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黒冠のアルク ― 帝国航路に背く者たち ―  作者: 久遠 恒 


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第5話 輸送艦隊襲撃

第5章 輸送艦隊襲撃


ブラッククラウン号は、小惑星帯に潜伏していた。

海賊団ブラッククラウンは“襲う前に調べる”。

間もなく付近を通過する予定の帝国輸送艦の積荷の情報。

ノアが帝国の物流通信を傍受し、事前に調べ上げている。

「積荷:医薬品・栄養配給食・浄水フィルター・燃料セル。

 発送先は辺境コロニー群。

 ただし、封鎖で宙ぶらりん。

 つまり、届けるはずだったものが止められてる。」

ノアが救難信号の一覧を示した。

「不足品目と、積荷が合致してる。

航路も確認済と。」

「やるぞ。」

アルクが言う。

間もなく、帝国輸送艦隊を確認。

大型輸送艦三、護衛駆逐艦一。

護衛はいる。輸送艦にも防衛がある。簡単には勝てない。

「駆逐艦は旧式のようだけど、油断はできない。」

ノアがセンサー情報を分析して、淡々と説明する。

「帝国輸送艦も民間仕様じゃない。防衛システムがある。

 たぶん接舷阻止用近接レーザー砲塔、防御隔壁装備。警備兵も乗ってるね。」

ガロンが装甲スーツを締める。

「叩く場所を間違えるなよ。」

アルクが手を上げる。

「開始。」

ノアが電子妨害を開始。輸送艦の救援信号を妨害する。

同時に、ブラッククラウン号は熱源を最小化して影から出て、輸送艦に接近する。

だが、輸送艦側も黙っているはずがない。

「近接レーザー、起動!」

ルナが叫ぶ。

輸送艦から、短い閃光が走る。接舷阻止用の散弾ビーム。

ブラッククラウン号のシールドが歪み、警報が鳴る。

「ノア!」

「砲塔制御系、侵入。……三十秒、稼ぎます。」

短い時間、輸送艦からの攻撃が止まる。

その間にブラッククラウン号の砲が輸送艦のレーザー砲等をつぶす。

ガロンが接舷ユニットを輸送艦に叩きつける。

電磁クランプが噛み合い、衝撃が船体に響いた。

「接舷!」

「接近ベクトル安定。ハッチ接続。」

ブラッククラウン号の船内で、ガロンが突入班を見回す。

彼の背後には、かつての部下たちが無言で頷いていた。

戦場を共にした者同士の、言葉の要らない確認。

「行くぞ。」

ハッチが開いた瞬間、内側から実弾射撃。

金属壁に火花が散る。

ガロンは盾を前面に突き出し、突入班が閃光弾を投げ込む。

白光。衝撃。

次の瞬間、彼らは流れるように内部へ侵入した。

急所を外した射撃。

武装解除。

拘束。

戦闘は短く、的確に終わる。

「突入区画確保。」

「貨物区画へ。」

貨物室では、コンテナが整然と固定されている。

「自動搬送ライン接続。」

磁気固定具が展開され、搬送ドローンが起動する。

「帝国護衛艦、接近。」

ノアの声が艦橋に広がる。

アルクは短く息を吐いた。

「時間を稼ぐぞ。」

***

ブラッククラウン号は輸送艦の陰に位置を取り、敵艦の射線を遮る。

護衛駆逐艦の砲塔が旋回。

牽制射撃。

駆逐艦の砲撃は大きく外れる。

『輸送艦と、くっ付いているうちはまともには撃ってこねえだろう。

 危ないのは離れてからだ。』

輸送艦で搬送作業を指揮しているガロンから通信が入る。

『あと十分、くれ。』

駆逐艦とのにらみ合いが続く。

***

『搬送完了! 全員、戻った!』

「離脱! 緊急加速!」

アルクの指示。

ルナが操縦桿を目いっぱい押し込む。

ブラッククラウン号はものすごい勢いで飛び出す。 

駆逐艦が撃ってくる。

近距離なので、回避が間にあわない。

レーザービームがシールドをかすめ、シールドが青白く瞬く。

「シールド負荷上昇! あんまり持たない!」

ノアの少し慌てた声。

「ジャミング開始! デコイ散布!」

「位置微修正、射線、はずせ。」

アルクの指示が飛ぶ。

ルナの操作で船体がわずかに滑る。

敵の照準がずれる。

駆逐艦は射撃を続け、ブラッククラウン号はそれを寸前で外し続ける。

「アルク!

