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黒冠のアルク ― 第一部完結/第二部・皇女編連載中 ―  作者: 久遠 恒 


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終わりと始まり

第10章 日常


戦争は終わった。

帝国は再編の途中にあった。

そしてブラッククラウンは日常の生活に戻り始めていた。

戦闘艦ではなく、象徴でもなく、ただの一隻の船として。

補給、観測、灯台の修理。

仕事が増えていた。

民間からの依頼、辺境コロニーからの依頼、帝国政府からの依頼もあった。

ブラッククラウンはすべて引き受けた。

どこにも属さない船だったからだ。

ノアが言った。

「航路の安定率が上がってるよ。」

ガロンが言った。

「そりゃいい。」

ルナがうなずいて言った。

「最近危ない場所、減ったよね。」

リアもうなずいて同意する。

航路の整備が少しずつ進んでいる成果だった。

黒冠航路を使用した航海も増えていた。

船内の空気も変わっていった。

緊張と警戒が減っている。

笑いが少し増えている。

アルクの仕事も変わっていた。

航路を読む仕事に駆り出されることが多くなった。

だが戦うためではない。

各コロニーと中央、各コロニー同士をつなぐためのものになっていた。

それでも変わらないものもあった。

皇女だった。

***

結婚の話を断ってから、皇女からアルクへの個人通信が増えていた。

ルナが不機嫌な声で言う。

「また来てる。」

ノアが言った。

「来てるね。」

リアが言った。

「通信だけですから。」

「でも……」

ルナは不満が声に出ている。

「アルクとの距離! 近くなってない?」

アルクは言った。

「用件があるんだ。」

ルナがきつい声で言う。

「用件って何!?」

アルクは言った。

「軽い話題だけ。

 政治向きの話は無い。」

「軽い話題って何よ!?」

ルナが問い詰める。

アルクが困った顔をする。

ガロンが笑ってアルクに助け船を出す。

「軽い話題は軽い話題だろ。」

ノアも助け船を出す。

「雑談ですよ。」

ルナは収まらない。

「雑談って何よ!?」

ノアも困った顔で答える。

「雑談ですよ……。」

リアが少し視線を逸らして、小さな声で言った。

「……仲がいいんですね。」

沈黙が広がった。

「変わらないよ。」

アルクが言う。

ルナがふくれて言う。

「何が?」

アルクが言った。

「何もかも。」

その一言でルナもリアも少しだけ安心した。

だが油断はできない。

相手は皇族だった。

立場が違う。

だから不安が残る。

ルナが誰にともなく尋ねた。

「通信、また来るのかな?」

「来るね。多分。」

ノアが答えた。

リアも確信を持って答えた。

「来ますね。」

「来なくていいのに。」

ルナがふくれ顔のまま言う。

「変わらないよ。」

アルクがまた言った。

「ここは変わらない。」

ブラッククラウン号は誰の船でもなかった。

ここはアルクの場所だった。

そしてルナとリアの場所だった。

それだけは変わらなかった。


第11章 対話

レイグナーからアルクに招待状が来た。

指定された場所は帝都ではなく、山地の避暑地だった。

今回の功績により皇帝から与えられた別荘だが、本人はほとんど使っていない。

アルクは申し入れを受け一人でやって来た。

別荘は人の気配がなく静かだった。

風だけが動いている。

庭の奥のテーブルにレイグナーが座っていた。

軍服ではなく、簡素な平服を着ている。

アルクが近づいた。

レイグナーが立ち上がった。

「来てくれたか。」

アルクはうなずいた。

レイグナーがアルクに椅子を勧める。

「まあ座ってくれ。

 ここは静かなところだ。」

アルクは無言で椅子に座った。

レイグナーは庭と遠くの山を見まわした。

「皇帝から与えられたのたが、あまり使っていない。

 だが良いところだ。」

アルクは何も言わなかった。

レイグナーが続けた。

「戦争は終わった。

 私は軍の実権を握った。

 君のおかげだ。」

静かな声だった。

「私は皇帝を守る。

 そして民の生活を守る。」

アルクはうなずいた。

レイグナーが続ける。

「君とは因縁がある。

 何度も戦った。」

少しだけ間を置く。

「だが今は同じものを目指している。

 そう考えてよいか?」

アルクはうなずいて答えた。

「同じだと思う。」

レイグナーもうなずく。

「これから先、どこで道が交わるかは分からない。」

そしてアルクの目を見てはっきりと言った。

「協力してほしい。」

アルクはうなずいた。

それを見てレイグナーもうなずいた。

それで十分だった。

しばらくして二人は立ち上がった。

やがてレイグナーが言った。

「また会おう。」

アルクがうなずく。

対話は終わった。

だが関係は続きそうだ。


エピローグ 終わりと始まり

帝国は静かに変わっていった。

レイグナーは帝国の中に、変革の中心にいた。

辺境も少しずつ変わっていった。

孤立と従属の時代は過ぎようとしていた。

辺境ではすでに語られ始めていた。

航路を取り戻した船の名――

ブラッククラウン号。

その船に乗る一人の青年、アルク。

その未来は分からない。

だがアルクは自らの進むべき道をつかんでいた。

一つの物語は終わった。

だが、航路は続き、世界は続いていた。

ブラッククラウン号は星間流の中にいた。

急ぐ必要はなかった。

***

リアが正面のスクリーンを見ながら言った。

「帝国は変わっていきます。」

少し間を置いて続けた。

「ゆっくりとですが、きっと。」

ルナが言った。

「でもさ」

アルクの隣に立って言った。

「私たちは変わらないよね。」

ノアが計器を見ながら言った。

「航路は安定しています。」

少しだけ視線を上げた。

「まだ先へ行けます。」

ガロンが笑った。

「なら行こうぜ。」

腕を組んだまま言った。

「止まる理由はない。」

少しだけ間があった。

星間流は流れ、航路は続いていた。

アルクが言った。

「行こう。」

ブラッククラウンは進む。

航路の先へ。

まだ誰も知らない未来へ。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


本日で、『黒冠のアルク』第一部が終了となります。


辺境の小さな船ブラッククラウン号から始まったアルクたちの航路は、帝国全体を巻き込む戦いへとつながっていきました。

最後までお付き合いいただいた皆さま、本当にありがとうございます。


第一部、いかがでしたでしょうか。

少しでも楽しんでいただけていましたら幸いです。


明日からは、『黒冠のアルク』第二部、皇女編がスタートします。


皇女編では、皇女ティオが主要登場人物として本格的に加わります。

第1巻では、アルク、ルナ、リア、ティオの関係性を、穏やかに、品よく、少しほんわかした雰囲気も交えながら描いていく予定です。


戦いの後の時間。

少しずつ変わっていく距離感。

そして、帝国と辺境の間に残された問題。


第二部では、そうした要素を中心に、アルクたちの新しい航路を描いていきます。


なお、第二部は月・水・金の週3回更新予定です。


第一部より少し更新間隔は空きますが、人物同士のやり取りや物語の空気を丁寧に整えながら投稿していきたいと思います。


引き続きお付き合いいただければ幸いです。


もしよろしければ、ブックマークや評価で応援いただけると、今後の更新の大きな励みになります。


引き続き、よろしくお願いします。


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