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黒冠のアルク ― 第一部完結/第二部・皇女編連載中 ―  作者: 久遠 恒 


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辺境の議場

第15章 辺境の議場


エリオス。

辺境星域の中核植民星。

ブラッククラウン号は減速して衛星軌道に進入した。

周囲にはたくさんの輸送船が飛んでいた。

ルナがセレノスに言った。

「エリオスです。」

少しだけ誇らしそうだった。

セレノスは言った。

「活気がありますね。」

自然な感想だった。

ブラッククラウン号は行政港へ向かった。

接続が完了し、通路が開く。

トマス・ケードが出迎えに出ていた。

セレノスが歩み寄る。

ケードが落ち着いた声で迎えた。

「ようこそ、議長。」

セレノスが答えた。

「受け入れていただき感謝します。」

二人は握手をする。

その意味は大きい。

ケードはアルクたちに振り返り、微笑んだ。

「今回もありがとう。

 お礼はあとでゆっくりと言わせてもらう。」

セレノスもアルクたちを見回し微笑む。

「改めて、礼を言わせてもらいます。

 ありがとう。」

そう言って頭を下げた。

二人は話をしながら去っていった。

「行っちゃったね。」

ルナがアルクを見て微笑む。

「一月半か。今回も大変だったな。」

ガロンが首の周りを揉みながら言う。

「アルクは病院で検査を……」

リアが心配そうにアルクの顔を覗き込む。

「病院……。

 嫌いだな。」

アルクがポツンと言う。

「駄目です!

