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黒冠のアルク ― 第一部完結/第二部・皇女編連載中 ―  作者: 久遠 恒 


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安全な場所

第9章 安全な場所


ブラッククラウン号が入港したのは、エリオス衛星軌道上の修理ドックだった。

外殻装甲の焼損。

粒子砲連続発射による船体への負荷。

補助炉への負荷。

ドックの技術者の見立てでは、どれも放置はできないとのことだった。

ただ致命傷ではなく修理可能との判断。

アルクたちは皆、ホッとした。

「まともなドックだな。」

ガロンが言った。

外部整備リングを見上げながら笑う。

「ええ。」

リアが答える。

「きちんと修理してもらえるでしょう。」

「でも修理代、かなりかかるよ。

ケードさん。持ってくれるかな。」

ルナが心配そうに言う。

「ここんとこ、ケードさんの依頼続きで、あんまりお仕事してないよ。」

「そうは言っても修理はしとかないと。」

ノアが言う。

ルナが大きくため息をついた。

「ミサイルの補充も必要だし。

 ケードさん、全面的にバックアップするって言ってたじゃない。

 アルク、聞いてみてよ。」

アルクは無言でうなづいた。

「俺たちは、武装のチェックをしてから行く。

 先に始めていてくれ。」

ガロンが言った。

「了解。」

アルクが答える。

「すぐに終わる。」

そう言って、ガロンは部下三人を連れて船の武装区画へ向かった。

残った四人はドックを出た。

港湾区の回廊は静かだった。

整備員が行き交う。

搬送車が通る。

作業灯が暖かい色で並ぶ。

遠くで子供の笑い声がした。

居住区が近い証拠だった。

ルナが言う。

「……普通だね。」

ノアが笑う。

「普通だよ。」

リアが周囲を見る。

「落ち着いたコロニーですね。」

港湾区を抜けると商業区に入った。

食事の匂い。

話し声。

音楽。

灯り。

人々の生活がそこにあった。

ルナが少し笑う。

「なんかこういうの久しぶり。」

ノアが言う。

「ほんとだね。」

アルクも歩きながら言った。

「そうだな。」

リアも微笑む。

やがて整備員たちが集まる酒場に着いた。

天井は低い。

照明は柔らかい。

木製の椅子。

磨かれたカウンター。

騒がしいが穏やかだった。

四人は席についた。

飲み物が運ばれてくる。

アルクもグラスを取った。

久しぶりだった。

ルナが言う。

「乾杯しようよ。」

ノアが言う。

「脱出成功に。」

リアが微笑む。

四人がグラスを合わせた。

ルナが言う。

「ほんと助かったよね。」

ノアが言う。

「正直もう駄目かと思った。」

リアが言う。

「判断が適切でした。」

そう言ってアルクを見る。

アルクは少しだけ笑った。

「みんなのおかげだ。」

ルナが笑う。

「珍しい。」

ノアも笑う。

「ほんとだ。」

リアが周囲を見回した。

静かな声で言った。

「ここは安全ですね。」

その直後だった。

扉が開いた。

四人の大柄な男たちが入ってくる。

歩き方がどこか普通の人と違った。

なにより視線が違う。

アルクたちだけを真っすぐに見ている。

リアが小さな声で言う。

「アルク……。」

銃声が鳴った。

壁が砕けた。

テーブルが倒れた。

悲鳴が上がり、客が倒れた。

「伏せて!」

リアが言う。

短機関銃の連射。

ビンの破片が飛び、テーブルの木片が散った。

床に穴が開く。

リアが叫ぶ。

「情報部!?」

アルクがテーブルを蹴って遮蔽物を作る。

リアが撃って、男たちの一人が倒れる。

だが敵の数が多い。

入口側だけではない。裏口側にも回り込んでいる。

いつの間にか、横にも、入口にも、奥にもいる。

「囲まれてる!」

ルナが叫ぶ。

弾丸が柱を削る。

椅子が砕ける。

ガラスが割れる。

「逃げましょう。」

リアが提案する。

アルクがうなずく。

だが遅い。

逃げ道がない。

その時だった。

扉が吹き飛んだ。

「すまん、遅れた!」

ガロンだった。

後ろに三人。ガロンの部下。

四人が一斉に撃ち始める。

すぐに敵二人が倒れる。

さらに一人。

残りが散開し、反撃を始める。

弾丸が飛び交う。

柱が裂け、壁が砕ける。

ガロンとその仲間は撃ち続ける。

徐々に敵の数が減っていく。

とうとう残った敵は逃げ出した。

ガロンたちは後を追わない。

静寂が戻った。

立ち込める硝煙の煙。

銃弾の残した焦げた匂い。

そして……血の匂い。

「終わったか。」

ガロンがそう言って、周囲を見回す。

その時、ガロンの視線が止まった。

「誰も動くな。」

低い声だった。

アルクが言う。

「どうした?」

ガロンが言う。

「奴らが置いていった。」

アルクの近く。

倒れた椅子の陰。

小型爆薬。

起爆ランプが点滅していた。

「時間は?」

リアが震える声で尋ねる。

「分からん。」

次の瞬間。

ガロンが動く。

アルクを突き飛ばす。

小さな爆発。

白い閃光。

爆風。

音が消え、視界が揺れる。

「ガロン!」

ルナが叫ぶ。

声が震えている。

ガロンが倒れていた。

身体の下に血が広がっていた。

動かない。

「いや……。いや……。

 いや!」

ルナが取り乱す。

リアが駆け寄り、ガロンの呼吸を確認する。

「大丈夫、生きています。

 すぐに救急車を。」

ルナが泣きそうな声で言う。

「なんで……、なんでガロンが……。」

アルクは立ち上がれなかった。

言葉が出ない。

リアが静かに言った。

「ここは」

少しだけ間を置いて

「安全な場所ではありませんでした。」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


今回で第5巻が終了し、次回から第6巻に入ります。


第5巻では、帝国内強硬派によるアルクと辺境への攻撃を描きました。


アルクたちが選んだ航路。

ブラッククラウン号が示した可能性。

そして、帝国の内側で少しずつ積み重なってきたひずみ。


それらが、いよいよ第6巻で大きく動き出します。


次巻では、帝国中枢を揺るがす事態が発生し、アルクたちもこれまで以上に大きな流れの中へ巻き込まれていきます。


辺境の船だったブラッククラウン号が、帝国の未来にどう関わっていくのか。

アルクたちがその中で何を選ぶのか。


引き続き見守っていただければ幸いです。


続きも毎日20時過ぎに更新予定です。


少しでも「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援いただけると、とても励みになります。


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