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黒冠のアルク ― 第一部完結/第二部・皇女編連載中 ―  作者: 久遠 恒 


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帝国の反応

第10章 帝国の反応


帝国軍同期統制艦アグリアス艦橋。

観測員が報告する。

「灯台同期……異常です。」

レイグナー中将が振り向く。

「異常?」

「はい。」

観測員が画面を拡大する。

辺境星域の灯台ネットワーク。

赤い停止表示が並んでいたはずの灯台が、次々に青に変わっていく。

副官が息を呑む。

「同期が回復しています。」

艦橋の空気が一気に重くなる。

レイグナーは画面を見つめた。

「原因は?」

観測員が答える。

「不明です。」

副官が言う。

「可能性としては統制キーによる再同期しか考えられませんが……。」

声がかすかに震えている。

「統制キーはこの艦にもあります。」

レイグナーは何も言わず、画面を操作する。

統制艦の内部ログ。

そこに表示されていた通信履歴。

不審なアクセス。

レイグナーの目が細くなる。

「……侵入されたか。」

副官が驚く。

「まさか。」

レイグナーが言う。

「ブラッククラウン……。」

艦橋が静まり返る。

副官が言う。

「しかし、統制艦のシステムに侵入など……?

異常なアクセスがあれば警報が……?」

レイグナーが遮った。

「見ろ。」

ログを拡大する。

短時間の接続。

暗号認証。

副官がけげんそうな顔で言う。

「防御を破られた?」

レイグナーは首を振る。

「違う。パスワードが通っている。」

副官が理解した。

「機密情報が……。」

レイグナーは小さくうなずく。

「情報を流した者がいる。」

帝国内の改革派。

この作戦に反対していた者たち。

副官が尋ねる。

「元帥に報告しますか?」

レイグナーは一瞬、考え、そして言った。

「するしかないな。」

通信員が帝国本星に回線を開く。

しばらくすると、ホロ画面にドライゼン元帥が現れた。

その顔は不機嫌だった。

「ケルバス。状況は聞いた。」

レイグナーは敬礼した。

「はい。」

ドライゼンの声は重い。

「灯台が動き始めたそうだな。」

レイグナーは答えた。

「統制キーが奪取された可能性があります。」

ドライゼンの表情が凍る。

レイグナーは淡々と説明した。

「短時間の通信侵入がありました。

 防御は破られていません。正規認証でした。」

ドライゼンの目が鋭くなる。

「機密情報が漏れたか。」

レイグナーは答えない。

だが否定もしない。

ドライゼンが気を取り直して言った。

「犯人は?」

レイグナーは答えた。

「ブラッククラウンと思われます。」

ドライゼンが小さく笑う。

「またあの船か。」

レイグナーが言う。

「追跡しますか。」

ドライゼンは少し考えた。

そして言った。

「止めておこう。意味はない。」

レイグナーがうなずく。

ブラッククラウン号は小型船。

そして星間流を読む。

この宙域での捕捉は無理だ。

ドライゼンが続けた。

「問題はキーだ。」

レイグナーが言う。

「航路中央管理局には最上位キーがあります。」

ドライゼンがうなずく。

「その通りだ。」

だが彼の表情は厳しかった。

レイグナーが言う。

「最上位キーを使えば灯台制御を再び奪還できます。」

ドライゼンはゆっくり言った。

「できる。」

そして続けた。

「だが……、

 簡単ではない。」

レイグナーも理解している。

灯台は各コロニーにある。

再同期には現地作業が必要。

つまり――

艦隊が必要。

ドライゼンが言う。

「辺境に陸戦隊を送れば、全面衝突になり、大規模な紛争となる。」

レイグナーは黙って聞いていた。

ドライゼンが続ける。

「改革派は反対する。官僚もだ。」

レイグナーが言う。

「今回の作戦も反対が多かった。」

ドライゼンの目が鋭くなる。

「だから成功させる必要があった。」

だが――

灯台は動き始めている。

作戦は崩れた。

ドライゼンは低い声で言った。

「……厄介な船だ。」

レイグナーが言う。

「ブラッククラウン。」

ドライゼンが言う。

「見つけろ。必ず。」

通信が切れた。

艦橋に静寂が戻る。

副官が言う。

「どうしますか。」

レイグナーは航路図を見た。

灯台。

青い光。

航路が戻っていく。

そして。

ブラッククラウン。

レイグナーは小さく言った。

「面白い。」

副官が驚く。

「閣下?」

レイグナーは航路図を見続けていた。

航路を読む船。

帝国の統制を破った船。

レイグナーは言った。

「次は逃がさない。」

辺境星域の灯台は、次々と同期を回復していく。

航路は戻る。

だが、帝国は諦めていない。

そして。

ブラッククラウンは――

帝国にとって、はっきりと敵になった。


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