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黒冠のアルク ― 第一部完結/第二部・皇女編連載中 ―  作者: 久遠 恒 


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突入

第3章 突入


時刻一九四〇。

『宮殿と外部との通信回線、切りました。』

所轄の警察署から警察軍司令部に通信が入る。

軍が宮殿周辺に設置した監視カメラはデータを送信してこなくなった。

宮殿内の陸戦隊は、すぐに異変を察知した。

「監視カメラ、故障のようです。

 映像、来ません。」

監視室の隊員が隊長に報告する。

「工兵隊に連絡してチェックさせろ。」

隊長が命じる。

「了解。」

隊員は工兵隊に連絡を取ろうとした。

「隊長、駄目です。

 回線が過負荷と表示されます。

 つながりません。」

隊長は首をひねった。

「おかしいな。部隊内通信で過負荷はないだろう。

 通信障害が発生しているのかもしれん。

 軍司令部に確認してみろ。」

「了解。」

隊員は通信を試みて、困惑した声で報告した。

「外部回線も通信遅延です。

 再送します。」

沈黙。

「司令部応答願う。」

沈黙。

「連絡が付きません。」

時刻一九五〇。

『作戦部隊、配置完了。』

指揮官から警察軍司令部に通信が入る。

「了解した。」

時刻二〇〇〇。

帝都の交通量が多い時間帯。

中央交通管制局が内務省の指示で交通を遮断した。

「交通管制、停止確認。」

「都市幹線、封鎖完了。」

「地下物流路、停止。」

「航空管制、空港の離陸禁止。」

帝都の人流、物流が停止した。

首都星の治安、交通、通信統制は本来すべて内務省の管轄だ。

帝都という都市そのものが、もともとは軍ではなく内務省に管理されていたのだ。

警察軍が動いた瞬間、帝都は内務省の手に戻った。

警察軍司令部。

司令官に次々と報告が入る。

「通信妨害、継続中。」

「航空管制、空港の離陸禁止継続中。」

「地上交通の封鎖を維持しています。」

司令官はうなずいて短く命令を発した。

「作戦開始!」

その瞬間、作戦は開始された。

「全隊、作戦開始!」

現場指揮官が各隊に命令する。

突入は三方向から同時に始まった。

***

帝都近郊の空港。

「こちら軍輸送隊第三群。

 離陸許可を求める。」

空港の管制室と連絡を取っていた通信士が困惑した声で言う。

「離陸、拒否されました……。」

「理由は?」

「分かりません。

 離陸は数時間、禁止になるそうです。」

「軍もか?」

「例外はないそうです。」

「何かの冗談か……。

 しかし無理やり発進するわけにもいかない。

 待期だな。」

***

宮殿内の陸戦隊司令部。

「二十分ほど前から、外部との通信が極度に遅延しています。

 監視カメラの映像も来ません。」

司令官に報告が入る。

「原因は?」

「不明です。

 隊内通信も遅延がひどく混乱しています。」

「急ぎ、調査……」

司令官が命じようとした、その時、宮殿内に爆発音が数回響いた。

「何事だ!?

 すぐに確認を!」

司令官が命じる。

通信兵が監視所に連絡を入れる。

数分後。

「駄目です!

 どこもつながりません!」

「通信が駄目なら、直接、見に行け!」

司令官が怒鳴った時、兵士が司令部に駆け込んで来た。

「大変です!

 警察軍が侵入しています!」

「警察軍?」

司令官はとまどった。

「どの程度の規模だ?」

「不明ですが、かなりの規模!

 重武装です!

 監視所が破壊され、すでに宮殿敷地内に侵入しています!」

「全隊、出動!

 警察軍を食い止めろ!

 火器の使用を許可する。」

司令官は侵入阻止を命じた。

状況は不明だが、とりあえず侵入は防がなければならない。

***

皇帝宮殿入口で双方の部隊が接触した。

「止まれ」

帝国軍の隊長が叫んだ。

「ここは軍の管理区域だ!」

返答はなかった。

代わりに装甲服を着こんだ機動歩兵部隊が前進してくる。

超高力鋼製の盾が展開される。

「内務省警察軍だ!」

警察軍の隊長が叫んだ。

「進路を開けろ!

