捕捉不能
第13章 捕捉不能
少し前。
外縁星域と辺境星域の境界を監視する艦隊の司令部。
その司令官室。
作戦参謀が報告に来る。
「偵察艦が一隻、消息を絶ちました。
調査の結果、粒子砲による攻撃を受けたものと判明しました。」
沈黙が広がる。
「灯台の航路記録は?」
司令官が尋ねた。
参謀が首を振る。
「粒子砲の射程圏に該当する船舶の航路記録はありません。」
「存在しない船から攻撃を受けたということか……?」
「灯台航路を使っていないとしか考えられません。」
参謀が答える。
「念のため、もう一度、航路記録を調べろ。」
司令官は命じた。
参謀は退出し、しばらくして戻ってきた。
「変更ありません。やはり記録はありません。」
司令官が言った。
「接触したな。」
作戦参謀が答えた。
「偵察艦の喪失座標は、セレノスが潜伏していたとみられる植民星コルノトと辺境星域を最短距離で結ぶライン上です。
可能性は高いと思われます。」
「ブラッククラウンか。」
司令官はつぶやいた。
そして参謀に命じた。
「偵察艦の喪失座標と辺境星域を結ぶ線を中心に警戒を強化。
予備艦も動員しろ。」
「はっ。」
参謀が敬礼をして退出する。
***
半月ほど後。
参謀が駆け込んで来た。
「ブラッククラウンとおぼしき目標と接触しました。
現在、追跡中とのことです。」
「こちらの戦力は?」
「駆逐艦三隻、巡洋艦一隻、高速艇三隻です。」
「戦力的には充分だな。
逃がすな。拿捕しろ。
無理ならば撃沈を許可する。」
「命令を伝えます。」
参謀が退出する。
しばらく後。
参謀が沈んだ顔でやって来た。
「逃げられました。」
「状況を説明しろ。
逃げられただけでは分からん。」
司令官はむっとした表情で命じた。
参謀は言葉に詰まった。
「どうした?」
「それが……、はっきりしないのです。」
「はっきりしない?」
「報告では突然、目標が消失したとのことで……。」
「原因は分からんのか?」
「ブラッククラウンの過去の記録を確認したところ、似たような事例が一度だけ記録されているのですが……。」
参謀は司令官の顔をチラッと見て続けた。
「それが……、通常空間に落ちたのではないかと……。」
司令官は首を振ってため息をついた。
「もういい。下がれ。
捜索は続けろ。」
そんな夢のような話、信じられるか。
司令官は、この話は忘れることにした。
***
帝都、帝国艦隊副司令長官の執務室。
「セレノスは、まだ見つからんか?」
副官に尋ねる。
「まだ見つかっていません。」
「捕まえろ。確実に。
セレノスが辺境に入ると面倒なことになる。」
副官は敬礼して退出した。
第14章 黒冠航路
セレノスは航海図を見ていた。
中央星域の航法図には記載されていない細い線が数多く書かれている。
セレノスが言った。
「これが」
少し間を置いた。
「黒冠航路ですか?」
ルナが答えた。
「はい。」
少し誇らしげだった
リアが補足する。
「帝国航路ほど灯台に依存していません。」
セレノスはリアを見た。
リアは続けた。
「ですが、完全に灯台なしで航行しているわけではありません。」
正確な説明だった。
ガロンが言った。
「灯台が使えない場所でも、ある程度までは動ける。」
少しだけ笑った。
「それが強みだ。」
セレノスはうなずいた。
ルナが言った。
「アルクだけは別ですけどね。」
また少しだけ誇らしそうだった。
セレノスが聞いた。
「別とは?」
リアが答えた。
「完全に灯台に依存しない航行が可能です。」
大きな意味を持つ言葉だった。
セレノスは操縦席の方を見た。
若い青年。
彼は帝国の航法体系の外にいる。
セレノスは理解した。
ここは帝国の完全管理下の航路とは別の航路ができつつある場所なのだと。
そのときだった。
ノアが言った。
「通信、繋がった。安定してる。」
ルナが笑った。
「いよいよ戻ってきたね。」
ノアが言った。
「通信、入るよ。
セレノスさん宛て。」
リアが表示を確認した。
「ケード代表です。」
通信が開いた。
トマス・ケードの顔が映る。
『ご無事で何よりです、セレノス議長。』
落ち着いた声だった。
セレノスが答えた。
「お力添えに感謝いたします、ケード代表。」
ケードが言った。
『予定より時間がかかりましたね。』
セレノスが言った。
「長く待ちました。」
その一言には、いろいろな思いが込められていた。
ケードはうなずいた。
『到着後、直接お話しできればと思います。』
セレノスが答えた。
「是非、お願いします。」
通信が終わった。
セレノスは言った。
「ここからが本番です。」
リアが笑顔で答えた。
「はい。」
ガロンが言った。
「政治の時間だな。」
ルナが笑った。
「難しそうですね。」
セレノスは笑ってうなずいた。
「難しいことはたくさんあります。」
セレノスは覚悟していた。