 回避運動、もう限界!」

ルナが叫ぶ。

「ガロン、ミサイル発射!

 敵を牽制しろ。」

「了解、船長。」

ミサイルランチャーから次々にミサイルが発射される。

「時間稼ぎにはなるが、今ので在庫切れだ。」

「シールドに過負荷! もう持たない!」

ノアが叫ぶ。

船体が振動する。

アルクは前方の空間を見つめている。

重力の流れ。

小惑星の影。

微細な軌道の逃げ道。

「ルナ、方位角十七、仰角マイナス二十三。

 そのすぐ近くに星間流の大きな乱れがある。

 その陰に入れば、敵艦は追ってこない。」

ブラッククラウン号は瞬時にスラスターを全開し、星間乱流の影に滑り込む。

「駆逐艦、追ってこないよ。振り切ったみたいだ。」

ノアがほっとした顔で言う。

「旧式の駆逐艦だからね。乱流に突っ込んだら船体が持たないよ。」

「やったな。」

ガロンが大きな声で笑う。

「これでコロニーに物資を届けられる。」

ルナが嬉しそうに言う。

アルクはみんなの様子を黙って見ている。


第6章 通信

帝国からの緊急告知が届く。

「アルク、また賞金、上がったみたい。」

ルナがあきれた声で言う。

「もう、驚かなくなっちゃった。」

その時、通信アラート。

「帝国戦術帯域の暗号通信。」

ノアが端末を操作する。

「優先通信、……個人認証署名がある。」

ルナが眉をひそめる。

「個人通信?」

ノアが画面を見つめたまま言う。

「宛先指定は、船長だよ。」

アルクは短く息を吸う。

「回してくれ。」

***

私室に戻り、照明を落とし、アルクは再生キーに触れる。

短い沈黙。

そして――

『……アルク。』

リアの声だった。

『危ないことは、もう止めて。この宙域は危険よ……。』

わずかな間。

『……気をつけて。』

通信は簡潔だった。だが、言葉に出せない感情が滲んでいる。

通信はそこで途切れた。

アルクはしばらく動かなかった。

帝国艦の内部からの通信。当然、通信内容は上官に知られる。

リアの立場では、あれが精一杯だったのだろう。

アルクは、自分のことを心配して、通信をよこしたリアの気持ちを考えた。

やがて、静かに目を閉じる。

「迷ったら星を見ろ、か。」

彼は小さく息を吐いた。


第7章 仲間が従う理由

作戦前、ルナはよく怒る。

「無茶です。」「死にます。」「やめてください。」と言いながら、手は止まらない。

それが、彼女の葛藤だ。

「船長、正直に言って。勝算、あるんですか?」

アルクは言った。

「みんなで帰るための勝算はある。」

ノアが短く補足する。

「船長は、勝率より帰還率を優先する。だから、俺たちは付いていく。」

ガロンは何も言わない。

ただ、武器の手入れをし、黙って出撃準備をする。

ルナがぼそりと漏らす。

「この船長、いつも辺境のみんなのことを考えてる。

 だからね……、一人で行かせるわけにはいかないよね。」

それが答えだった。

ルナもノアもガロンも、みんな辺境生まれ、辺境育ちだ。

辺境に生きる人々の苦悩、葛藤を知っている。

だから仲間は反対し、葛藤し、それでも動く。


第8章 非公式航路

ブラッククラウン号は、帝国辺境航路を外れた宙域を進んでいた。

ここ非公式航路には、航路灯台も通信中継衛星もない。

星々の位置と星間流だけが、進路を示す。

「この先、星間流が不安定だよ。乱流が発生してるかも。」

ノアの声が響く。

スクリーン上の航路図がゆらめいている。

「正式航路は?」

ルナが尋ねる。

「三時間、迂回すれば正式航路に入れる。

 ただし帝国艦の巡回圏に入るけど。」

沈黙。

アルクは前方を見つめる。

見えない流れ。

空間のわずかな歪み。

星間流の歪み。

「このまま行く。」

ルナが小さく笑う。

「言うと思った。」

ブラッククラウン号は針路を維持したまま、星の間の暗い領域へ滑り込んでいく。

船体がわずかに震えた。

「乱流の縁をかすめてる……。」

ノアの声は冷静だ。

大型艦なら避ける航路。

だが小型の船体と応答性の高い制御系なら通過できる。

そして何より――

アルクは流れを見ている。

「方位角三。仰角プラス三。」

ルナが即座に反応する。

船体が傾き、直後に空間の歪みのすぐ脇を通過する。

