宇宙の襲撃
第7章 宇宙の襲撃
「エリオスより優先通信。」
リアが言う。
回線を開く。
通信にはノイズが混じっていた。
『執行官府が襲われた。』
艦橋の空気が変わる。
「ケードは?」
アルクが聞く。
通信が続く。
『地下区画へ退避。無事確認。』
リアがほっと息を吐く。
誰が襲撃したのか……。
その直後だった。
ノアが言った。
「……変だ。」
「何が?」
アルクが聞く。
ノアは表示を見ている。
赤外線センサーの画面だった。
「熱分布がおかしい。」
距離八十万キロ。
重力センサー、レーダーには反応なし。
だが赤外線センサーだけが拾っている。
「推進機関の熱だと思うんだけど、数が多い」
ノアが言う。
「それに、この距離でこの熱量はおかしい。」
アルクが理解する。
小型で高速の物体。
複数で接近中。
「離れる。」
アルクが言う。
推進出力が上がる。
ブラッククラウン号が加速する。
航跡が伸びる。
だが――
ノアが言う。
「まだ近づいてくる。」
距離七十万キロ。
まだ姿は見えない。
距離六十万キロ。
レーダーが捕捉する。
「接近反応!
高速戦闘艇! 約二十。」
ノアが叫ぶ。
表示が切り替わる。
複数の光点。
一直線に向かって来る。
「速いな。」
ガロンが言う。
事実だった。
ブラッククラウン号が加速しても、差が縮まらない。
むしろ詰められている。
追跡は数時間にわたり続いた。
距離は徐々に縮まる。
***
数時間後。
とうとう追いつかれた。
戦闘艇が散開する。
上下左右。
そして後方。
「振り切れない。包囲される。」
ガロンが言う。
誰も否定しない。
戦闘艇の配置が変わる。
さらに密になって近づいて来る。
距離が詰まる。
三万キロ。
二万キロ。
一万キロ。
包囲が完成した。
通信が入る。
軍用回線だった。
『停船しろ。』
識別信号。
帝国軍。
誰も返事をしない。
ブラッククラウン号は速度を落とした。
だが停止はしない。
戦闘艇は撃ってこない。
その後だった。
重力センサーに新たな反応が現れる。
遠距離。
微弱。
ゆっくり接近している。
「母艦だ。」
ノアが言う。
距離約百万キロ。
中型の軍艦だった。
リアが表示を見る。
少し考えこむ。
「超高感度センサー装備艦かもしれません。」
アルクがリアを見る。
リアが続ける。
「この艦の装備なら、条件が良ければ距離百五十万キロで、私たちを発見できます。」
つまり――
最初から見られていた。
ノアが言う。
「特殊艦……。
待ち伏せだったのかな。」
アルクが言う。
「……ケードだ」
リアがうなずく。
執行官府襲撃。
そしてブラッククラウン号の包囲。
偶然ではない。
同時作戦だった。
ノアが言う。
「撃ってこないね。」
アルクが顔を上げる。
リアが続ける。
「捕まえるつもりです。」
理由は明確だった。
撃沈では、帝国はブラッククラウンの死を証明できない。
だが、捕まえれば示せる。
辺境住民に見せつけることができる。
抵抗運動の象徴の死を。
辺境全体への政治作戦として。
***
ブラッククラウン号は包囲の中心にいた。
帝国の警告を無視して飛行は続けていた。
アルクは正面スクリーン越しに宙を見ている。
星間流の流れを探す。
脱出に利用できる流れ。
……見つからない。
だが必ず特異な流れがある。
探し続けるしかなかった。
第8章 追い込みと突破
包囲は完成していた。
前方。
上下左右。
後方。
二十隻近い高速艇が、ブラッククラウン号と一定の距離を保ちながら飛んでいる。
撃ってこない。
だが逃げることもできない。
高速艇の火力は高くはないが、二十隻相手では勝ち目はない。
このままでは、いずれ捕獲される。
「妙だな。」
最初に言ったのはガロンだった。
「高速艇、速度が一定じゃないぞ。微妙にずれてる。」
リアも同じ表示を見ていた。
「ええ。」
静かにうなずく。
「無理を……してる?」
リアがガロンの顔を見る。
ルナが振り向く。
「無理って?」
ガロンが答える。
「高速艇はあの速度を長い時間、維持できるわけじゃない。」
リアが続ける。
「母艦を発進したときの距離は最大で約百五十万キロです。」
表示を指す。
「そのあと何時間も私たちを追跡しています。」
アルクが言う。
「ノア。」
ノアはすでに計算を始めていた。
航跡。
推進熱。
相対速度。
包囲密度。
すべてを重ねていた。
「……限界に近いと思う。」
ルナが聞く。
「ほんと?」
ノアがうなずいて表示を拡大する。
「最初に捕らえた距離が約八十万キロ。
そこからずっと全速を出しているはず。」
説明を続ける。
「ブラッククラウン号との最大速度差は、だいたい八十キロ毎秒くらい。
つまり二時間半以上は全力追撃してる。」
リアが補足する。
「発進から計算すると四時間を超えます。」
ガロンが言う。
「高速艇の最大航続時間ってのは普通は四時間半くらいだ。