 お医者様に診てもらわないと。」

リアが強く言う。

「付いてってあげるよ。」

ルナが言う。

リアが咳払いする。

「私が付いていきます。」

ルナとリアが微妙な顔でお互いを見る。

「面倒くさいから、三人で行けば。」

ノアが結論を出した。

***

ケードとセレノス。

二人は会議を始めていた。

場所はエリオス行政棟の小会議室。

出席者は二人だけだった。

「中央の状況はどうですか?」

ケードが尋ねた。

セレノスが答える。

「中央は、ほぼ軍の制圧下です。

 完全ではありませんが。」

ケードはうなずいた。

セレノスが続けた。

「執行官会議は大部分の植民惑星が様子見です。

 中央星域も、外縁星域も。」

ケードが言う。

「議長がここに来た意味は大きい。

 中央の代表としてではありません。

 改革派の代表としてです。」

セレノスは少し微笑んだ。

ケードが言った。

「大規模な会議を開きます。」

セレノスが尋ねた。

「出席者の範囲は?」

ケードが答えた。

「辺境のコロニーすべてです。」

セレノスは理解した。

辺境に到着早々、勝負の場に出るのだと。

セレノスが言った。

「状況を整理しましょう。」

ケードがうなずいて続きを促す。

「軍は首都星と中央星域、外縁星域を押さえています。

 皇帝は軟禁状態。

 執行官会議は様子見状態。

 中央星域でも外縁星域でも、積極的に軍に反抗する動きはありません。」

ケードが確認する。

「辺境に期待しておられるのですね?」

セレノスは答えた。

「もはや希望は辺境星域にしかありません。」

即答だった。

ケードは少し微笑んだ。

セレノスは尋ねる。

「辺境の政治情勢はどうなっていますか?」

ケードがうなずいて答える。

「中央、外縁と同様です。

 当面、様子見というのが多数派です。

 具体的には帝国への恭順派が一割。

 抵抗派が九割ですが、積極的な抵抗派は三割、六割は様子見です。」

セレノスが尋ねる。

「帝国からの独立を目指す勢力の影響力は?」

ケードは少し笑って首を振った。

「独立を求める声が影響力を持っているコロニーも一部ありますが、辺境全体では影響力はほとんどありません。

 帝国と完全分離しては経済的に立ち行かないことは明らかですから。」

セレノスはうなずいて強く言う。

「独立は現実的ではありません。」

セレノスは続ける。

「しかし軍の独裁に従うことも、辺境にとって自殺行為です。」

ケードがうなずく。

「それも同意見です。」

しばしの沈黙。

結論は見えていた。

セレノスが言った。

「目指すは辺境星域の自治権の拡大。

 中央、外縁と辺境との共存共栄。」

セレノスは静かに続けた。

「帝国は広すぎる。

 中央の制度は中央では機能します。」

一拍置いた。

「ですが辺境では機能しない。」

ケードは黙って聞いていた。

「それでも帝国は同じ制度で統治しようとしてきた。

 その結果がいまの状況です。」

充分な管理ができない灯台航路網。

深刻な輸送の遅延。

そして黒冠航路の拡大。

「帝国は変わらなければなりません。」

セレノスははっきり言った。

「辺境のためだけではありません。

 帝国のためにもです。」

ケードが確認した。

「辺境星域の自治権の拡大は、中央星域、外縁星域にとっても望ましいということですね。」

セレノスはうなずいた。

「辺境が安定すれば、航路が安定し、資源供給が安定します。」

さらに続ける。

「結果、中央星域、外縁星域の植民惑星の経済が安定します。」

ケードがうなずく。

「まずは鉱物資源売却の際の自由交渉権の確保、コロニー内の治安維持権限の委譲。

 この当たりですね。」

セレノスがうなずいて言う。

「辺境の自治権拡大は、決して帝国の分裂ではありません。」

少し間を置いて言う。

「帝国の安定につながるものです。

 そして成功すれば、帝国の繁栄は続きます。」

ケードは言った。

「議長と私の目指すもの。

 方向は一致しているようです。」

ケードは微笑んだ。

「それでは辺境自治ネットワークの総会を招集しましょう。」

***

エリオス行区画の会議棟。

辺境自治ネットワークの総会が開かれていた。

各コロニーの代表が出席していた。

その数、数百名。

開発の進んだ植民星の代表は少なく、

ほとんどが小規模な農業惑星や鉱業惑星、小惑星帯に設置された鉱山基地、整備補給基地の代表だった。

ケードは中央の代表席に座り、総会を取り仕切っていた。

発言の口火を切ったのは恭順派だった。

「軍と対立することは無謀です。」

「対立は避けるべきです。」

「軍と協調すべきです。」

恭順派は外縁宙域に近く、中央、外縁との経済的な結びつきが強いコロニーが多い。

帝国と紛争になった場合、最初に軍事的脅威を受けるという地理的な状況もある。

しかし、それに反対する声も大きかった。

「資源の価格統制を強化されたら経済が立ち行かない。」

「これ以上の圧迫には我慢できない。戦うべきだ!」

さらにそれに反対する意見も出る。

「軍に抵抗して勝てるものか!」

「戦争が始まれば、最初に戦場になるのは我々の星だ!」

辺境は帝国と戦争をする準備など持っていない。

その現実は、この場の全員が共有していた。

「では軍に従うのか!」

従えば、航路管理も資源管理も中央の統制が強化される。

辺境の貧しさは続く。

意見は割れ、紛糾した。

ケードが立ち上がった。

議場が静まった。沈黙が広がる。

「第三の選択があります。」

全出席者がケードに注目した。

「帝国と交渉しましょう。」

ケードは議場を見回す。

「正面からの抵抗は愚策です。軍の圧力が強くなるだけです。

 かと言って、軍の言い分を鵜呑みにしていては我々の生活は向上しない。

 となれば、交渉しかない。当然のことです。

 今までのご発言を伺っていると、皆さんの主張は極端すぎます。

 まずは交渉しましょう。

 自治権の拡大を目指すのです。」

一人の代表がケードに質問する。

「お考えは、ごもっともです。

 交渉できるなら、それに越したことはない。

 ただ、それが難しいからここで対応を議論してるのではないですか?」

「交渉は可能です。」

ケードは自信たっぷりに答える。

「黒冠航路のお陰で、我々の立場は強くなっています。

 加えて、我々には強い味方がいます。」

ここでケードの隣に座っていたセレノスが立ち上がった。

ケードがセレノスを紹介する。

「執行官会議議長セレノス・ヴァルティア氏です。

 議長は帝国内の改革派を代表する方です。

 軍と対立し、ここ辺境星域に亡命をされました。

 議長が軍との交渉に加わってくれます。」

セレノスが挨拶する。

「執行官会議議長セレノス・ヴァルティアです。

 私には帝国中央に同志がたくさんおります。

 帝国皇帝との接触ルートも持っています。

 ともに帝国の安定、中央と辺境との共存共栄のため、戦いましょう。」

パラパラとまばらな拍手が起きた。

亡命してきた議長にどれほどの力が残っているのか?