もし数秒遅れていれば、船体構造に強い応力がかかっていただろう。

ガロンが低く唸る。

「いつ見ても正気とは思えねえ航路だな。」

アルクは答えない。

ただ前を見ている。

やがて振動が収まり、星の光が安定した。

「危険域、通過。」

ルナが息を吐く。

ブラッククラウン号は再び静かな宇宙へ戻った。


第9章 星の記憶

ブラッククラウン号の船内は静かだった。

クルーはそれぞれの持ち場に戻っている。

アルクは観測窓の前に立っていた。

星が流れていく。

幼い頃の記憶は曖昧だ。

小さい頃のことは、ほとんど覚えてない。

気づいたときには、辺境のステーションにいた。

育ててくれた人は、航路灯台の整備士だった。ずっと辺境で育った。

だが――

赤い警報灯。

崩れた通路。

差し出された手。

小さな手を握り返した感触。

「こっちだ。」

少女の息遣い。

振動。

恐怖。

そして外へ出た瞬間の静寂。

アルクは目を閉じる。

「リア、……あの時の顔、思い出せないな。」

だが、温もりだけは覚えている。

遠い記憶の奥で、別れの日、自分の言った言葉が重なる。

「迷ったら星を見ろ。そうすれば帰る方向が分かる。」

彼は小さく息を吐いた。

星は変わらない。

流れ続けるだけだ。

***

同じ頃、帝国艦隊旗艦セレスティアの観測デッキ。

リアは窓外の星を見つめていた。

赤い警報灯の記憶。

差し出された手。

「こっちだ。」

あの温もり。

彼女は唇を噛む。

「どうして、あなたなの……。」

星は静かに瞬いていた。


第10章 救援船団

外縁星域のさらに奥。

辺境星域で、自治ネットワークは独自の補給網を維持している。

自治ネットワークには、多数の辺境コロニー、植民惑星が参加している。

帝国からの輸送船の到着が不定期なため、いざとなれば辺境住民同士で助け合うしかない。

今回も、帝国からの航路一時封鎖の通知を受け、自治ネットワークは各コロニー、植民惑星から物資をかき集め、救援船団を組織した。

鈍重な輸送船。医療支援船。浄水装置を積んだ技術支援船。

軽武装の護衛艇もいるが、帝国艦隊相手では紙くず同然だ。

乗っているのは医療スタッフ、技術者、ボランティア、そして家族を救うため同行する住民。

積荷は食料、ワクチン、栄養剤、浄水部品、核燃料電池。

“生存”に直結するものだけ。

帝国航路に頼れない人々の生命線。

帝国輸送艦から奪った物資を植民コロニーに配り終えたブラッククラウン号も、この船団に加わっていた。少し距離を取って船団を見守っている。

その船団は今、帝国艦隊に足止めされている。

「帝国が航路通過許可を保留にしているらしい。」

ノアが状況を説明する。

「なんで?」

ルナが尋ねる。

「航路税未納。書類不備。安全基準違反。」

ルナが顔をしかめた。

「形式的な理由ばっかり。嫌がらせだよ。」

アルクは救援船団を見つめる。

老朽船が多い。

燃料消費も限界に近い。

時間が経てば、帰還不能になる船も出る。

「交渉は?」

「進展なし。帝国側は正式手続きを要求。」

ガロンが腕を組む。

「ここで足止めされりゃ、干上がるコロニーが出るな。」

アルクがノアに尋ねる。

「帝国軍の戦力は?」

「駆逐艦三隻。

 標準的な駆逐戦隊だね。」

アルクは静かに言う。

「道を作る。」

その目に、船団が映る。

鈍重で、弱くて――。

でも人が乗っている。

ルナが叫ぶ。

「どうするんですか!

 帝国艦隊相手に正面から!」

ガロンが言う。

「救援船団を見捨てる分けにもいかんだろ。」

アルクは強くうなづく。

「見捨てない。」

「船長!!」

「囮になる。

 俺たちが帝国の艦隊を引き付けている間に封鎖線を突破するよう、船団に伝えろ。」

ルナの顔が歪む。

怖い。反対したい。

でも――。

「……了解。

 推進機関、持たせます、船長!」

ノアが言う。

「囮航路、算出するよ。」

ガロンはうなづく。

「そう言うと思ったよ。」

ブラッククラウン号は進路を変え、救援船団から離れる。

帝国艦隊を引きつけるために。


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