辺境星域制圧作戦
黒冠のアルクⅦ
―― 帝国艦隊分裂
第1章 辺境星域制圧作戦
帝都帝国軍司令部。
中央作戦室のホロ画面には、辺境星域全域の航路図が映し出されていた。
帝国辺境航路、灯台網、補給線。
そして――
黒冠航路。
会議用の大きな机の周りに、艦隊司令部、軍務省の高官が座っている。
帝国艦隊副司令長官が口を開いた。
「辺境星域制圧作戦を開始する。」
参謀総長が続けた。
「作戦目的は三つ。
第一、航路灯台管制権の奪還。第二、黒冠航路網の制圧。第三、反抗分子の一掃。」
簡潔だが、意味は重い。
辺境星域における帝国の統制権の再確立。
そのための作戦である。
副司令長官が続けた。
「兵力は中央星域艦隊より一個艦隊、百隻。」
航路図の表示が変わる。
中央星域艦隊の未来位置が表示される。
その一部が前進し、辺境星域の主要航路帯に移動していく。
「外縁星域艦隊より千隻。
これが主力部隊となる。」
外縁星域のあちこちの基地から艦隊が発進し、辺境星域内の各々の作戦宙域に移動していく。
「さらに辺境星域艦隊より二百隻。
この役割は主力となる外縁星域艦隊の先導だ。」
副司令長官は作戦会議の出席者の顔を見回し、話を続ける。
「全部で、主力艦千三百隻。
補給艦、輸送艦、整備母艦、医療艦などの補助艦隊約千隻もすでに編成を終わり、
発進命令を待つだけだ。」
参謀総長が続ける。
「今回は、兵站は十分に確保されている。
補給の心配はない。」
参謀総長は航路図を切り替えた。
航路図上に補給線と各種拠点が表示される。
「補給線は念のため、三重化してある。補給物資の中継用拠点、臨時の整備拠点も余裕をもって設置する。
長期作戦にも耐えられる。」
副司令長官が続ける。
「予備兵力も用意している。
軍事的には、作戦遂行に問題は無い。
あとは指揮官の決定だけだが、これはドライゼン閣下に決めて頂こうと思うが。」
出席者からは特に異論は出ない。
「本日は、これで終了とする。」
副司令長官は席を立った。
自室には戻らない。
そのまま帝都郊外、皇帝諮問官ヴァルケン・ドライゼンの私邸に向かう。
ドライゼンはすでに軍の指揮系統には含まれていない。
皇帝によって皇帝諮問官に任じられているので、本来の勤務場所は皇帝宮殿となる。
しかし本人は実質的な更迭であることを自覚して自宅で謹慎しており、めったに外出しない。
公式には軍務に関与することはない。
しかし帝国軍に対する影響力は未だに大きく、実際に軍を動かしているのが誰か、知らない者はいなかった。
副司令長官は応接室に通された。
ドライゼンは静かに座っていた。
軍人らしい厳しい風貌。鋭い眼光。
副司令長官は緊張しながら、説明を始めた。
説明は簡潔に。
辺境星域制圧作戦の目的、兵力構成、補給計画、作戦期間。
すべて説明する。
ドライゼンは何も言わず、ただ聞いていた。
何度かうなずく。
副司令長官が最後に言った。
「指揮官の人選について、ご意見をいただきたいのですが。」
形式上は“ご意見”だが、実質的には“指示・命令”である。
長い沈黙が落ちた。
やがてドライゼンが言った。
「レイグナー中将を。」
副司令長官はわずかに視線を動かした。
意外だったからだ。
レイグナーは、辺境星域に対する作戦で二度失敗している。
もちろん無能ではない。
むしろ優秀であると評価している。
だが、成功はしていない。
ドライゼンは続ける。
「彼が適任だ。」
副司令長官はほんの少しの間、考えた。
そして答えた。
「了解しました。
辺境星域制圧作戦の指揮官はレイグナー中将とします。」
理由は聞かない。
レイグナーは優秀である。
統率力があり、判断が早い。そして現場の人間から信頼が厚い。
あえてドライゼンの判断に異を挟む必要はなかった。
副司令長官は立ち上がった。
「それでは作戦を進めます。」
ドライゼンはうなずいた。
副司令長官は敬礼をして立ち去った。
数時間後。
命令は正式に発令された。
『レイグナー中将を辺境星域制圧作戦司令官に任命する。』
指揮下の兵力。
主力艦千三百隻。補助艦隊多数。
作戦目的。
辺境星域の統制権の掌握。
帝国軍は動き始めた。