議場の出席者は懐疑的だった。

そんな雰囲気を無視してケードは発言を続ける。

「私とセレノス議長に交渉を任せて頂きたい。

 必ずや、ご期待に応えて見せます。」

反対意見は出なかった。

交渉が可能なのか、半信半疑の者も多かったが、代替案が無い以上、賛成するしかない。

総会は終わった。

***

その後、すぐ。

ケードとセレノスは今後の進め方について話し合った。

「セレノス議長。

 当面は議長の人脈で軍の動きを探ってください。

 タイミングを見て軍に交渉を持ち掛けます。

 交渉が可能であればですが。」

セレノスは首をかしげた。

「代表は、軍との交渉に懐疑的なようですね?

 総会でのご発言と異なるようですが?」

ケードは苦笑いした。

「あの場では、ああ言うしかなかったのです。

 あのまま議論が進めば、抵抗派が数で押し切って主導権を握ったでしょう。

 そうなれば軍との摩擦が増え、軍に軍事侵攻の口実を与えかねません。

 恭順派との間で辺境が二つに割れることにもなります。」

「それで成功の見込みが立たない交渉案を持ち出して、実質的に代表一任を取り付けた分けですか。

 私も話は合わせましたが。」

セレノスも苦笑いした。

ケードのしたたかさに感心もした。

二人は辺境の主導権を確保した。

だが苦難の道のりは、まだ始まったばかりだった。


エピローグ

帝都の軍務省。

報告はすでに届いていた。

辺境自治ネットワーク総会。

副司令長官は黙って報告書を読んでいた。

前に座る参謀総長が言った。

「セレノス議長が参加したようだな。」

「逃げ切ったようだ。面倒なことだ。」

副司令長官が吐き捨てるように言う。

「やはり問題は辺境星域だな。」

副司令長官はうなずいた。

「いよいよだな。」

参謀総長もうなずく。

「いよいよだ。」

帝国は動き始めていた。

***

惑星エリオス。

行政棟上層階。

ケードとセレノスが並んで窓の外を見ていた。

「あそこに黒冠航路が走っています。」

ケードがセレノスに話しかける。

「交渉カードにはならないでしょう。

 軍は帝国から独立した航路の存在は認めません。

 航路は帝国の力の源泉です。」

ケードがうなずく。

「難しいことになりそうですね。」

セレノスも黙ってうなずく。

ケードが言った。

「あなたが必要です。」

セレノスは小さく笑った。

***

ブラッククラウン号は出航準備中だった。

依頼された航路観測機材の輸送任務。

操縦席に座るルナが言った。

「なんか静かだね。」

アルクが答えた。

「嵐の前だ。」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


今回で第6巻が終了し、次回から第7巻に入ります。


第6巻では、ついに帝国の中枢で大きな異変が起きました。


積み重なってきた対立。

強硬派の動き。

そして、アルクたちがこれまで関わってきた航路と辺境の問題。


それらが一気に表へ出たことで、帝国は大きな分岐点に立たされることになります。


第7巻では、軍の分裂、内戦、そして決戦へと、物語はさらに大きく動いていきます。


ブラッククラウン号は、この混乱の中でどこへ向かうのか。

アルクたちは、帝国と辺境の未来に対して何を選ぶのか。


ここから先は、戦いの規模も、背負うものも、これまで以上に大きくなっていきます。


続きも毎日20時過ぎに更新予定です。


少しでも「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援いただけると、とても励みになります。


引き続き、よろしくお願いします。


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