 皇帝陛下をお助けする!」

帝国軍隊長が叫んだ。

「陛下は我々がお守りしている!」

どちらも引かなかった。

警察軍から閃光弾が投げ込まれた。

白い閃光!

何も見えない。

「視界喪失!」

「後退するな!」

銃声が響いた。

帝国軍が攻撃を開始する。

「前進!」

警察軍機動歩兵が盾を上げて突進する。

衝撃音。

機動歩兵の体当たりで陸戦隊員が吹き飛ばされる。

「一時後退、距離を取れ!」

隊長の命令で陸戦隊が建物内に後退する。

警察軍側が後を追う。

そこに数発の手りゅう弾が投げ込まれる。

閃光とともに破片が飛び散るが機動歩兵の装甲は破れない。

さらに前進する機動歩兵に対し、陸戦隊が応急陣地から重機関銃を射撃する。

今度は装甲が破れ、数名の機動歩兵が倒れる。

残りの機動歩兵は盾で機関銃弾を防ぐが前進できなくなった。

戦線が膠着する。

***

皇帝宮殿の別の入口。

警察軍、陸戦隊の双方が盾を並べて相手の銃撃を防ぎ、一歩も引かない。

陸戦隊がロケットランチャーを持ち出す。

ロケット弾が警察軍の隊列内で爆発し、数名の機動歩兵が吹き飛ばされる。

「機動歩兵、突撃!」

大量の閃光弾の爆発と同時に、数十名の機動歩兵が陸戦隊に向けて突進する。

数百キロの巨体の移動で地面が地震のように揺れる。

半数以上が重機関銃の銃弾に倒れたが、残りが陸戦隊を粉砕する。

警察軍は犠牲を厭わない攻撃で少しずつ前進していく。

***

同時刻。

地上。

皇帝宮殿の異常を察知した帝国軍司令部は増援を向かわせていた。

宮殿に向かう帝国軍歩兵中隊。

かなりの速度で進んでいた隊列が急に止まる。

「何をしている! 前進しろ!」

中隊長が怒鳴る。

先頭部隊の小隊長が報告に来た。

「進めません!

 道路が閉鎖されています!」

「誰が封鎖した!?」

「警察軍のようです。」

「封鎖を撤去しろ!」

数分後。

「かなりの重量物です!

 撤去できません!」

小隊長は慌てた声で言う。

「迂回しろ!」

「了解!

 迂回して前進します!」

そう言って先頭に戻りかけた小隊長が振り返って言う。

「中隊長……」

「なんだ!?」

中隊長が不快そうに尋ねる。

「この様子だと、宮殿に向かう道路はすべて封鎖されているのでは……」

中隊長は少し考え込んだ。

今度は落ち着いた声で命じた。

「状況を司令部に報告。

 部隊は迂回。通れる道を探す。」

***

帝国軍司令部。

警察軍による作戦開始から約一時間。

帝国艦隊副司令長官と参謀総長が見守る中、陸戦隊司令官が作戦指揮を執っている。

激しい通信妨害の中、ようやく軍司令部でも全体状況が把握できるようになっていた。

陸戦隊司令官が二人に報告に来る。

「内務省、本気のようです。」

「状況は?」

参謀総長が尋ねる。

「宮殿の守備兵力は増強一個中隊、歩兵は二百名ほどですが、それを包囲している警察軍は重装備の機動軍千名ほどと思われます。」

「五倍か……」 

帝国艦隊副司令長官と参謀総長が顔を見合わせる。

陸戦隊司令官が報告を続ける。

「しかも帝都全体での広範な通信妨害、地上の交通管制停止、空港の離陸禁止、宮殿周辺道路の封鎖などの措置も取られています。」

「増援は難しいか……」

参謀総長がつぶやく。

「現在、道路の障害物は工兵隊に撤去させています。

 それまでは歩兵を徒歩で宮殿に向かわせるしかありませんが、最初の部隊の到着まで一時間はかかります。その前に、警察軍の封鎖線を突破できればの話ですが。

 空路は、航空管制が受けられませんので他の飛行機と衝突の危険があります。

 危険を覚悟で輸送艇で空から向かわせることは可能ですが、宮殿上空は警察軍の対空火器で撃ち落とされる危険がありますし、離れたところに着陸しては封鎖を突破できません。」

