外縁星域での襲撃(三)
第6章 外縁星域での襲撃(三)
貴賓室の扉が開く直前だった。
廊下の照明が不安定になる。
しばらくの間、明るさが落ち、すぐに戻る。
ティオは足を止めた。
親衛艦隊の護衛官が先に動く。
一人が前へ。
もう一人がティオの斜め後ろへ。
外縁側の警備兵も、少し遅れて廊下の左右に散った。
ティオは無言で報告を待つ。
港湾長官が端末を確認する。
「補助電源に切り替わりました。航路統制区画の一部で、短時間の負荷が――」
言い終わる前に、遠くで、何かがぶつかる大きな音がした。
棟内に警報音が鳴り始めた。
「作業機械が停止位置を外れたのかもしれません。
確認してきます。」
港湾長官の声が緊張している。
壁面の表示パネルの色が青から黄色に変わり、文字が表示された。
《区画移動制限》
「殿下、こちらへ。」
親衛艦隊の護衛官の声が低くなる。
ティオは落ち着いた表情で、うなずいた。
護衛官たちは、すでにティオの左右に壁を作っている。
視界が狭くなる。
その隙間から、ティオは混乱して走り回る外縁側の職員たちを見た。
バルク中尉が何かを叫び、警備兵二人をどこかへ向かわせている。
何を話しているかまでは分からない。
『第三補助通路、封鎖。関係職員は第一退避線へ移動してください。』
『港湾管制より警備班へ。作業艇一隻が指定待機位置を逸脱。確認に向かえ。』
『航路統制区画、補助電源切替完了。主系統に異常なし。』
警報音と通信音声が重なって、よく聞こえない。
だが、混乱が収まる様子は感じられない。
「殿下、エレベーターに。地下の安全区画に移動します。」
護衛官が言う。
ティオはうなずく。
この状況では、退避は護衛官の判断に任せるしかない。
後について歩き出す。
途中でまた小さな振動を感じる。
すれ違う職員たちが、ティオたちを見ている。
エレベーターに乗ろうとした時、ノーデン少尉が隣ブロックへ続く連絡通路の方から走ってきた。少し慌てている。
「殿下、隣のブロックのエレベーターをご使用ください。
このエレベーターの地下出口から安全区画の間の通路が塞がっています。」
護衛官が話を遮る。
「そんな情報は入っていません。」
「私も、たった今、現場から直接、報告を受けたばかりです。」
ティオは立ち止まって、護衛官の判断を待つ。
そこへ港湾長官が戻ってきた。
「殿下。隣のブロックのエレベーターをご使用ください。中央管制室で安全を確認済みです。」
護衛官がノーデン少尉に案内を依頼する。
ノーデン少尉は短くうなずく。
「では、行きます。ついて来てください。」
ノーデン少尉を先頭に、護衛官たちが周囲の安全を確認し、ティオをエレベーターに誘導する。
数分でエレベーターに到着。
高速で地下に向かう。
ティオの礼装の裾が、非常灯の赤い色を拾う。
随員が裾を気にして手を伸ばしかけた。
ティオは手で制した。
「大丈夫です。」
エレベーターの窓から地上の様子が見える。
小型作業艇が一隻、警備艇に囲まれていた。周囲の航路灯が不規則に点滅している。
何が起きているか分からない。
ただ、港全体で同時にいくつかの異常事態が発生しているようだ。
エレベーターを降り、地下通路を少し歩いた先に、安全区画はあった。
金属製の厚い扉。
二重認証。
扉の前で、親衛艦隊の護衛官が認証を行う。
続いて、港湾側の警備兵が別の認証を入れる。
扉が開いた。
「殿下、中へ。」
ティオは護衛官に囲まれて安全区画に入った。
扉が閉じる。
内部には通信端末と簡易医療設備。
壁面には、各種の表示パネル。
実用的な造り。皇女専用艦のような美しさはない。
親衛艦隊の護衛官が、室内と区画入口を守っている。
横では、港湾長官が端末を握り、誰かと短くやり取りしている。
ノーデン少尉はティオに敬礼して、上階に戻っていった。
随員が椅子を勧めた。
「殿下、お座りください。」
「立っています。」
「ですが――」
「ここにいる者たちも立っています。
私だけ、座るわけにはいきません。」
随員は口を閉じた。
ティオは安全区画の中央に立ったまま、壁面表示を見る。
赤い点、黄色い線、封鎖区画、警戒区画。
何を示しているのか、分からないものもある。
護衛官が通信を確認し、短く報告する。
「実行犯と見られる者、数名を拘束。事態は収束しつつあるとのことです。」
「負傷者は出ていませんか?」
ティオは心配そうな顔で尋ねた。
「確認中です。」
「確認が取れたら報告を。」
「はっ。」
安全区画は静かだった。
外では、私を守るために誰かが怪我をしているかもしれない。
そう思っても、今のティオにできることは、立っていることだけだった。
ここには、厚い扉がある。
私を守るための扉。
ティオは手袋の指先に力を込めた。