冷却と燃料が限界に来てるはずだ。」
表示を指す。
「二十隻全部がまだ最大出力を出せるとは思えんな。」
ガロンが続ける。
「つまりだ」
ノアが言う。
「今ここで全速出せる艇は少ないと思うよ。」
沈黙が広がる。
ルナが言う。
「じゃあ……。」
アルクが言う。
「包囲の網が荒くなる。」
リアがアルクを見る。
「一か八か……、抜けますか?」
ノアが言う。
「見込みが外れたら終わりだよ。」
アルクがうなずく。
ガロンが言う。
「二十隻が攻撃してきたらきついぞ。」
アルクが尋ねる。
「どうする? みんな。」
ルナは即答だった。
「やろう。」
「賛成です。」
リアも迷いがなかった。
ノアもうなづく。
ガロンが笑う。
「最初からそれしかねえだろ。
捕まったらろくなことにならねえ。
俺たちは、今や帝国一のお尋ね者だ。」
アルクが笑う。
「ガロン。
牽制、任せたぞ。」
「おお、任せろ。」
ガロンが武装管制卓に手を置く。
「撃ちまくる。」
ノアが言う。
「進路設定完了。」
リアが言う。
「すでに遅れ始めた艇が三隻あります。」
アルクがセンサー表示を指す。
「ここが一番薄い。」
アルクが続ける。
「ここを抜ける。」
通信が入る。
『停船しろ。
停船しなければ攻撃する。』
アルクが通信を無視して言う。
「補助炉投入。」
ガロンが笑う。
「派手に行こうぜ。」
主炉出力上昇。
補助炉点火。
推進光が一気に伸びる。
ブラッククラウン号が急加速する。
包囲の網の隙間を強引に抜ける。
船体が軋む嫌な音が響く。
警告表示が赤く点滅する。
「来た!」
ルナが叫ぶ。
十七隻が同時に追撃を開始した。
「回避運動、始めるよ。」
ガロンが叫ぶ。
「シールド全開!
防衛システム、オン!」
まばゆいレーザー光が宙を走る。
真空を切り裂く白線。
小型ミサイルが放たれる。
尾を引いて接近してくる。
自動迎撃システムが作動する。
迎撃ミサイルが発射される。
敵ミサイルの軌道上で爆発、小弾を散布、弾頭を破壊する。
撃ち漏らしたミサイルは近接防御レーザーが迎え撃つ。
光が交差する。
一発、二発、三発。
敵ミサイルが爆発する。
巨大な火球が広がる。
敵のレーザーが数発、シールドに当たる。
閃光。
「シールド八十三パーセント低下!」
ガロンが報告。
「うまく避けろよ、ルナ。
あと一、二発しか持たないぞ。」
「仕方ないでしょ。近すぎるのよ!」
ルナが叫ぶ。
「撃ち返すぞ!」
ガロンが手持ちのミサイルを全弾発射する。
高速艇の一隻に直撃。
広がる火球の中で消滅していく。
レーザー砲も撃ちまくる。
これでまた一隻が撃沈。
ブラッククラウンはさらに加速する。
包囲線が徐々に崩れる。
追って来る攻撃艇が減っていく。
十七隻が十隻まで。
さらに六隻まで。
それでも攻撃は続く。
レーザーが連射される。
ついにシールドが過負荷で消滅。
一発が装甲に当たる。
火花が散る。
「外殻ヒット!」
リアが叫ぶ。
「貫通なし!」
さらにミサイルが来る。
迎撃レーザーが撃ち落とす。
爆発光が連続する。
空間が白く染まる。
「まだ追って来ます!」
リアが叫ぶ。
四隻が食らいついて来る。
距離が詰まる。
レーザーが走る。
装甲に連続命中。
ガロンが静かな声で言った。
「粒子砲、行くぞ。」
リアがあわてて止める。
「船体負荷が限界です。」
ガロンが笑う。
「知ってる。
しかし、そんなことは言ってられん。
撃つ!」
使い捨て粒子砲が発射される。
一発、
二発、
そして三発。
連射。
船体が震え、警告音が鳴る。
粒子砲が追撃艇の進路を裂く。
一隻に直撃し、爆散。
追撃して来た攻撃艇は、あわてて散開した。
距離が開く。
リアが言う。
「追跡距離外に出ます。
追って来ません。」
警報が止んだ。
静寂が戻る。
これまでブラッククラウンは、アルクの能力で特異な航路さえ見つければ、危機を切り抜けられた。
アルクが星間流を読む限り、不可能は無いとさえ思われた。
だが今回は違った。
帝国が本気で捕獲に動いたとき、逃げ道は残されていなかった。
星間流の読みだけでは突破できない状況が、はじめて現実として彼らの前に現れていた。
今回の離脱は奇跡ではない。
限界の中で選ばれた判断の結果だった。
そして判断だけでは、次も生き延びられる保証はなかった。
ブラッククラウンは無敵ではない。
それをクルー全員が、あらためて認識した。
ルナが座席に沈み込む。
「……助かった。」
少しして言う。
「アルクのあの力があっても」
笑う。
「どうにもならない時ってあるんだね。」
ガロンが言う。
「頼りすぎてたってことだ。」
腕を組む。
「俺たちはな。」
リアが静かに言う。
「ですが」
アルクの顔をチラッと見る。
「アルクの判断がなければ捕まっていました。」
アルクは何も言わなかった。
ただ前方の宙を見ていた。




