立体図だった。
床面レール。整備機材。低い補給コンテナ。
そして、格納庫中央に止まっている大型搬送台車。
「ノア。搬送台車の準備はできてるか?」
『すぐに動かせるよ。』
「速度は?」
『遅い。人を轢くような速度じゃない。安全制限がかかってる。でも、遮蔽にはなる。警告音と安全灯も。』
ガロンがわずかに笑った。
「敵の目と耳を引きつけられるな。」
「はい。」
リアがうなずいた。
「完全な暗闇にする必要はありません。真っ暗にすれば、敵が皇女殿下を強く押さえます。非常警告灯と搬送台車で、視界を残したまま注意を乱しましょう。」
『携帯型の対人センサーは、ノイズで潰す。』
ノアの声に、別の声が重なった。
『接続はこっちで保持してる。船体固定も安定。そっちが動く間、ブラッククラウン号は離さない。』
ルナだった。
その声は、少しだけ硬い。
救出に参加したい気持ちを押さえているのが、伝わってくる。
アルクは短く返した。
「頼む。」
『分かってる。』
ルナの返事も短かった。
ガロンは、部下三名に目を向けた。
「聞いたな。側面を取ったら、三人は皇女区画側へ回れ。出口を押さえろ。格納庫内には、勝手に入るな。」
「了解。」
三人が答える。
「発砲は最低限だ。殿下が近い。跳弾を出すな。」
リアが補足した。
「敵兵制圧の際は、敵に声を出させないように。制圧後の連絡も不要です。敵に、どの隊が落ちたか悟らせる時間を少しでも遅らせます。」
ガロンの部下たちは、無言でうなずいた。
アルクはガロンを見た。
「中央は?」
「俺とお前とリアで行く。」
ガロンは即答した。
「俺が一人を押さえる。リアがもう一人を止める。お前は殿下だけ見ろ。」
リアがアルクを見て言う。
「敵を倒すことを優先しないでください。皇女殿下を敵から離すことが先です。」
「ああ。分かった。」
アルクは白い点を見た。
ティオは、まだ動いていない。
赤い点の中にいる。
だが、そこまでの道は見えた。
ノアが言った。
『隔壁を落とすタイミングは、そっちの合図でいい?』
「ガロン?」
アルクが尋ねる。
ガロンは拳銃に消音機を接続している。
「俺たちが出るのと同時だ。」
『分かった。ドック側六人を切る。側面通路の映像は出し続ける。搬送台車は、アルクたちが格納庫に入る直前まで動かさない。』
「そうだ。」
アルクが答える。
リアが、艦長に連絡を取る。
「艦長、聞こえますか?」
『聞こえている。』
「ドック側六名を隔壁で分断します。親衛艦隊の警備部隊が到着した際、隔壁外側から制圧してください。こちらは皇女殿下確保を優先します。」
『了解した。警備部隊に伝える。』
艦長の声は、苦かった。
自分の艦でありながら、外部の船に作戦を委ねている。
その苦渋を飲み込んでいる声だった。
アルクは最後に全員を見た。
ガロン。
リア。
ガロンの部下三名。
そして、通信の向こうのノアとルナ。
「行くぞ。ティオを助ける。」
全員が無言でうなずく。
アルクは通路の先へ視線を戻した。
ガロンが、わずかに顎を引いた。
接続区画の空気が変わる。
ノアの声が落ちる。
『隔壁閉鎖、三、二、一。』
ガロンが動いた。
その瞬間、ノアが制御を叩いた。
格納庫のドック側で、重い隔壁が降り始めた。
警告音が鳴る。
ドック側六名と、格納庫中央の間に、二枚の隔壁が降りた。
監視映像の中で、艦内警備班の六名が反応する。
全員が振り返った。
だが、遅い。
彼らの視線は、親衛艦隊が来る外部ドックの方向を向いていた。
内側から隔壁を落とされるとは、予想もしていなかった。
『切った。ドック側六人、分断。』
ノアの声が響く。
ガロンはもう側面通路へ出ていた。ガロンの部下三名が、壁際に散って続いた。
アルクとリアがその後ろに続く。
接続区画の白い床から、格納庫側面の通路へ。
そこには、さっき映像で見た二名がいる。
二人とも、ドック側で鳴った警告音に一瞬だけ注意を取られていた。
それだけで充分だった。
ガロンが拳銃を速射する。
部下三名もそれに続く。
低く鈍い連射音。
敵兵二人が床に崩れ落ちる。
「制圧。」
ガロンが低く言った。
ノアがすぐ返す。
『確認。側面通路二名、沈黙。中央はまだ気づいてない。動いてない。』
「次。」
アルクが言った。
ガロンは部下三名へ視線を送った。
三人は返事をせず、皇女区画側出口へ向かって動き出した。
走らない。
足音を殺す。
側面通路から回り込み、格納庫奥の出口へ向かう。
ノアの声が、低く続く。
『皇女区画側出口、二名。まだ中央を見てる。ドック側に気を取られてる。今なら背後、取れる。』
ノアが監視カメラの映像を見ながら指示を続ける。
『接敵まで、あと十二メートル。』
『接近して。敵はドックを見ている。』
『今。』
ノアの声が落ちた。
三名が動く。
短時間の射撃。
『皇女区画側、二名制圧。出口、取った。』
ノアの声が入る。
ガロンの部下からも、短い報告が来た。
『出口確保。』
「そのまま押さえてろ。」
ガロンが答えた。
『了解。』
ドック側六名は隔壁の向こう。
側面通路二名と皇女区画側出口二名は制圧。
残るのは、格納庫中央の三名。
指揮官と兵二名。
そして、ティオ。
ノアの声が低くなる。
『中央、反応した。指揮官が端末見てる。
側面と皇女区画側、両方の隊が落ちたのに気づくよ。』
アルクは格納庫入口の手前で止まった。
ここから先は、広い。
距離もある。入れば見つかる。
走っても間に合わない。
撃てばティオに当たる恐れもある。
ガロンがアルクの横に並ぶ。
リアが少し後ろに立つ。
格納庫中央の白い光の中に、ティオの姿が見えていた。
まだ遠い。
だが、届く距離には来た。
アルクがノアに指示する。
「搬送台車、動かせ。すぐにだ。」
『了解。すぐ動かす。ジャミングも開始。』
そのとき、ティオがかすかに顔を上げた。
周囲を見回す。
アルクのいる方向で視線を止めた。




