召喚
第6章 召喚
帝国の秩序は回復し始めていた。
まだ完全ではないが。
軍の再編は峠を越していた。
戦闘停止、後命待機の皇帝命令。
すべての艦隊が命令に服従した。
強硬派への処分は穏やかだった。
逮捕された者は、ごく一部、皇帝幽閉中に職権を乱用して刑事事件を起こした者だけ。
皇帝は報復を選ばなかった。
国家の安定を優先するためだ。
強硬派の軍高官たちは人事異動によって要職を追われた。
遠からず予備役に編入されるだろう。
軍人恩給は支給されるため生活に困ることはない。
皇帝諮問会議の軍人メンバーは改革派の帝国艦隊司令長官と、首都星到着直後に大将昇進と帝国艦隊副司令長官の辞令を受けたレイグナーの二名に代わった。
諮問会議内では、皇帝解放に際して功のあったレイグナーと内務総監の発言力が強くなることが予想された。
また辺境星域とも連携して、強硬派軍政に対する反対運動を展開した執行官会議議長セレノス・ヴァルティアも発言権を維持することが予想された。
レイグナーに協力した辺境星域に関しては、強硬派が消えた今、立場の向上が期待された。
***
帝都中枢区画。
皇帝の執務室。
帝国の政治の中心。
政治体制が大きく変わり、執務室に出入りする者たちも変わった。
その日、最初に入室したのは軍務尚書と帝国艦隊司令長官だった。
二人ともドライゼンの後任として皇帝が任命した人物。
クーデターによって皇帝同様に幽閉されていたが、強硬派の失脚とともに解放され軍務に戻っていた。
次に内務総監が入室した。
そして最後にレイグナーが入室した。
レイグナーは首都星帰還直後に大将に昇進し、帝国艦隊副司令長官に任命されていた。
外縁星域艦隊と辺境星域艦隊。
両艦隊はすでにレイグナーの指揮下にあった。
制度上は副司令官だが実態は違う。
それは、ここにいる全員が理解していた。
四人は交代の前に膝まづき、頭を垂れる。
玉座の皇帝が静かに全員を見回す。
「状況の報告を。」
穏やかな声だった。
軍務尚書が答えた。
「軍の統制はほぼ回復しております。」
艦隊司令長官が補足した。
「各星域の艦隊は戦闘を停止し、再編作業は順調に進んでおります。」
皇帝は静かにうなずいた。
皇帝は内務総監に視線を移した。
内務総監が答えた。
「通信、交通管制は通常運用に移行しています。
首都星の治安維持も問題ございません。
念のため、警察軍の精鋭部隊を首都星に留めております。」
皇帝はまた静かにうなずいた。
そして少しだけ間を置いて尋ねた。
「強硬派の動きは?」
軍務尚書が答えた。
「特に動きはございません。
強硬派に対しては軍の安定を優先し、穏便に対応しております。
今回の件を理由とした処分は公式には行っておりません。」
「それでよい。」
皇帝は穏やかに言った。
そしてゆっくりと視線をレイグナーに向けた。
「レイグナー大将。」
静かな声だった。
「ドライゼンの件は聞いている。」
室内の空気が少しだけ変わった。
「死亡を確認しております。」
軍務尚書が発言する。
皇帝はしばらく言葉を発さなかった。
そして静かに言った。
「長く帝国を支えてくれた。」
沈黙が落ちた。
やがて皇帝はレイグナーに尋ねた。
「辺境星域のブラッククラウンに関して確認したい。」
レイグナーは帝国艦隊副司令長官への任命式の後、皇帝侍従からブラッククラウンに関する情報をまとめて報告するよう命じられていた。
「報告書には目を通した。
おまえはブラッククラウンのメンバーと直接、会ったという。
そこで、いくつか尋ねたい。」
レイグナーは頭を垂れて皇帝からの質問を待った。
「ブラッククラウンは帝国の敵か味方か?」
レイグナーは少し考えて答えた。
「敵でも味方でもありません。
ブラッククラウンは辺境の民を守ろうとしているだけです。
帝国という制度・システムに対して明確な敵対心を持っているわけではありません。
帝国軍が辺境の民を攻撃したから反撃したというだけです。」
皇帝はうなずいて、さらに尋ねた。
「それは帝国が辺境の民を守れば、ブラッククラウンが帝国と敵対する理由は無いということか?」
「その通りでございます、陛下。」
レイグナーは答えた。
皇帝は質問を続けた。
「もう一つ、尋ねたい。
ブラッククラウン船長のアルクとやらの持つ“航路を読む能力”、役に立つか?」
「辺境側の研究によれば、遺伝性の能力らしいとのことです。
少なくとも軍事的には極めて有用です。
それは今までの戦いで何度も証明されています。
新規の航路開拓という面でも有用です。
現に彼らは黒冠航路という非公式航路を発見し、整備しつつあります。
この能力は辺境発展の鍵になるかもしれません。」
レイグナーの答えを聞いて、皇帝は満足そうに大きくうなずいた。
そして皇帝は言った。
「アルクとやらに会いたい。
ブラッククラウンは今、どこにいる?」
「執行官会議議長のセレノス・ヴァルティア氏を、辺境星域のエリオスまで迎えに行くと言って我々と分かれました。
予定通りであれば、そろそろこの首都星に到着する頃です。」
皇帝は背後に控える侍従長を呼び命じた。
「到着次第、ブラッククラウンのクルーを召喚せよ。」
皇帝の一言で、何の身分も持たない、“元”お尋ね者の海賊団が皇帝に謁見することが決定された。
帝国はブラッククラウンと初めて公式に接触することになる。