「降下兵は?」

司令官は首を横に振る。

「出動命令を出しても作戦行動に入るまで数時間はかかります。」 

司令官は少し考えて続けた。

「かなり思い切った手ですが……」

「なんだ?

 良い手があるか?」

参謀総長が発言を促す。

「駆逐艦を宮殿上空に向かわせ、艦載砲で警察軍を攻撃するのはどうでしょう。」

司令官が提案する。 

参謀総長は艦隊副司令長官の顔を見た。

副司令長官は首を横に振った。

「それは難しいよ、司令官。

 艦載砲は威力がありすぎる。宮殿に被害が及ぶ恐れがある。

 陛下の身に万が一のことがあれば、取り返しがつかん。」

そして渋い顔でつぶやいた。

「宮殿警備部隊の奮戦と、増援部隊の到着を祈るしかないか……。」

***

宮殿内、皇帝の軟禁場所に通じる通路。

「状況は?」

警察軍指揮官が最前線の部隊長に連絡を取っている。

『概ね予定通りです。陛下の軟禁場所まではあとわずかです。

 しかし抵抗は頑強です。』

指揮官はうなずいて、命じる。

「攻撃を続行。兵をどんどん送り込め。損害を厭うな。」

大事なのは時間だということを指揮官も部隊長も理解していた。

さらに指揮官は直轄の対空小隊の隊長に確認した。

「空から接近する機影はないか?」

「今のところありません。」

小隊長が答える。

「警戒を怠るなよ。」

指揮官はあらためて厳命した。

***

通路の奥に簡易な防衛陣地が構築されていた。

帝国軍側の最後の防衛線。

陸戦隊の装甲歩兵二個小隊が守備に付いている。

警察軍機動歩兵が迫る。

「ここを通すな!」

陸戦隊の部隊長が命じる。

ここを突破されれば、皇帝の軟禁場所まで防衛線はない。

陸戦隊員は誰もがそれを知っていた。

警察軍部隊長が叫ぶ。

「これが最後だ! 投降しろ!」

「断る!」

陸戦隊の部隊長が応じる。

陸戦隊員は誰も逃ず、誰も銃を下ろさなかった。

帝国軍部隊長が叫ぶ。

「盾展開!」

帝国軍の装甲歩兵が盾を並べて通路を封鎖する。

「射撃開始!」

装甲歩兵が背中にマウントされた重機関銃を警察軍に向けて発射する。

大口径の銃弾が機動歩兵の装甲を貫通し、なぎ倒していく。

通路の天井や壁が穴だらけになり、ほこりで視界が遮られる。

「盾重ね! 突破準備!」

警察軍の部隊長が命じる。

機動歩兵たちは突破用の大型盾を二枚ずつボルト止めし、その陰に体を隠す。

「突破!」

一個小隊三十名の機動歩兵が狭い通路の中を何列にもなって突進する。

重機関銃の弾丸の嵐の中、機動歩兵たちは一列、また一列と倒れていく。

しかし後列の兵たちは倒れた兵を踏み越えて突き進む。

ついに双方の盾が接触!

強力な力で押され、超高力鋼で作られた盾が歪む。

皇帝の居場所の近くなので双方とも爆発物が使えない。

至近距離なので重機関銃が使えず、軽機関銃では装甲が破れない。

装甲服のパワーを使った肉弾戦になる。

「押し込め!」

機動歩兵が押し出す。

「押し返せ!」

帝国軍装甲歩兵が叫ぶ。

金属同士がぶつかり合い火花が散る。

双方とも退かない。

「止まるな! 前進! 前進!」

警察軍部隊長が叫び続ける。

***

警察軍指揮官に通信が入った。

『帝国軍装甲車部隊と封鎖線で交戦中。』

『道路封鎖、維持成功。』

別の通信が重なる。

『空から接近する敵影なし。』

『離陸禁止措置、継続中。』

さらに別の通信。

『軍の通信機能は回復中。妨害への対応が進んでいる模様。』

指揮官が周囲の部下たちに短く言う。

「まだしばらく封鎖線は持つ。敵の増援は来ない。」

帝国軍の地上部隊は封鎖戦で阻止され、空路では大量の兵は送り込めない。

***

一人の帝国軍兵士が叫ぶ。

「ここが最後だ!

 引くな!」

誰かが答える。

「分かってる!」

陸戦隊は誰一人、後退しない。

金属のぶつかり合いが続く。

殴り合いで動力発生装置、伝達装置が故障した機動歩兵、装甲歩兵たちが倒れていく。

センサーを破壊されて外部が確認できなくなった兵は、止むを得ず脱落していく。

パワーに勝る陸戦隊の装甲歩兵の方が、一対一の戦闘では警察軍の機動歩兵に対して優勢だったが、徐々に兵力差が表れてくる。

倒れた装甲歩兵の代わりはいないが、機動歩兵は次から次へと新たな兵が投入されてくる。

「増援は来ないのか……。」

陸戦隊の部隊長は天を仰いだ。

三十分ほどで、陸戦隊は戦線を維持できなくなり、残ったわずかの兵は撤退する。

戦闘は終息し、機動歩兵たちが皇帝が幽閉されている部屋の前に集結した。

「熱源確認。」

部隊長が命じる。

一人の兵士が赤外線センサーで室内の様子を確認する。

「熱源十二。」

短い沈黙。

部隊長が言った。

「これから陛下のおられる部屋に突入する。

 陛下とお付きの侍従数名、残り十名弱は陸戦隊の生き残りだろう。

 いいか、何があっても、火器の使用は厳禁だ。

 敵が撃ってきてもだ!

 分かったな!」

部隊長が全隊員に厳命する。

全隊員がその命令を復唱する。

部隊長が一歩下がって、部屋に向かって右手を振り下ろす。

「突入!」

***

中には、皇帝と侍従を取り囲むように陸戦隊員が立っていた。

陸戦隊の指揮官が言った。

「陛下は我々がお守りする。

 ここから先は通さない」

覚悟を秘めた静かな声だった。

「陛下は我々がお守りする。余計な手出しは無用だ。」

沈黙が広がる。

その時、警察軍部隊長に通信が入った。

『軍の増援は引続き阻止。』

それを聞いて部隊長は話しかける。

「聞いた通りだ。

 増援は来ないぞ。」

陸戦隊の指揮官は無言でうなずいた。

部隊長が続ける。

「投降しろ。

 これ以上の抵抗は無意味だ。

 安全な撤退を保証する。」

陸戦隊の指揮官は苦しげな顔で返事をしない。

その時、皇帝が口を開いた。

「指揮官、もうこの辺でよいであろう。」

皇帝は穏やかな表情で陸戦隊指揮官に話かける。

「おまえたちの忠節、余は満足しておる。

 余がおまえたちの警備任務を解く。

 それならよかろう。」

死を覚悟していた指揮官は皇帝の配慮に感動した。

涙を浮かべながら、皇帝の前に膝まづき頭を垂れる。

部下の兵士たちも慌てて指揮官に従う。

「おまえたちは警察軍の者だな。」

皇帝は次に警察軍部隊長に話しかける。

「内務総監の命で、お救いに参上しました。」

皇帝は微笑んで答える。

「余は今まで帝国軍に警備を任せていた。

 これからは、おまえたちに任そう。

 帝国軍の者たちの武装解除は不要だ。名誉ある撤退を。

 負傷者の救助、治療を頼んだぞ。」

警察軍の部隊長とその部下たちも、陸戦隊員の隣で膝まづき頭を垂れた。

「陛下のご深慮、恐れ入ります。

 陸戦隊には名誉ある撤退を保証するよう部下に命じます。」

「それでよい。」

皇帝がうなずく。

帝国史は後に、この日を皇帝が再び帝国の中心に戻った日と記すことになる。


第4章 解放

戦闘は終わった。

警察軍指揮官は前線部隊長から皇帝解放の報告を受けた。

「よくやった。」

指揮官は前線部隊を称賛した。

『陛下からは、陸戦隊の名誉ある撤退を保証すること、負傷者の救助・治療を命じられました。』

「武装解除せずにか?」

指揮官は驚いた。

『陛下は軍を罰するおつもりが無いようにお見受けしました。』

指揮官は少し考えてから答えた。

「陛下には深いお考えがあるのだろう。

 すべて陛下のご指示通りに動け。」

通信は切れた。

「政治向けのことはよく分からん。かかわらないのが一番だ。」

指揮官は小さな声でつぶやいた。

***

帝国軍司令部にもすぐに報告が入った。

皇帝が警察軍に押さえられた。

予期していたとはいえ、その衝撃は大きかった。

***

皇帝が警察軍部隊長に尋ねた。

「内務総監はどこにいる?」

部隊長が答えた。

「内務省本省で指揮を執っています。」

「通信を。」

皇帝が命じる。

部隊長が通信機を操作する。

数秒後、通信が接続された。

内務総監の声が流れる。

「陛下!

 ご無事で何よりでございます。」

「よく動いてくれた。」

内務総監が続ける。

「帝国の行政機能を回復せねばなりません。

 陛下の御名で、皇帝の政務復帰と戦闘行動の即時全面停止を布告したいのですが、よろしいでしょうか?」

皇帝が答えた。

「許可する。」

その布告はすぐに広がった。

すべての通信網を使い、中央星域、外縁星域、辺境星域に同時送信された。

軍の統合指揮網でも送信された。

即時停戦。

***

帝国軍司令部。

そこにも皇帝命令は届いていた。

司令部は静まり返っていた。

誰もが無言だった。

通信端末の表示だけが光っていた。

やがて艦隊副司令長官が言った。

「間違いないのか?」

通信参謀が答えた。

「間違いありません。確認済みです」

短い沈黙。

参謀総長が言った。

「偽装の可能性は?」

通信参謀が首を振った。

「ありません。」

さらに沈黙が続く。

誰もが理解していた。

皇帝が自由になった意味を。

副司令長官が椅子に深くもたれた。

そしてゆっくりと息を吐いた。

「終わったな……。」

誰も否定しない。

一人の将官が発言する。

「まだ戦力は残っています。」

艦隊副司令長官が答えた。

「いまさら戦力の問題ではない。」

短い沈黙。

通信参謀が確認する。

「命令を受理しますか?」

副司令長官が小さくうなずく。

「全軍に通達。

 戦闘行動停止、後命待機。」

それが強硬派の支配する帝国軍司令部の最終判断だった。

一人の将官が悔しそうに言う。

「ここまでか……。」

誰も答えなかった。

だが全員が理解していた。

ここまでだった。

***

レイグナー艦隊でもその通信を受信した。

レイグナー中将が報告を受ける。

しばらく沈黙する。

そして命じた。

「全艦隊に通達。

 戦闘行動停止、後命待機。

 皇帝命令である。」

***

中央星域艦隊の各地の拠点基地でも同じだった。

レイグナー艦隊との戦闘で損傷を受けた各艦隊は、すでに根拠地に帰投し、補給、修理、再編の最中だった。

『戦闘行動停止、後命待機。』

ある艦隊の旗艦艦橋。

参謀の一人が言った。

「まだ戦えます。」

誰も答えなかった。

艦隊司令官はしばらく動かなかった。

そして小さく言った。

「……そうか。」

副官が静かに言った。

「これで決まりですね。」

誰も否定しなかった。

通信参謀が端末を操作した。

「全艦隊へ通達。

 戦闘行動停止。後命待機。」

命令は静かに広がっていった。

そして強硬派の時間は終わった。

***

まだ、抵抗と分裂は残っていた。

しかし帝国は安定を取り戻し始めた。


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